暗闇にベルが鳴る ★★☆
(Black Christmas)

1974 CA
監督:ボブ・クラーク
出演:オリビア・ハッセー、ケア・デュリア、マーゴット・キダー、ジョン・サクソン

左:マーゴット・キダー、右:オリビア・ハッセー

久々にビデオを取り寄せて再見した作品ですが、悪くはありません。女子寮を舞台にして変質者が一人また一人と犠牲者を血祭りにあげるストーリー展開は、80年代以後のスプラッターホラーほど血の気が多いとは言えないとしても、70年代中盤の作品としてはかなり大胆であったのではないかと思われます。何しろ、ハロウィンシリーズや13金シリーズよりも遥かに以前の作品なのです。しかしながら、血しぶきが飛び散るド派手なシーンよりも、クリスマス期間中の女子寮内の様子がビューティフルに捉えられているのがまずオーディエンスの目を惹き、ゴシックホラーストーリーが展開される背景として、興味深い舞台が用意されていることに気付くことができます。これから説明するように、そのような見方をすると、ラストシーンに違和感を覚えざるを得なくなるとはいえ、ミステリー的な犯人捜しの妙味もまた確かに存在します。しかしながら、「暗闇にベルが鳴る」は、ラストシーンをどのように捉えるかによって評価が分かれるのではないかと考えられます。ネタを暴露を避ける為にはっきりとは述べられませんが、「暗闇にベルが鳴る」は、最後に判明する犯人(オーディエンスには、かなり早い段階で予測がつく)は、実は本当の犯人ではないことを示唆する不気味なラストシーンでジエンドを迎えます。つまり、オープンエンドであると見なせるということです。そのような曖昧なラストを活かす為に、ストーリーが巧みに操作されているようでもあり、新たにもう一度最初から注意して見直しても犯人とされる人物が本当に真犯人であると特定できるシーンは1つもありませんでした。しかしながら、本当にその人物が真犯人でないとすれば、ストーリーに全く登場しなかった人物が、真犯人である確率が極めて高いことになります。或いは、ストーリーに登場した別の人物が真犯人であるとすることは論理的には可能かもしれませんが、そうなるとそれまでストーリーの中で展開されてきたキャラクタースタディが全部チャラになりそれでは作品全体がブチ壊しになります。恐らくこの点に関して見方は2つに分かれるでしょう。すなわち、出来の良いミステリーを当作品に期待して見ていると、作中に登場しない人物が真犯人であるとはもっての他ということになり、肩透かしを食わされた気になるか、或いはラストシーンは単なる意味のないジョークと解釈するしかないはずです。なぜならば、ミステリーにはストーリー上の論理的整合性或いは一貫性が要求されるからであり、確かに曖昧性は大いに許されたとしても論理的整合性に明示的に違反したプロット展開は許されないからです。いずれにしても、わざわざオープンエンドであるかに見えるラストを加えた製作者の意図は尊重されるべきであり、個人的には「暗闇にベルが鳴る」は純粋にサイコホラーであると捉えるべきであると考えています。従って、真犯人は誰であるかが問われるミステリー性に大きな焦点が置かれているわけではないと考えた方が良いということです。また、そのように考えれば、ラストシーンの持つ不気味さがより一層際立ってくるはずであり、その意味でも当作品は既にストーリーに論理的整合性や一貫性のない80年代以後のスプラッターホラーの領域に近付いていると考えられるかもしれません。前年にはかの「エクソシスト」(1973)が公開されていますが、この有名なホラー作品にしても、たとえ現実性はなくともストーリーの論理的整合性が無視されることはありませんでした。そもそも、「暗闇にベルが鳴る」にミステリーを期待して見ていると、たとえば女子寮の屋根裏部屋に変質者が住んでいるなどという設定はあまりにも馬鹿げて見えるはずです。尚、個人的に取寄せたビデオは25周年記念バージョンであり、警察署長役を演じていたジョン・サクソンのインタビューなども収録されていてなかなか楽しめます。ただ、オリビア・ハッセーやマーゴット・キダーにインタビューして貰った方が、個人的には尚一層嬉しかったところです。ということで、「暗闇にベルが鳴る」が公開されてから既に四半世紀以上が経ってしまったかと感慨深いものがあります。


2002/01/19 by 雷小僧
(2008/11/23 revised by Hiroshi Iruma)
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