マジック ★★☆
(Magic)

1978 US
監督:リチャード・アテンボロ
出演:アンソニー・ホプキンス、アン・マーグレット、バージェス・メレディス、エド・ローター

左:アンソニー・ホプキンス、右:腹話術人形ファッツ

ミスター・ハンニバルのアンソニー・ホプキンスが、比較的若い頃に出演した作品であり、腹話術師が自らの操る腹話術人形に精神を乗っ取られるという怖い怖いストーリーが繰り広げられます。とはいえ、オカルト映画ではなく、多重人格を独創的な視点から扱ったかなり風変わりな作品です。アンソニー・ホプキンスという俳優さんは、昔から口数が多くありませんでしたが、言いたいことをなかなか口に出せない抑圧的な人物を演ずるとなかなか説得力があります。「マジック」では、そのような彼が、言いたくても言えないことを腹話術人形のファッツに言わせてしまうのです。それ故、腹話術人形のファッツは、腹話術師ホプキンスの抑圧されたパーソナリティの一部が形を変えて顕現しているとも見なせます。抑圧の程度が大きくなればなる程、抑圧されたパーソナリティすなわちファッツは爆発的なパワーを持ち始め、かくして、「5分間ファッツを黙らせろ」と言われ、彼は必死にこらえようとするにも関わらず、3分も経たない内に耐え切れずにファッツに喋らせてしまうのです。すなわち、抑えようとすればする程、抑えられたパーソナリティの力が強大化するのです。作品の終盤になると、抑圧されたパーソナリティの権化であるはずのファッツの方が、自分の意識を逆に支配し始め、この悪夢のような現象から逃れる方法はただ一つ、自らの命を絶つことだけなのです。「マジック」がなぜそれ程怖いかというと、主人公とファッツの関係は、意識とそれによって抑圧された無意識の関係に相当し、この関係は我々の心の中にも存在するのであり、それが彼のように精神病的な兆候を示すか否かは、程度の問題であるとも考えられるからです。とはいえ、難しいことを抜きにすれば、腹話術人形は、なかなか使えそうにも見えます。たとえばボスに言いたいことが言えない時に、代わりに腹話術人形に言わせてしまうなどというのは、なかなか結構なアイデアではないでしょうか。作品中でも、主人公はアン・マーグレット演ずる娘に対し、自分の口からは言い出せないことをファッツに代行させて喋らせているようです。監督のリチャード・アテンボロは、ご存知の通りイギリスの名優であり、また「遠すぎた橋」(1977)や「ガンジー」(1982)などの超大作の監督でもあります。個人的な印象としては、俳優であれ監督であれ、彼には大作よりも小品の方が似合うように思われ、まさにこの「マジック」は彼の出来のよい小品の1つであると評価できます。


2001/08/25 by 雷小僧
(2008/12/10 revised by Hiroshi Iruma)
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