悲恋の王女エリザベス ★★★
(Young Bess)

1953 US
監督:ジョージ・シドニー
出演:ジーン・シモンズ、スチュワート・グレンジャー、デボラ・カー、チャールズ・ロートン

左:ジーン・シモンズ、右:スチュワート・グレンジャー

勿論彼女の作品を全て見たというわけではありませんが、ジーン・シモンズのベスト映画は何であるかと問われれば、個人的には躊躇なくこの作品を挙げるでしょう。ジーン・シモンズという女優さんは不思議な人で、決してスケールの大きな印象を与える人ではないにもかかわらず、殊に50年代は大作歴史劇への出演が数多くあります。その中でも、彼女が最も映えて見える映画と言えば、エリザベス1世の若き頃を演じた「悲恋の王女エリザベス」であると言い切れます。兎に角この映画では、共演しているデボラ・カーですら彼女の前では全く影が薄い程であり(と言ってもカー主演の映画ではないので当然かもしれませんが)、強烈な意志と情熱を持ったエリザベス女王を見事に演じ切っています。また映画自身も実に素晴らしく、歴史物映画を見ることがそれ程好きではない小生も、この作品は手放しで誉められます。歴史劇であると同時にラブストーリーでもありますが、これだけのスケールで語られるラブストーリーなど、そうざらにはありません。この作品を、極めて私小説的な色彩の濃いラブストーリー、たとえば「ある愛の詩」(1970)などと比べてみれば、同じラブストーリーと言えどもこれ程まで違うのかが良く分かります。「ある愛の詩」のような作品が、人間の弱さ、はかなさを材料としてお涙頂戴仕様でラブストーリーを脚色し、お涙頂戴的部分を抜き取ってしまえばラブストーリー自体が成立しなくなってしまうような作品であったのに対し、この「悲恋の王女エリザベス」は、確かに邦題にもあるように最後は若き日のエリザベス女王の情熱の対象であったスチュワート・グレンジャー演ずるイギリス艦隊指揮官の首が刎ねられてしまうので「ある愛の詩」同様悲劇でもありますが、それが人間の弱さはかなさというようなネガティブなポイントを梃子として語られるのではなく、そのような悲劇的な要素すらプラスに扱われている観すらあります。要するに情熱的なラブストーリーが姑息な手段によって脚色されることは全くなく、まさに直球勝負の作品なのです。また、「悲恋の王女エリザベス」は50年代の作品であり、50年代の歴史活劇には不可欠の俳優さんの一人であったスチュワート・グレンジャーが出演しているにもかかわらず、ド派手なチャンバラシーンはほとんどない、というよりもただの1度もないのです。すなわち、アクションではなく、純粋にストーリーテリングとアクティングで見せる映画に仕上がっていて、この点が個人的にこの映画を高く評価する理由の1つでもあります。更に、この映画が素晴らしいのは、ストーリーテリングとアクティングで見せる映画であるとは言っても、決してそれがこの作品を動きのない映画にしているわけではなく、チャンバラシーンがあるわけでもないのに極めてアクティブな映画である印象を受けることです。兎に角シンプル且つパワフル、そしてユーモアさえある映画であり、現代の映画製作者も少しはこの映画を見習って欲しい気さえします。それから、ミクロス・ローザの音楽がまた素晴らしい。やはりこれくらいのスケールの映画だと彼の音楽はいかにも映えるのですね。映画の内容を全く考えていないかの如く不釣り合いな程大袈裟な音楽を時に書くミクロス・ローザさんですが、この映画では彼の音楽の特徴がうまく活かされているように思われます。ということで、どのような観点から見てもエンターテインメント性抜群の一級品であり、個人的には他のポピュラーな歴史タイトルよりも余程この映画を推薦したいところです。


2003/08/09 by 雷小僧
(2008/10/06 revised by Hiroshi Iruma)
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