クローディアと貴婦人 ★☆☆
(The Hideaways)

1973 US
監督:フィールダー・クック
出演:イングリッド・バーグマン、サリー・プレイガー、ジョニー・ドーラン、マデリン・カーン

左:サリー・プレイガー、右:イングリッド・バーグマン

実は「クローディアと貴婦人」には、海外にはかなりファンがいるそうです。個人的な見解でも、ある一点がクリアされていれば、傑作とは言わずとも恐らく珠玉の小品と呼ばれるくらいの作品にはなり得たと考えています。では、ある一点とは何かというと、当作品は二人の子供が主演であるだけに、どれくらい二人が(子供として)魅力的かという点によって作品全体の出来が大きく左右されざるを得ないにも関わらず、殊に姉を演じているサリー・プレイガーという子役に残念ながらあまり魅力がないことです。外見はともかくとして、ミケランジェロ製作とされている彫刻が本当にミケランジェロ本人の手によるものかどうかを知ることに情熱を燃やす知的聡明性、或いは誰にも気付かれずにメトロポリタン美術館の中に一週間隠れ続けるだけのタフさ、生命力、闊達さに彼女が恵まれているようにはどうしても見えません。残念ながら彼女が俳優として一流ではなかった証拠に、サリー・プレイガーという名前は、以後全く聞きません(IMDbによるとTV作品にはいくつか出演しているようです)。従って、「クローディアと貴婦人」が面白くなるのは、イングリッド・バーグマンが登場する最後の3分の1です。勿論、二人の姉弟が家出してメトロポリタン美術館に隠れ住む前半についても、題材としては本来極めて興味深いはずですが、前述した理由により信憑性に欠け、興味深さよりも「そんな馬鹿な」という印象を強く受けざるを得ないのです。前半で最も面白いのはマデリン・カーンが学校の先生として登場するわずかなシーンであり、この一点からしても主演の子役二人が凡庸であることが分かります。しかし、エキセントリックな美術愛好家の未亡人(イングリッド・バーグマン)が登場してから、興味深い展開になります。「クローディアと貴婦人」で最も感心する点は、誰も知らない秘密(当作品の場合は、ミケランジェロ製作とされている彫刻が本当にミケランジェロ本人の手によるものかどうかに関する真実)を限られた人々の間で共有することが、自己のアイデンティティの発達の為の糧になり得ることが示唆されているところです。主人公の姉弟が家出する背景には、家庭の問題と同時に個人のアイデンティティ確立の問題があり、強固なアイデンティティを確立する為の基盤さえ自己の内部に見出せれば家出のような現実逃避に訴える必要は始めからなかったはずです。それ故、美術愛好家の未亡人と出会って、そのようなアイデンティティ基盤を自己の内部に見出した姉弟は我が家に帰ることができるのです。そのような面においても、イングリッド・バーグマン演ずる美術愛好家の未亡人の登場には大きな意味があるのです。たとえば、世の中に存在する数多くの秘密結社が人々の目に魅力的に映るとするならば、それは、たとえその目的が邪悪なものであろうと、秘密結社によって自己のアイデンティティを確立する為の基盤が提供されるように見えるからです。日本でも宗教が関与する社会的事件が繰り返し発生してきましたが、宗教に関しても同じことが言えるのではないでしょうか。要するに、社会の仕組みの中で、個人のアイデンティティの形成をバックアップするメカニズムがうまく機能していないと、怪しげな宗教や秘密結社が跳梁跋扈する結果にならざるを得ないということです。いずれにせよ、「クローディアと貴婦人」は、ともするとクリーシェに陥りがちになる個人の精神成長に関するテーマを、ファミリー映画として実に魅力的な語り口で敷衍している点には感心できます。それと同時に、現代社会においては、個人のアイデンティティ形成をバックアップするメカニズムがいかに必要とされているかが分かります。


2002/07/21 by 雷小僧
(2008/11/22 revised by Hiroshi Iruma)
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