A Study in Terror ★★★

1965 UK
監督:ジェームズ・ヒル
出演:ジョン・ネビル、ドナルド・ヒューストン、アンソニー・クエイル、ロバート・モーレー

左:ジョン・ネビル、右:ドナルド・ヒューストン

シャーロック・ホームズ対ジャック・ザ・リッパーという架空の対決を題材としたシャーロック・ホームズものの映画です。シャーロック・ホームズもの映画といえば、どういうわけか内容がひねくられたものの方が多く、たとえば「シャーロック・ホームスの素敵な挑戦」(1976)やビリー・ワイルダーの「シャーロック・ホームズの冒険」(1970)でのヤク中(実際にコナン・ドイルがそのように描いているのも確かですが、それが殊更強調される)、「They Might Be Giants」(1971)でのパラノイア患者、果ては「迷探偵シャーロック・ホームズ/最後の冒険」(1988)でのアホ役者まで、映画の中では、随分とけったいなシャーロック・ホームズがバリエーションも豊かに登場します。それに対して、ここに取り上げる「A Study in Terror」でのシャーロック・ホームズは、正真正銘混ざり気なしの正統派シャーロック・ホームズであると見なせるでしょう。とはいえ、純粋なシャーロッキアンからすれば、シャーロック・ホームズというフィクション要素と、ジャック・ザ・リッパーというノンフィクション要素が混淆するこの作品も、とても正統的とは見なせないということになるのかもしれません。監督はジェームズ・ヒルですが、名前を聞いておやと思った人がいるかもしれません。というのも、彼は、動物映画の最高傑作の1つである「野生のエルザ」(1966)の監督であり、他にも幾つかの動物映画を監督していますが、それらの動物映画を監督する以前に、「A Study in Terror」のようなホラーに近い暗く凄惨な作品を撮っていた事実に必ずや驚かされるであろうからです。とはいえ、「A Study in Terror」では、ビクトリア朝時代の雰囲気が見事に捉えられ、ジャック・ザ・リッパーのような歴史的な人物が登場するストーリーを語る際、バックグラウンドとそれが醸し出す雰囲気が時代に見合ったものであるか否かがいかに重要であるかがよく分かります。殊に、夜間のロンドンの裏町の路地裏の風景など実に見事に捉えられています。主演の二人は、有名な俳優であるとは言い難いところがあり、むしろサポートのアンソニー・クエイル、ロバート・モーレー、セシル・パーカーの方が知られていますが、特定の俳優への先入観にわずらわされることがないだけに、その方がかえって効果的であり、いかにも本物らしい雰囲気が伝わってきます。Mick MartinとMarsha Porterの「Video Movie Guide」には、「ジョン・ネビルは素晴らしいホームズであり、ドナルド・ヒューストンは恐らく映画史上最高のワトソンであろう(John Neville is an excellent Holmes. And Donald Houston is perhaps the screen's finest Dr. John Watson)」とすら評されています。また、最近の007シリーズでジェームズ・ボンドの上司M役を演じ、「恋におちたシェイクスピア」(1998)や「ショコラ」(2000)などにも出演しているジュディ・デンチの若い頃のパフォーマンスを拝めるのも1つの特典です。元来舞台俳優であることもあってか、彼女の映画出演は最近になるまで極めて少なく、007のM役などでも若干その面影が残っているようにかつては童顔のかわい子ちゃんタイプであったにもかかわらず舞台では長い間名声を博し、演技に関しては折り紙付きでした。実際に、ここ数年の映画出演ラッシュやオスカー受賞よりもはるかに以前からDameの称号を持っていました。ということで、当作品に関する海外での評価は極めて高く、確かにジャック・ザ・リッパーの残虐な行為を、家名を守る為の所業に還元するストーリー展開には疑問を感じざるを得ないものの、その雰囲気は、必ずやオーディエンスを魅了するはずであり、ジャック・ザ・リッパーものを含め、ビクトリア朝期イギリスに舞台が置かれた作品の中では最も素晴らしいものの1つとして評価できます。


2001/12/08 by 雷小僧
(2009/03/08 revised by Hiroshi Iruma)
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