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ウォルター・マッソーは、ご存知のように極めて独特なキャラクターを持った俳優さんであり、いかなるジャンルの作品にもマッチするようには思えないところがあります。６０年代前半までは悪役がほとんどで、最も典型的なのがオードリ・ヘプバーン演ずるヒロインを騙して大金をせしめようとする「シャレード」（１９６３）での悪漢でしょう。しかし、６０年代の後半から今度はコメディへの出演がメインになり、独特な風貌を生かしたコミカルなキャラクターを演ずることが多くなります。コミカルなキャラクターといっても、たとえばピーター・セラーズのようなあからさまなコメディパフォーマンスを披露することはなく、外見こそいつもむっつりしていながら、それでいてユーモラスな雰囲気を発散させることのできる他には見当たらないタイプの希有なキャラクターアクターとして活躍します。しかし、そのような経歴を持つ彼が７０年代前半に２度ほど刑事を演じてます。それは、「サブウェイ・パニック」（１９７４）とここに取り上げる「マシンガン・パニック」においてです。けれども、スマートさとは全く縁がないウォルター・マッソーが扮する刑事とは何とも滑稽そうに思えます。殊に「マシンガン・パニック」は、後述するようにドキュメンタリー色が濃く、いかにも７０年代の作品である雰囲気の濃い作品なので余計にアンマッチであるような印象を受けます。しかも、ウォルター・マッソーの相棒を演じているのが、これまた極めてアクの強い俳優さんであるブルース・ダーンです。ニール・サイモンがわざわざウォルター・マッソーの持つキャラクターに合わせて主人公の一人をあつらえた「おかしな二人（Odd Couple）」（１９６８）という作品がありますが、ウォルター・マッソー＋ブルース・ダーンというコンビもまさにOdd Coupleであり、下手をするとドキュメンタリータッチを醸し出すことが意図されている作品の雰囲気を二人して破壊する危惧すらあります。けれども予想に反して、意外といえば意外なことに「マシンガン・パニック」では二人は作品によくマッチしていて、当作品を見るといつも、ウォルター・マッソーは意外に作品の特質の違いに巧みに対応できる俳優さんなのかと考え直させられます。前述の通り、「マシンガン・パニック」は刑事もの映画ですが、ドキュメンタリータッチが強調されています。確かに冒頭の市バスの中での無差別銃撃シーンには、派手で扇情的な印象を受けざるを得ませんが、その後はウォルター・マッソーとブルース・ダーン演ずる刑事達が地道に捜査を繰り広げる様子が緻密に描かれており、７０年代以後増えるアクション色の濃厚な刑事もの映画とは明らかに一線が画されています。その一方で、６０年代やそれ以前の刑事もの映画とも異なり、ポン引き、ストリップ劇場、おかまバーなどのような奇矯でリアルなロケーションがそこかしこに散りばめられ、華やかに見える都会の片隅の中にある華やかならざる部分（人によってはそのような部分こそ華やかであると思うかもしれませんが）をリアルに拡大境でクローズアップして捉えるかの様相があります。すなわち、「マシンガン・パニック」では、必ずしも主人公の刑事達という人物にのみスポットが当てられているわけではなく、都会の裏側という場所を描くことが１つの焦点にもなっているのです。であるからこそ、余計にウォルター・マッソーやブルース・ダーンのようなアクの強いキャラクターアクターが作品全体の雰囲気を破壊するのではないかとするいらぬ心配が生まれるわけですが、むしろ彼らはいつもより控え目に演技しているようでもあり、その心配は杞憂に終わるはずです。最後に付け加えておくと、今だになぜ「The
Laughing Policeman」（邦題でも「笑う警官／マシンガン・パニック」とされているケースがあります）というタイトルが付けられているのか分かりません。全く笑いとは縁がないように思われますが・・・・（※）。
※邦題につられてそのような疑問を長く持っていましたが、よくよく考えてみるとこの場合の「laughing」とは、「That's not a laughing
matter（笑い事ではない）」という場合の「laughing」すなわち「laughable」に近く、policemanはlaughingの意味上の主語ではないということでしょう。原作を読んだことがないので確かなところは分りませんが、本来は「笑うべき警官」とでもするべきでしょうか？（2007/12/12記）