バラの肌着 ★☆☆
(Designing Woman)

1957 US
監督:ビンセント・ミネリ
出演:グレゴリー・ペック、ローレン・バコール、ドロレス・グレイ、チャック・コナーズ

左:ローレン・バコール、右:グレゴリー・ペック

上掲画像から僅かながらも察せられるように、時折ビンセント・ミネリらしい色彩感覚が映像上から感じられるものの、ストーリー的見地から見れば凡庸な印象を免れないコメディ映画です。しかしながら、この作品が貴重なのは、なんと!グレゴリー・ペックのコメディパフォーマンスを拝めるところであり、個人的に知る限りでは、ペックが真の意味でコメディを演じているところが見られるのはこの作品くらいでしょう。確かに「ローマの休日」(1953)にもコメディ要素はありますが、スラップスティックに近いコメディパフォーマンスということになれば、それが見られるのはこの作品くらいです。確かに彼の作品を全部見たわけではありませんが、あのグレゴリー・ペックが、レストランでラビオリをぶちまけられズボンをワヤにされたり、プードルと格闘したりするシーンが見られる作品は他にはないはずです。もともと、グレゴリー・ペックは、共演することの多いアンソニー・クインなどとともに、どこか茫洋とした大陸的な容貌と立居振舞いを大きな武器としている為に輪郭があまりはっきりしないタイプの俳優さんであり、シャープなコントラストが要求されるコメディには向かない人なのです。敢えていえば、漫才のボケ役は務まる可能性があるとはいえ、さすがにハリウッドが彼をわざわざボケ役として起用したりはしないでしょう。それにも関わらずペックは、「バラの肌着」に出演した当時は、コメディでないとはいえ何故かシャープなコントラストが要求されるドラマ映画、たとえば「灰色の服を着た男」(1956)や「悲愁」(1959)などに主演して、作品全体を起伏に乏しいものにした容疑で第一級戦犯になっていたような感がありました。そのように言うとファンに怒られるかもしれませんが、彼にはどことなく素人っぽいぶっきらぼうさがあり、それが彼の魅力の1つにもなっています。従って、出演する作品のジャンルによって、そのような特徴が生きる場合と、全くの裏目に出る場合がはっきりと出てしまったというところが正直な個人的感想です。「バラの肌着」での彼も、彼だけを取り上げてしまうと、「頑張ってコメディを演じてはみたけれども少し場違いな印象を避けることが出来なかった」というような線が妥当なところであるように見えます。但し、相手役にローレン・バコールを選んだことは正解でしょう。何故ならば、ペックとは違ってローレン・バコールには極めてシャープなイメージがあり、ペックの茫洋としたイメージとバコールのシャープなイメージという男女逆コントラストが、それが意図されたものではなかったとしても、コメディとしてなかなか面白い妙味を醸しだしているからです。いわばバコールのツッコミとペックのボケという漫才的な構図がこの作品には見られ、男女の役割が逆転しているところなどは女性優位のロマコメを思わせるところすらあります。とはいえ、ストーリーが凡庸であっては、そのような面白味も半減せざるを得ないというのが正直なところです。


2005/09/03 by 雷小僧
(2008/10/10 revised by Hiroshi Iruma)
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