フォルウォスの黒盾 ★☆☆
(The Black Shield of Falworth)

1954 US
監督:ルドルフ・マテ
出演:トニー・カーティス、ジャネット・リーバーバラ・ラッシュ、パトリック・オニール

左:トニー・カーティス、右:ジャネット・リー

最近ほとんど見られなくなった映画ジャンルの1つに、いわゆるチャンバラ活劇(個人的に邦画はほとんど見ないので、ここでは専ら洋画のチャンバラ活劇を指します)があります。1950年代は、かくして陽の目を見なくなったチャンバラ活劇が流行っていた時期であり、数多くの作品が製作されていました。勿論、ローマ帝国などの古代を舞台にした作品もそれ以上に盛んに製作されていましたが、「フォルウォスの黒盾」のように中世を舞台にしたものも数多くあります。史実をリクリエートした作品もあれば、純然たるフィクション作品もありますが、いずれにしても当時のチャンバラ劇の意図の1つは、衣装などを含め映画でしか見られないゴージャスな空間をクリエートすることであったように考えられます。コンピュータグラフィックのような技術が発達していなかった当時であっても、史劇というジャンルは、おゼゼをかけさえすればマテリアル的にゴージャスな空間をクリエートすることが可能な分野でした。従って、コンピュータグラフィックのようなハイテクを利用してそのような空間を強引にクリエートすることが十分に可能になった現代においては、その理由で史劇というジャンルが特に重宝される理由はなくなったと言えるかもしれません。内容的な面では、殊に中世を舞台とした史劇は、「裏切り」と「騎士道」というどう考えても正反対であるとしか思えないテーマが前面に押し出されるケースが多々見られ、「フォルウォスの黒盾」もその例外ではありません。「フォルウォスの黒盾」は、裏切りの汚名を着せられたフォルウォス家の跡継ぎ(トニー・カーティス)が、同家に汚名を着せる策略を弄した騎士を槍試合で負かすことにより汚名を晴らすという単純なストーリー展開を持つ作品であり(勿論、ジャネット・リーとのロマンスもありますが)、気軽に家族揃って見られる一家団欒用エンターテインメントが意図されていたのではないかと思われます。殊に「騎士道」というテーマは、モラル的観点から言えば子供が見るにはうってつけのテーマかもしれません。要するに、「騎士道=善」、「裏切り=悪」という単純な図式を前提とし、最後に善が悪を打ち負かすという極めて単純な展開が見る者に余分なことを考えさせず、それ故子供でもストレートにストーリーに馴染めます。裏を返せば、ひねくれ者が多くなった現代のオーディエンスには、余りにもストレート過ぎる、或いはある意味で小学校の道徳の教科書のようなストーリー展開は、あまり受けないかもしれません。ところで、この作品には槍や矛或いは盾を用いてのチャンバラシーンが数多くありそれが1つのウリでもありますが、特殊効果音(たとえば日本のチャンバラ劇で言えば人が斬られた時のブシュッという音)が使用されている形跡がなく、矛や盾がぶつかるガツーン、ゴツーンという音が何やら実にリアルです。ここで云うリアルとは、時代考証的なリアルさというよりも、あのような金物を振り回して互いに打ち合えば、見た目そのままにあのような音が出るだろうなと思わせるリアルさのことです。その為、他のチャンバラ劇のチャンバラの効果音を聞き慣れていると、むしろ奇妙にすら聞こえます。どうでも良いことですが、鎧を身につけたトニー・カーティスが一端地面に倒されると、亀が仰向けにひっくり返されたように起き上がれなくなりますが、実際中世の騎士の着ていた鎧は非常に重かったそうですね。まあ機動性よりも防御性が重要視されていたということでしょう(或いは騎士の持つ高貴性というイメージとも関連していたのかもしれません)。ということで、「フォルウォスの黒盾」は、当時この手の作品によく見られた豪華スペクタクル映画というような作品ではありませんが、中世チャンバラ劇のエッセンスが手際良くコンパクトに纏められた作品です。その意味では、この手の映画にスペクタクル性を求めるオーディエンスは、物足りなさを覚えるかもしれません。


2003/02/08 by 雷小僧
(2008/10/07 revised by Hiroshi Iruma)
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