恋人よ帰れ ★★☆
(Lover Come Back)

1962 US
監督:デルバート・マン
出演:ロック・ハドソン、ドリス・デイ、トニー・ランダール、イーディ・アダムス

左:ドリス・デイ、右:ロック・ハドソン

ロック・ハドソン+ドリス・デイ+トニー・ランダールのトリオによるコメディは3本ありますが、「恋人よ帰れ」は真ん中の作品です。全く同じトリオにより3本も作品が製作されている事実には、この3人がいかに当時のオーディエンスの趣味にマッチしていたかが示されているように思われます。この3人はともに、50年代後半から60年代前半にかけての文化的象徴面を典型的に担った役者であったと見なしてもあながち間違いではないところがあります。ドリス・デイは、この当時のアメリカ家庭のシンボル的な存在であったことがあちらではよく指摘され、ロック・ハドソンもこの時代に特化した俳優さんであったと考えられます。後者に関して言えば、たとえば彼よりも年長のバート・ランカスターが、遥かに時代には制約されない特徴を持っていたのに対し、ロック・ハドソンは良くも悪くも時代の申し子的な特質を持っていた印象を個人的には受けます。従って、60年代後半以降になると、一回り近く年長のバート・ランカスターがまだまだ活躍していたにも関わらずロック・ハドソンの人気は急速に下降します。その意味では、バート・ランカスターには、ロック・ハドソンのようなはっきりした人気の絶頂期はありませんでした。しかし何と言っても、トニー・ランダールです。彼のいかにも牧歌的で且つ悩みがない、或いはあっても常に表面的な悩みしか抱いていない小市民的キャラクターは、70年代以降のキャラクタースタディには存在し得ないものであり、アメリカがベトナム戦争に突入する以前のストレートでひずみの少ない平和な世相が反映されたキャラクターであったと見なせます。かくして、時代にピタリとマッチした3人によるロマコメが繰り広げられるのが、この「恋人よ帰れ」です。互いにライバル関係にある広告会社に勤めるロック・ハドソンとドリス・デイが、最初の内こそ、互いに相手を出し抜き騙すことに血道を挙げるにも関わらず、やがて最後はハッピーエンドを迎えるといういかにも屈託のないストーリーが展開され、トリオ1作目の「夜を楽しく」(1959)と構図的にはほとんど変わるところがありません。全体的な出来は前作の方が良い印象がありますが、「恋人よ帰れ」は、この究極のトリオから得られる満足感は全て得られる作品であり、その意味では安定感すら感じられます。見方によっては、生ぬるいコメディにも見えますが、この当時のロマコメの特徴はまさに屈託のない生ぬるさであり、安心感を持って見られることには間違いがありません。いわば定番化された内容を持つ作品であると言い換えられるでしょう。脚本が、アカデミー賞にノミネートされている事実が全てを物語っています。なぜならば、アカデミー脚本賞を受賞した実績を持つ「夜を楽しく」とほとんど変わり映えのしないストーリーが再びオスカー候補になったという事実には、「恋人よ帰れ」がいかに当時のオーディエンスの趣味にマッチしていたかが如実に示されているからです。そのようなわけで、50年代後半から60年代前半にかけて製作されていたロマコメのファンにはお薦めできる作品です。


2001/08/12 by 雷小僧
(2008/10/19 revised by Hiroshi Iruma)
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