ひとりぼっちの青春 ★★☆
(They Shoot Horses Don't They?)

1969 US
監督:シドニー・ポラック
出演:ジェーン・フォンダ、マイケル・サラザン、スザンナ・ヨーク、ギグ・ヤング、レッド・バトンズ

左:マイケル・サラザン、右:ジェーン・フォンダ

「ひとりぼっちの青春」を監督したシドニー・ポラックは、60年代の末に2本の風変わりな作品を手掛けています。すなわち、分裂症的ともいえる「大反撃」(1969)と当作品です。それ以前及びそれ以後の作品においては、正統派ハンサムボーイであるロバート・レッドフォードを主演に起用することが多かったことからも分かるように、当時のスタンダードを大きく逸脱した革新的な作品はほとんどなく、1969年に公開された2本の作品が突然変異のように見える程です。けれどもエキセントリックとも見なせる両作品には、スタンダードでまともな作品には見出せない独特な魅力があり、個人的には嫌いではありません。但し、誰が見ても面白いかと問われれば、「no」と答えざるを得ないところがあります。「ひとりぼっちの青春」に関しても、最初に見た時は「何じゃこりゃ?」と思った記憶があります。何しろ、2時間に渡りダンスマラソンなどという大恐慌時代にはやったケッタイなイベントばかりを見せられ続けるのです。しまいには、休憩時間が終わりダンスマラソンが再開する時に鳴るブザーの音が耳について、あたかも、冬の寒い朝、目覚し時計がリンリン鳴って「ああ今日も出勤か」とゲッソリするのにも似たブルーな気分にさせられる程までになります。勿論、作品内容にゲッソリさせられるというわけではなく、疲れているにも関わらずブザーの音とともにダンスを再開しなければならない主人公達のゲッソリ感が、ブザーの音によって見事に表現されている為に、見ているこちらまで同様な気分が味わえるということです。殊に、時間が経つにつれ、主人公達の容貌がボロボロになっていく様子を示すメイクは特筆ものです。要するに、ダンスマラソンに参加する登場人物に感情移入することを通して、しつこいブザーの音が、オーディエンスにもパブロフの犬的効果をもたらすようになるのです。何度か見て気が付いたのは、恐慌時代に舞台が設定された「ひとりぼっちの青春」は、当時の絶望感或いは空虚感が、ダンスマラソンという奇妙なイベントを通じて見事に表現されていることです。勝者には1500ドルという賞金が支払われるのは確かですが、一体何の為に踊り続けるのかよくよく考えてみると、1カップルしか貰えない賞金目当てというよりも、むしろ踊り続けざるを得ないから踊るということであるように思われます。まさにそれ故、誰が勝者であるかを示す意図など最初から全くなかったがごとく、作品がジエンドを迎えてもダンスマラソンは果てしなく続くのです。ダンスマラソンという、いつ果てるともしれないマゾヒスティックな責め苦に身を委ねる主人公達の振る舞いを通じて、恐慌時代という出口の見えないトンネル、というよりも最終的には第二次世界大戦の真っ只中に突入していくトンネルをさ迷う、どうしようもない程に疲弊した時代の様相が、アナロジカルに表現されているのです。いつ果てるともしれぬあてどもない浮遊、あてどもない浮遊といえども誰にも拘束されない自由な飛翔などでは全くなく、閉塞された空間内のどこにも収斂しないランダムで希望のないブラウン運動のような人々の動揺した感情の揺れが、「ひとりぼっちの青春」の1つの大きなテーマなのです。そのような出口の見えない逼塞感によって、シニカルな主人公(ジェーン・フォンダ)は、最後にはパートナー(マイケル・サラザン)の幇助を得て自殺して果てるのです。彼女は、作品に登場する人物の中では、競技の主催者兼司会者(ギグ・ヤング)に次いで自殺などしそうにないキャラクターに見えるが故に、ラスト近くのこのシーンには相当なインパクトがあります。また、それは同時に恐慌時代という悲惨なエポックがどのような時代であったかを示唆してもいるのです。ダンスマラソンに一番勝利したかったのは、心臓発作で死にかかった輩(レッド・バトンズ)を引きずってまでも競技に執着した彼女であり、それは勿論賞金目当てではなく、自己証明としてであり、それが主宰者の工作によって砕かれた時に、出口のないトンネルが真に出口がないことに思い当たり、最後に残された究極の出口の扉を開いてしまったということでしょう。最期に付け加えておくと、ギグ・ヤングは、当作品でアカデミー助演男優賞を受賞しますが、およそ10年後に彼自身自殺して果て、何とも奇妙な気分にさせられます。


2004/12/25 by 雷小僧
(2008/11/11 revised by Hiroshi Iruma)
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