予期せぬ出来事 ★☆☆
(The V.I.P.S)

1963 UK
監督:アンソニー・アスキス
出演:リチャード・バートン、エリザベス・テイラー、ルイ・ジュールダン、マギー・スミス

左:ルイ・ジュールダン、右:エリザベス・テイラー

同語反復的な言い方をすると、この手の作品は、面白い人には面白いけれども、面白くない人には全く面白くないはずです。何しろ、霧に閉ざされたロンドン空港で、霧が晴れ飛行機が飛べるようになるまでの間、様々な人生ドラマを背景に持つ乗客達が小さなドラマを繰り広げる様子を描くだけという作品であり、ロンドン空港というパブリックな空間に舞台が設定されてはいても、本質的には室内劇と何ら変わるところがありません。殊に、昨今このタイプの映画は全く流行らないので、最近の映画を見慣れたオーディエンスが動きのほとんどないこのような作品を見ると、途中でアストラル界をさ迷うこと必至でしょう。しかし、一旦ハマってしまうと、このタイプの会話重視映画には麻薬のような中毒性があります。自らこの手の映画の中毒患者を自認する人には、「予期せぬ出来事」にはそれなりの価値があるはずです。会話以外にはいわば実体がない作品である上、メイン・フォーカスはリチャード・バートン+エリザベス・テイラーの昼メロ的な不倫話にあり、この手の作品の最高峰であるとは決して見なし得ないとはいえ、会話の細かなニュアンスを堪能する楽しみは映画鑑賞の醍醐味の1つであると考えている御仁にとっては、殊に会話重視の作品が70年代以後急激に稀少化することを考え合わせると、「予期せぬ出来事」がそれなりに貴重な作品であることには間違いがないはずです。リチャード・バートン+エリザベス・テイラーの他、ロッド・テイラー+マギー・スミス、オーソン・ウエルズ+エルザ・マルティネリ、及びこの作品でアカデミー助演女優賞に輝くマーガレット・ルザフォードが、時にシリアスな、また時にコミカルなドラマを繰り広げています。イギリス映画らしく雰囲気がいかにも渋く、また、ベースはそうでありながらも、オーソン・ウエルズやマーガレット・ルザフォードらのコミカルなパフォーマンスによるユーモアの隠し味が、ほどよく効かせてある点にバランスの良さが感じられます。ミクロス・ローザの音楽は、この人らしくいかにも大袈裟ですが、それもまた魅力の一つかもしれません。監督のアンソニー・アスキスは、かつてイギリス首相であったアスキス卿の息子であり、女優ヘレナ・ボナム・カーターの大叔父にあたります。50年代に、「The Browning Version」(1951)及び「The Importance of Being Earnest」(1952)という極めて評価の高い作品を監督しており、それに比較すると「予期せぬ出来事」の評価はお世辞にも高いとはいえません。しかし、これは比べる相手が悪いと言う方が正解というものです。


2001/08/12 by 雷小僧
(2008/10/24 revised by Hiroshi Iruma)
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