おかしな二人 ★★★
(The Odd Couple)

1968 US
監督:ジーン・サックス
出演:ジャック・レモン、ウォルター・マッソー、ハーバート・エデルマン、ジョン・フィードラー



<一口プロット解説>
妻に離婚された潔癖症のフィリックス(ジャック・レモン)は、彼のポーカー仲間の一人で同じように妻に離婚されたずぼらなオスカー(ウォルター・マッソー)の住むアパートに居候するようになるが、性格が180度異なる彼らはことあるごとに喧嘩をするようになる。

<雷小僧のコメント>
この今だ現役のコメディカップル、ジャック・レモン+ウォルター・マッソーの最高傑作である「おかしな二人」は、ニール・サイモンによる舞台劇の映画化なのですが、何回見ても可笑しいですね。ライターのニール・サイモンという人は、基本的に短目のセリフを何人もの登場人物が矢継ぎ早に交換していくというスタイルのコメディを得意としており、その中に辛辣な現代社会批判であるとかちょっとしたペーソスであるとかを織込むのを十八番としています。まあ、日本で言えば吉本喜劇のようなものでしょうが、吉本には義理人情話的な側面があるのに対し、サイモンは勿論あちらの人であり、さすがにそういう側面はあまり見られないようなので、吉本マイナス義理人情といったところでしょうか。
ただサイモンの場合、舞台劇と言ってもたとえばテネシー・ウイリアムズのそれのように人間の心理の奥底まで暴き立てようといった類のものとは違って、会話のスピード感で表層を疾駆しながら観客を魅了しようというような種類の戯曲であり、必然的に彼の劇の多くはコメディになっているわけです。しかしながら、思うにサイモンの場合、たとえばジェリー・ルイスやボブ・ホープの映画が最初からコメディを目指しているのと同じ意味において、最初から彼の戯曲がコメディであることが目指されているわけではないように思います。というよりも、彼のスタイルが、コメディ的な内容になることを要請していると言った方が正しいのだと思いますね。そういう面において、彼の舞台劇やその映画化には確かに深みというものはないし、そういう点が指摘されていることもままあるようですが、最初から彼のスタイルは内容的な深みよりも表層を駆けるスピード感に重きを置いているわけであって、テネシー・ウイリアムズと同様な次元で評されることは彼自身にとっても心外でしょうね。
さてそれでは、彼の会話の表層的なスピード感とはどのようなものか、その実例としてこの「おかしな二人」からあるシーンを取り上げてみたいと思います。これはこの映画の最初の方のシーンでウォルター・マッソーとその仲間達がポーカーに打ち興じている時に、金がないのにマッソーは何故ポーカーをするのだということが話題になるシーンです。
マッソー:If you are my accountant, how come I need money?
(あんたが俺の会計士だというなら、何故こうもお金が必要になるのだ)
ある会計士:If you need money, how come you play poker?
(金が必要なら、何故ポーカーなどするのだ)
マッソー:Because I need money.
(それは、金が必要だからさ)
ある会計士:But, you always lose.
(いつも負けるくせに)
マッソー:That's why I need money.
(いつも負けるから、金が必要なのさ)
ある会計士:Then, don't play poker!
(それなら、ポーカーなどするな)
マッソー:Then, don't come to my house and eat my potato chips!
(それなら、(ポーカーをしに)うちに来て俺のポテトチップを食うな[と言ってマッソーはポテトチップをそこら中にぶちまける])

といった具合なのですね。言わばああ言えばこう言う的ないい回しなのですが、それが聞いていて実に可笑しいのですね。これはああ言えばこう言う的な会話の内容よりも、そのスピード感からくる面白さではないのかと私目は勝手に思っているのですが、ここまで来てふと、あ!これはちょっと日本語でこれを再現するのは無理なのではないかということに思い当たりました。上の日本語訳は私目自身によるものでありプロの翻訳家によるものでないことは確かなのですが、日本語でこのシーンを再現してもオリジナルの英語の可笑しさは出ないような気がしますね。それは余談として、いずれにしても、この「おかしな二人」は、サイモンの会話的特質が最もうまく出ている彼の戯曲の映画化ではないかと私目は思っています。
それからやはり、このレモン、マッソーというコンビが絶品なのですね。レモンは部屋のあらゆる隅まで掃除しないと気がすまないようなウルトラ潔白症の人物を演じています。これに対しマッソーは、部屋の掃除を一生に何回するかというようなことが簡単に指折り勘定出来るような徹底的にずぼらな、要するにさるまたけに囲まれた男おいどんのような生活をしている人物を演じています。この両人とも、自分の奥さんに愛想を尽かされて離婚したばかりなのですが(当然の結果でしょうね)、マッソーのアパートに一緒に住むことになってしまい、そこからこの両人のドタバタ劇が始まる訳です。当然のことながら、何事に対しても日本の列車ダイヤのように精密なスケジュールを立てて行うレモンと、明日は明日の風が吹くというようなマッソーでは歯車がかみ合うはずがなく、事あるごとに喧嘩になるわけです。ポーカーゲームの最中にポテトチップスを部屋中にぶちまけたり、怒ってキッチンの壁に投げつけたスパゲッティを何日もそのままにしておくというマッソーも、かなりずぼらな私目が見てもすさまじいものがありますが、ポーカーに使用するカードを消毒したり、壁にかけてある絵がほんのちょっと傾いているだけでも直さずにはいられなくなるレモンもこれはほとんど天然記念物ものだと言ってもよいでしょう。傑作なのは、耳の平衡状態が崩れたとか言って、レストランでレモンが大きな声でふまふまふまとか言いながら平衡状態を取戻そうとするシーンでしょう。言ってみればこのシーンは完全なドタバタに近いのですが、そうは分かっていても何回見ても笑えますね。レモン、マッソーというコンビによる映画は、このように役割分担がはっきり出ていて図式的に実に明快で分かり易いのですね。それがこのコンビをかくも長く存続させている理由の1つだと言ってもいいでしょう。ただこの「おかしな二人」の続編「おかしな二人2」(1998)が当然同じコンビで最近出たようですが、こちらはちょっと頂けないですね。何故なら、先程述べたような会話の妙味でではなく、何か無理矢理おかしなシチュエーションを作って無理に笑いを誘おうという意図が見え見えのように思われるからです。製作者クレジット(シナリオもかな?)にサイモン自身の名前がありますが、彼も老いたかな?

2000/06/25 by 雷小僧
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