問題3-4-1 解説

(1)質量 \(m\) の物体が東向きに走っている様子を,北極側から見た場合を左図に,子午面による断面を右図に示します.

北半球で東に運動する質点に働くコリオリ力

図で, \(\odot\) と \(\otimes\) はそれぞれベクトルの先端と後端を表します.ベクトル積 \(\boldsymbol{\omega}\times{\bf v}\) は角速度ベクトル \(\boldsymbol{\omega}\) から速度ベクトル \({\bf v}\) へ向かって右ねじを回した方向ですので,負記号の付いたコリオリ力 \(-2m\boldsymbol{\omega}\times{\bf v}\) はその反対向きで図のようになります.その大きさは, \[ 2m\omega v = 2\times 50\times\frac{2\times 3.14}{24\times 3600}\times\frac{100\times 10^3}{3600} = 0.202\ \mathrm{N}. \] となります.これは 1 kgf = 9.81 N として, 20.6 gf です.方向は,子午面内で鉛直真上から緯度と同じ角度だけ南に傾いた方向となります.

(2)コリオリ力の水平成分は図から南向きでその大きさは, \[ 2m\omega v\sin\varphi = 0.202\times\sin 30° = 0.101\ \mathrm{N}. \] これは 10.3 gf と小さな値ですが,コリオリ力はフーコーの振り子はもちろん,北半球の台風が左巻きになるなど,大気や海洋の現象に大きな影響を与えます.

補足:局地座標系での表現

局地座標系で見た東に運動する質点に働くコリオリ力の水平成分と鉛直成分

本文で示したように,自転の角速度ベクトル \(\boldsymbol{\omega}\) は考えている地点の鉛直線方向の成分 \(\boldsymbol{\omega}_1\) と子午面内にあって \(\boldsymbol{\omega}_1\) と直交する成分 \(\boldsymbol{\omega}_2\) に分解することができます.それらの角速度ベクトルの大きさは緯度 \(\varphi\) の地点では, \[ \omega_1 = \omega\sin\varphi, \quad \omega_2 = \omega\cos\varphi. \] となります.東向きに速度 \(v\) で運動する質点に働く,これらの角速度ベクトルで生じるコリオリ力の様子を局地座標系で見た見取り図として示します.この座標系では \(\boldsymbol{\omega}_1\) は天頂を向いており, \(\boldsymbol{\omega}_2\) は水平で北を向いています.そのため, \(\boldsymbol{\omega}_1\) と \(\boldsymbol{\omega}_2\) によるコリオリ力はそれぞれ南向きと天頂を向いた方向であることが分かります.それらを合成したコリオリ力の大きさは上の(1)で求めた値と同じとなり, \(\boldsymbol{\omega}_1\) による値は(2)と同じになります.

水平面内で任意の方向の速度ベクトル \({\bf v}\) については, \({\bf v}\) は \(\boldsymbol{\omega}_1\) に常に直交します.そのため \(\boldsymbol{\omega}_1\) によるコリオリ力は一定の大きさ \(2m\omega v\sin\varphi\) で,常に \({\bf v}\) に直角右向きであることが容易に分かります.一方, \(\boldsymbol{\omega}_2\) によるコリオリ力は \({\bf v}\) に東向き成分がある場合は上向き, NS 方向の場合はゼロ,西向き成分がある場合は下向きであることも容易に分かります.この \(\boldsymbol{\omega}_2\) による鉛直方向のコリオリ力が → 問題3-2-2で扱ったエトベス効果の原因です.測地学の分野では,航行中の船舶や飛行中の航空機における重力測定でこのエトベス効果の補正は重要です.しかし,気象学や海洋学の分野ではコリオリ力の鉛直成分は重力に比べて大変小さいために考慮されないことが多いようです.