Toys in the Attic ★★☆

1963 US
監督:ジョージ・ロイ・ヒル
出演:ディーン・マーティン、ジェラルディン・ペイジ、ウエンディ・ヒラー、イベット・ミミュー

左から:ウエンディ・ヒラー、ジェラルディン・ペイジ、ディーン・マーティン

Period of Adjustment」(1962)と並び、ジョージ・ロイ・ヒル最初期の監督作です。最初期の作品ということで、「Toys in the Attic」は、ジョージ・ロイ・ヒルの特徴よりも原作の舞台劇の作者であるリリアン・ヘルマンの特徴の方が顕著であるのかもしれません。主演は、ディーン・マーティンであると一応見なせますが、ディーン・マーティン主演と聞くとどうしても軽い作品であろうと想像する向きも多いことでしょう。しかしながら、当作品は極めてシリアスなドラマです。確かに、ディーン・マーティンは、いつものカジュアルなパフォーマンスをここでも繰り広げているとはいえ、彼が演じているキャラクターが置かれているシチュエーションはカジュアルどころではないのです。というのも、嫁さん(イベット・ミミュー)を連れてオールドミスの姉二人が住んでいる故郷に彼が帰ってくるところから始まるストーリーは、エモーショナルな色合いを次第次第に深め、悲劇的な状況に陥ってジエンドを迎えるからです。パワーハウスパフォーマンスが要求されるこのようなストーリー展開を持つこの作品の白眉は何と言っても、オールドミスの姉二人を演ずるジェラルディン・ペイジとウエンディ・ヒラーの究極のパフォーマンスでしょう。前者は、弟に近親相姦的願望を抱く所有欲の強い姉を、後者は理解力のある姉を演じており、二人の対照がジェラルディン・ペイジ、ウエンディ・ヒラーという二人の名女優のパフォーマンスを通してくっきりと際立たされています。ジェラルディン・ペイジは、ユング派心理学者エーリッヒ・ノイマン流の用語を用いれば、全てを貪り食う原初的な母親形象(ここでは母親ではなく姉ですが)の刻印を帯びた人物を際めて説得的に演じており、そのような彼女の言動や行動の全てが、最後に悲劇を生んでしまうのです。これに対し、ウエンディ・ヒラーは、同じくノイマン流にいえば、アリアドネ的な女性を思わせる昇華されたイメージを持つ人物を演じており、ジェラルディン・ペイジ演ずるもう一人の姉がもたらす混沌状況からの抜け道を、アリアドネの糸のごとくそれとなく弟に示唆します。原作が、リリアン・ヘルマンという女性劇作家の手になるものであることもあってか、たとえばテネシー・ウィリアムズの舞台劇などにしばしば見られる、不均衡な人間関係を描くことに終始する展開につきもののアクの強さとはやや趣の異なる新鮮さがあります。また、ジェラルディン・ペイジとウエンディ・ヒラーの他にもイベット・ミミューやジーン・ティアニーなどの女優さんも出演しており、主演はディーン・マーティンであるとはいえ、注目はやはりこれら4人の女優さん達に集まらざるを得ない側面があります。映画版は、評価がそれほど高くはなく、また原作の演劇的な要素が色濃く残っている印象を全体的に受けますが、対照的な心理機制を持ち合わせる二人の女性を巡る心理劇として見れば、なかなか面白い作品ではないかと個人的に思っています。


2002/12/28 by 雷小僧
(2009/03/02 revised by Hiroshi Iruma)
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