太ももに蝶 ★★☆
(I Love You, Alice B. Toklas)

1968 US
監督:ハイ・アバーバック
出演:ピーター・セラーズ、リー・テイラー-ヤング、ジョイス・バン・パタン、ジョー・バン・フリート

手前:リー・テイラー−ヤング、奥:ピーター・セラーズ

いかにもヒッピー文化全盛の頃に公開された作品であるかの印象を受けます。このタイプの作品は、60年代後半においてしかまず出現し得なかったのであり、内容が面白いか否かはさておき、時代の特徴がうまく表現されている点においてのみでも貴重な存在です。このようなカウンターカルチャー的なテーマを扱った作品として、他には「ボブ&キャロル&テッド&アリス」(1969)を取り上げましたが、そちらではどちらかというとインテリ的なハンドリングが目立っていたのに対し、こちらはピーター・セラーズ主演ということから考えても分かる通り、内容的にはかなりハチャメチャな様相が濃い作品です。製作・脚本は「ボブ&キャロル&テッド&アリス」の監督でもあったポール・マザースキーが担当しており、当時の彼はきっとカウンターカルチャー的なテーマに関心があったのでしょう。原題は「I Love You, Alice B. Toklas」であり、最初は何のことなのかさっぱり分かりませんでした。どうやら、Alice B. Toklasとは作品中でリー・テイラー−ヤングが作るチョコレートケーキのような菓子を指していることが分かりましたが、実はこの菓子にはLSDのようなドラッグが調合されていて、そうと知らないで食べたピーター・セラーズやジョー・バン・フリート、ジョイス・バン・パタン達が思い切りラリってしまうのです。このシーンは、なかなかケッタイで可笑しいですね。ビデオのパッケージには、この菓子はゲルトルード・スタインの友達アリス・B・トクラスによって考案されたレシピに従って作られたとあるので、どうやらこの菓子及びAlice B. Toklasという人物は実在したということのようです。また、ピーター・セラーズがサイケデリックに塗装された車に棺桶を乗せて葬儀場から墓地へ向かうシーンや、ジョイス・バン・パタンと婚約したピーター・セラーズが結婚式場から二度までも逃走するシーンなどこの作品には他にも数多くのケッタイなシーンが散りばめられています。要するに葬式や結婚式などの伝統的な儀式が茶化しの対象になっており、そこにはカウンターカルチャーのカウンターたる由縁を存分に見て取ることができます。全体的な印象としてストーリー的なストーリーはほとんど存在せず、当時のヒッピー文化を面白可笑しくスクリーン上で再現してみようという意図で製作された作品であるように見受けられます。エルマー・バーンスタインの音楽を含め、60年代の後半という狭い期間でしか製作が可能でなかった作品であり、時代考証的価値が少なからず存在する作品だと見なせます。クラシック映画が普遍性で輝くのとは対照的に、このタイプの映画は時代時代に固有の価値で輝くと言えばさすがに言い過ぎでしょうか?


2002/12/14 by 雷小僧
(2008/11/09 revised by Hiroshi Iruma)
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