The Mark ★★★

1961 UK
監督:ガイ・グリーン
出演:スチュワート・ホイットマン、マリア・シェル、ロッド・スタイガー、ブレンダ・デ・バンジー

左:マリア・シェル、右:スチュワート・ホイットマン

イギリス出身のガイ・グリーンが監督した映画は、カラー(アメリカ映画が多い)の場合には出来がイマイチであるのに対して、ここに取り上げる「The Mark」や「いつか見た青い空」(1965)のように白黒作品の場合には見るべきものがあります。人間の微妙な心理を扱うドラマを描くに巧みであったように思われ、「いつか見た青い空」では繊細なタッチが光っていたのに対して、「The Mark」ではむしろ心理的な苦悩が真摯なタッチで描かれています。カラー作品を手掛けるとイマイチになる監督は結構いるもので、たとえばジョン・フランケンハイマーなどがその口ですが、カラー作品の場合には、色調の統一などの新たな要素を考慮しなければならないがゆえに、自分の得意な面に集中できなくなるからでしょうか。「The Mark」は、一言でいえば犯罪者の更正の物語であり、少し変わっている点は、主人公(スチュワート・ホイットマン)には、犯罪は犯罪でも最も最低なものの一つであると一般には考えられている児童虐待(child molesting)の前科があることです。そのような前科を持つ主人公は、世間から白い目で見られるのを常に恐れながら暮らしているのです。「The Mark」では、主人公は勿論のこと、そのような主人公を何とかサポートしようとする周囲の人物達(マリア・シェル、ロッド・スタイガー)のキャラクタースタディが実に説得的に描かれています。類似のテーマを扱った70年代以降のシニカルな作品とは異なり、「The Mark」はハッピーエンドで終わりますが、各人物のキャラクタースタディが徹底されていなければ、テーマがテーマであるだけに、そのような展開は、都合のよさばかりを際立たせる結果になりかねません。けれども、この作品からそのような印象を受けることは全くありません。テーマにも関わらず敢えて肯定的な結末を恐れる必要がない程キャラクタースタディがしっかりしているとすら言えるかもしれません。その点において、主人公を演じているスチュワート・ホイットマンもいつもの彼のイメージからすれば悪くはありませんが、それ以上にサポート役が素晴らしい。ドイツ出身のマリア・シェルは、このタイプの微妙な感情表現が必要とされるヒューマンドラマでは殊に光る人で、神秘的ではあれども人を寄せ付けないゲルマン女性というマレーネ・ディートリッヒに代表されるクリーシェ的なイメージを見事に払拭してくれます。目を見ているだけでも、感情表現が余すところなく伝わってくるほどです。また、ロッド・スタイガーは、ここでは珍しくヒューマンな役割をストレートに演じています。ご存知のように彼は、一癖も二癖もあるキャラクターを演ずる方が似合っているとはいえ、ここでは包容力のある人物をいつもの彼の独自性を見失うことなく見事に演じています。このような主演俳優達の好演もあって、「The Mark」は、ドラマ映画として実にしっかりした作品に仕上がっており、お薦めの作品です。殊にマリア・シェルファンには必見の作品でしょう。


2002/03/02 by 雷小僧
(2009/02/12 revised by Hiroshi Iruma)
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