潮風とベーコンサンドとヘミングウエイ ★★★
(Wrestling Ernest Hemmingway)

1993 US
監督:ランダ・ヘインズ
出演:リチャード・ハリス、ロバート・デュバル、シャーリー・マクレーン、パイパー・ローリー


<一口プロット解説>
フロリダのある田舎町の公園で、二人の孤独な老人(リチャード・ハリス、ロバート・デュバル)がふと出会う。

<雷小僧のコメント>
私目がE-メイル通をしている人の一人に、パナマで舞台監督をしている人がいるのですが、この人は、個人的にこの映画の監督をしているランダ・ヘインズ(女性です)を知っているようで、聞くところによるとヘインズは非常に上品且つ優雅(皮肉的な意味ではないですよ)な人だそうです。実際この映画の中で、ロバート・デュバルがサルサのようなダンスを踊るシーンがあるのですが、どうやらこれはこのパナマ氏がヘインズに伝授したもののようです。
さて、この映画は一般的にあまり高くは評価されていないようですが、私目は90年代のドラマ映画(と言ってもドラマチックなシーンはないのですが)としては、ベストの1つであると思っています。監督が女性であるからかもしれませんが、後で述べるようにちょっと他の映画とは違った雰囲気がこの映画にはあるのですね。そういう意味で、この映画に対する女性の感想が聞きたいのですが、メジャーな映画ではないので今のところこの希望はかなえられていません。女流監督といえば、たとえばエレン・メイやペニー・マーシャル等の映画を見ているとたまにああこれは男だったらこうはしないだろうというような表現をすることがあり、それが私目などから見ると正直言ってこれはちょっと勘弁してほしいなという感じがすることが時々あります。このヘインズの場合はそういう点は余り感じられないのですが、やはり男の監督とはちょっと違うような何かがある気がしますね。
この映画の主要登場人物は、ほとんど年老いた人々たちばかりであり、それを演じるのは、リチャード・ハリス、ロバート・デュバル、シャーリー・マクレーン、パイパー・ローリーというまあ言ってみれば超ベテラン俳優達ばかりです。この4人が軸になってストーリーが展開していくのですが、実を言えばストーリーらしきストーリーはないのですね、この映画には。まあ、この4人プラス若手代表サンドラ・”スピード”・ブロックの係わりあいを描写することがこの映画のストーリー展開のメインになっており、あまり凝ったストーリーはないと言ってもよいでしょう。ハリスは、かつて作家のヘミングウエイとレスリングをしたことがあるというのが一番の自慢話であり、デュバルは毎日レストランでサンドラ・ブロックが作ってくれるメニューにはないベーコンサンドウィッチを食べるのが日課という生活を送っています。これに、ハリスの下宿屋の女主人であるシャーリー・マクレーンと、いい年をしたハリスが映画館でしきりにちょっかいを出すパイパー・ローリーが加わるわけですが、皆同じ程度に年老いており、又同じ程度に孤独なわけです。この映画を見ていて気がつくのは、この4人が他の町の人々から随分と浮上がって見えるということです。それは、単純に彼らが主要登場人物であるからという理由だけによるものではないように思います。何故なら、もう一人の主要登場人物であるサンドラ・ブロックはそのようには見えないからです。実際、ハリス及びデュバルと町の生活の唯一の接点となっているのがこのブロックであり、ブロックにそんなものは体に悪いと諭されながらもデュバルが毎日ベーコンサンドイッチを注文し続けるのは、このブロックとのチャネルが切れると完全なる孤独に陥ってしまうことに彼が薄々気付いているからであろうと思います。まさに、ブロックに諭されたいが為にこの人はベーコンサンドを注文し続けているのではないでしょうかね。
以上述べてきたように、基本的にこの映画のテーマは、誰がどう見ても老いと孤独ということになると思うのですが、面白いことに太陽が照映えてオレンジ色に輝くフロリダを舞台にしてこの映画はそれを敷衍する訳です。フロリダだから実に明るいのですね。アメリカ映画には、よく南部の沼地地帯の陰惨な風景を利用して、孤独且つ陰惨な生活を描こうとしているものがありますが、この映画は全く逆なのですね。ところが、それだけに一層、彼らの孤独・寂寥感というものが周囲との対比によって鮮やかに浮き立っているように思われます。この辺が、どうも男の監督とは違うなという気がします。ストレートに陰惨さを出さないようにして、実は裏口から強烈な孤独感をすべり込ませてしまうなどという手口は、男の監督であれば余りやらないんではないでしょうかね(そんなことはないかな?)。まあ、他にもたとえば、デュバルが自分のアパートでタンゴの練習をしているシーンだとか、大の男2人が町の中でタンデムの自転車を乗り廻すシーンだとかは、どうでしょうかね。やはり、タッチが女性的だなというような気がします。けれども、そういうタッチがまた逆にハリスやデュバルの置かれている状況を際立たせているという点において、この映画には他の映画にはない独特の味があるように思います。
最後に一言、今となってはまさかリチャード・ハリスやシャーリー・マクレーンのファンだと名乗る人は余りいないかもしれませんが、少なくともサンドラ・ブロックのファンであると名乗る人は、是非ともこの彼女の初期の映画を御覧下さい。彼女の気立ての良さがこの映画でもよく分かりますね。

1999/04/10 by 雷小僧
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