心のともしび ★★☆
(Magnificent Obsession)

1954 US
監督:ダグラス・サーク
出演:ロック・ハドソン、ジェーン・ワイマン、バーバラ・ラッシュ、アグネス・ムアヘッド

左:ジェーン・ワイマン、右:ロック・ハドソン

1950年代を代表するメロドラマの巨匠ダグラス・サークの代表作の1つと言ってよいと思われますが、プレイボーイ転じて一生を他人の為に捧げる聖人となる男の物語は既に30年代にも同一タイトルにて製作されています。それだけポピュラーなテーマだったということでしょう。けれども、現代的な視点でこのような作品を見る場合、1つ注意しなければならない点があります。というのも、現代人がこの作品を見ると、10人中9人は、美談にすぎるストーリーの作り物臭さがプンプンにおってくるように感じられるのではなかろうかと考えられるからです。大袈裟に云えば、何やら小学生向けの偉人伝文庫にある誰がしかの伝記を読んでいるような錯覚すら覚えるかもしれません。そもそも、何故遊び人の主人公(ロック・ハドソン)が、自分が直接手を下したわけでもない事故の責任を感じて、一生を他人の為に生きる聖人的人物に変身するかは(あの色男のロック・ハドソンが若いバーバラ・ラッシュに見向きもしないのです)、シニカルな現代においては、キャラクタースタディが余程徹底していない限り小学生すら納得させることなど到底出来ないように思われます。何とも浮世離れしたストーリー展開をオーディエンスに納得させる程、この作品のキャラクタースタディが徹底されているか否かについては、是非皆さんが自分で見て判断してほしいところです。個人的には、少なくとも主人公の性格変身という面では、かなり納得出来ないところがあります。しかしながら、実は小生がこの映画に即して言いたかったのは、この作品をそのような単なる美談メロドラマとして捉えてはならないのではないかということです。すなわち、他のサークの数多くの作品同様、この作品はある一定の運命に捉えられた人物の一種のあがき、或いは贖いが主題であると捉えるべきではないかと考えられます。その点に関して云えば、たとえば「風と共に散る」(1956)などは決定的に前者のあがきの要素が強いように思われるのに対し、「心のともしび」は後者の贖いの色彩が濃いようにも思われます。サークの作品においては、生れた時から聖人であるような美談的なキャラクターによって美談的行為が行われる様が描かれるのでは決してなく、まさにそうではないキャラクターが、ある一定の運命に操られ、それに無益に抵抗したり或いは罪の贖いを行ったりする様を描くことによって、そのような行為が運命的な必然として描かれるケースが多いように思われます。そのような意味において原題の「Magnificent Obsession」というタイトルには、この映画の本質が見事に表現されています。それに対して、邦題の「心のともしび」はややポイントがはずれている印象が避けられません。サークの映画がメロドラマであると言われる時、そこで言及されるメロドラマとはどういう意味なのかが朧げながら分かる映画であり、昨今この映画を国内で見るのは困難かもしれませんが(※)、彼の代表作の1つとして貴重な作品であることは言うまでもありません。

※2007年に、「ダグラス・サーク コレクション DVD-BOX 1」の中の一本として国内版DVDが発売されましたが、他のサーク作品2本と1万5千円近くというのは、あまりにも値段が高い。


2001/11/04 by 雷小僧
(2008/10/07 revised by Hiroshi Iruma)
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