誰が私を殺したか? ★★☆
(Dead Ringer)

1964 US
監督:ポール・ヘンリード
出演:ベティ・デイビス、カール・マルデン、ピーター・ローフォード、ジーン・ヘイゲン

上:双子の姉妹を演ずるベティ・デイビス

60年代のベティ・デイビスといえば、ホラー映画などのB級作品への出演が多かったことはご存知の通りであり、ホラー映画ではないとはいえ「誰が私を殺したか?」も明らかにその範疇に入る作品です。邦題は、60年代の彼女の作品の中では最も成功した「何がジェーンに起こったか?」(1962)を明らかに意識したものと思われますが、内容はこの有名なロバート・アルドリッチ監督作とは全く関係がありません。しかも、DVD版の音声解説にあるように、「誰が私を殺したか?」は、それなりにスターが揃っているとはいえ低予算での製作が意図されていたようであり、全体的にTVM的に小さく纏まり過ぎている印象を受けざるを得ません。とはいえ、ベティ・デイビスが双子の姉妹(すなわち一人二役)を演ずるこの作品は、殊に彼女のファンには、その点において興味がそそられるのではないかと考えられます。双子の姉妹の片方が金持ちの他方を殺し、自分がさも後者であるかのように見せかけ悠々自適の生活を始めるけれども、やがてほころびが次々に現れ始めるというサスペンススリラー調のストーリーが展開されます。ベティ・デイビスは過去にも双子の姉妹を演じたことがあるようですが、「誰が私を殺したか?」でも二人のベティ・デイビスが同時に登場するシーンがあり(上掲画像参照)、彼女のファンは二倍楽しめるかもしれません。これは必ずしも冗談ではなく、いくら編集のトリックとはいえ、顔は瓜二つでもパーソナリティが全く異なる二人の人物を同一フレーム内で演じ分けねばならないので、ベティ・デイビスのtour de forceパフォーマンスに多くが依存せざるを得ず、それだけに彼女の演技を二倍楽しめるわけです。勿論、押し出しの強い彼女のことであり、ベティ・デイビス色が二倍に濃縮され、かなりクセのある作品と化していることも付け加えておかねばなりません。60年代以降の彼女の出演作の多くでは、そのようなクセがいびつにデフォルメされて強調され、それが彼女が出演するB級映画の1つの特徴ともなっていたことも間違いがなく、要するに、「何がジェーンに起こったか?」で成功した彼女のパーソナリティを更に誇張しながら利用することによって、オーディエンスを釣ろうとする意図がそれらの作品ではミエミエでした。そのような特異体質を持つ作品は、膚が合わないオーディエンスには敬遠されるのが当然であるとはいえ、「誰が私を殺したか?」に関してのみいえば、それ以上にストーリー展開に妙味があり、当時のベティ・デイビスのパーソナリティが「too much」であると感ずるオーディエンスでもそれなりに楽しめるはずです。また、脇役が揃っていて、カール・マルデン、ピーター・ローフォード、ジーン・ヘイゲン、エステラ・ウインウッド、加えて名前は知りませんが、ジョン・ヒューストンの「イグアナの夜」(1964)でデボラ・カーの祖父の詩人を演じていた俳優さんなど、アクの強いベティ・デイビスの影に隠れてしまうことのない独自のパーソナリティを持った俳優さん達が数多く出演しており、このサスペンススリラー作品をベティ・デイビスの特異な才能に全面的に依存した単なる見せ物興業的な作品に終わらせていないところに好感が持てます。ベティ・デイビスの一人二役というウリは、一方で彼女のファンには受けても、他方でそうでない人にはチープな見世物のように見える可能性があることを考えれば、ストーリー展開の妙味やサポート役の好演などによって結果的にそのような陥穽に落ちていない点は高く評価されるべきでしょう。ということで、勿論この手の作品が傑作たり得るとは考えられもしませんが、決して見て損はない作品であり、個人的には「何がジェーンに起こったか?」(1962)以降の60年代の彼女の作品の中では最も面白いものであると評価できます。


2004/11/13 by 雷小僧
(2008/10/25 revised by Hiroshi Iruma)
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