The Importance of Being Earnest ★★★

1952 UK
監督:アンソニー・アスキス
出演:マイケル・レッドグレーブ、マイケル・デニソン、ジョーン・グリーンウッド、ドロシー・テュティン

左:ドロシー・テュティン、右:ジョーン・グリーンウッド

恐ろしく大袈裟な言い方をすると、理想のコメディがあるとすれば、「The Importance of Being Earnest」は間違いなくその1つではなかろうかと考えています。コメディとは、難しいことを考えずに思い切り腹を抱えて笑える作品のことであると言われそうですが、チャップリンにしろ、ボブ・ホープにしろ、ジェリー・ルイスにしろ、スティーブ・マーティンにしろ、エディ・マーフィにしろ、彼らの出演作品は、少なくとも個人的には理想的なコメディとはどうも少し違うイメージがありました。勿論、コメディには、たとえばスラップスティックコメディあり、ロマンティックコメディあり、ブラックコメディありと様々な亜種があり、十羽ひとからげに扱えないことは確かです。しかしながら、元型的なおとぎ話や民話が存在するのと同じように、元型的な理想状態のコメディがあってもよかろうと考えていたのです。そう考えると、腹を抱えて笑える度合いが高いほど、よりコメディ的であると言い切れるかと問われれば、どうもそれは少し違うのではなかろうかと思っていました。とはいえ、それではどのようなコメディがより理想的だと考えられるかと問われても、イマイチ具体的なイメージが湧きませんでした。しかし、「The Importance of Being Earnest」を見た瞬間、これぞまさしく理想的なコメディとして捜し求めていたものだと気付いたのです。「The Importance of Being Earnest」は、オスカー・ワイルドの戯曲の映画化であり、一語一語つき合わせたわけではありませんが、ほとんど原作とセリフは変えられていないようです。個人的に読んだワイルドの戯曲の中でも、最も軽妙洒脱な作品が「The Importance of Being Earnest」であり、オスカー・ワイルド特有の捻りの効いた箴言が連発されるこの戯曲のエッセンスが映画化バージョンでも決して失われることはなく、ペースといい、軽妙洒脱さといい、これぞコメディと呼べる不思議な魅力があります。確かに腹を抱えて笑えるシーンや思わず吹き出すギャグなどただの一つも存在しませんが、そのようなあからさまな笑いだけがコメディではないことがこの作品を見ているとよく分かります。たとえば、リボンシトロンの泡のように軽快に跳ねまわる会話の流れ、どうだ面白いだろうと言わんばかりのこれ見よがしのわざとらしいギャグを連発するのではなく瀟洒な会話の流麗なペースを乱さない中での軽妙洒脱な言い回し、いかにも才気に満ち溢れたウイット(IMDbの当作品の項目には、いきなフレーズを集めた特別なコーナーがあるのでご参照下さい)、これらの要素がうまく噛み合った時、そしていわば飛翔の現象学とも呼べる理想的な軽さが見事に再現された時(現在の語感からいえば「軽い」とは中身が何もないという意味にも取られ兼ねませんが、そうではなく存在様式そのものの身軽さがもたらす精神の自由さ快活さというような意味における軽さを指します)、そのコメディは理想的なコメディと呼べる作品になるのであり、まさにそれが「The Importance of Being Earnest」なのです。それにしても、出演している役者が実に素晴らしく、マイケル・レッドグレーブ、マイケル・デニソンなどの野郎組に加え、シシリーとグエンドリンを演ずるドロシー・テュティンとジョーン・グリーンウッドが実に軽快にはじけていて、ワイルドの作品の中でも最も軽快なペースを持つ戯曲を原作とするコメディに、これ以上ないほど見事にフィットしています。殊に、喋ったと同時にリボンシトロンの泡のように消えてなくなりそうなドロシー・テュティンのハイピッチな声と、あたり一面のあらゆる物体と共鳴現象を起こしそうなジョーン・グリーンウッドの低い声の対照が極めて印象的です。また、イーディス・エバンスとマーガレット・ルザフォードという老獪な曲者女優が脇を固めているところが、また素晴らしい。加えて、衣装及びインテリアがオーディエンスの目を必ずや惹くはずであり、殊に室内シーンでは、小物に至るまでのあらゆる舞台装置が計算し尽くされたかのように精密に配置されている印象を受けます。いずれにしても、「The Importance of Being Earnest」は絶対的なお薦めであり、個人的にも一生を通じて見続ける作品の1つであることに間違いはありません。


2002/08/31 by 雷小僧
(2008/12/23 revised by Hiroshi Iruma)
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