外圧による地球の平和

佐藤和美

 地球上では戦争が絶えない。全人類に戦争をやめさせて、平和にすることはできないのだろうか。

 『ビッグX』の「ムーン・パイロットの巻」(ここでは集英社テレビコミックス版に従いこう呼ぶことにする)では、月からレーザー光線砲で地球をおどかして、地球に平和をもたらそうとする人物が登場する。

その人物はこう言う。
「これを月へ 持っていって 地球を攻撃する といって おどかしてやれば 世界じゅう ふるえあがって……
きっと 戦争なんかやめて 手をにぎりあって くれるだろうと 思ったのさ……」

 『W3』では反陽子爆弾が地球の中心にあることにして、地球を平和にしようとする。

ボッコは言う。
「爆弾がまだ 地球のまん中に 沈んだっきり ということに して ちょうだい
そうすれば 世界じゅうはもう 戦争やあらそいどころ ではなくなるわ」

 『まぼろしの円盤』(講談社全集『少年探偵ロック・ホーム』収録)では、火星人の襲来により地球に平和をもたらそうとする。

「世界に 平和をもたらす には……火星の 名を使う ほかにない
火星から攻めて くるといったら きっと おたがい に いさかいを やめるだろう
そう思った 私は 全世界の 科学者に 協力を もとめた
そして 例の円盤の トリックを 使うことに 決めたんだ」

 また『来るべき世界』では、スター国とウラン連邦の和解は地球の滅亡に際してだった。

 これら外圧による地球の平和というのは、何か由来するものがあるのだろうか。

 『誕生!「手塚治虫」』(朝日ソノラマ)は手塚治虫がデビュー前にどのような映画を観(み)、どのような本を読んでいたかを研究したものである。その中の海野十三に関する記述に、この外圧による地球の平和に関することが書かれている。以下、その部分を引用する

 科学と人間の関わりに、ペシミスティックな視線を投げ掛ける海野のSFは、当然のように科学の「恩恵」よりも「迫害」を強調したものが多い。したがって、海野作品にはしばしば巨大な破壊力を持った新兵器が登場する。戦争テクノロジーこそが、「暴走する科学」を端的に表現するものだからである。昭和十五年から十六年にかけて、『譚海』誌に連載された『地球要塞』は、太平洋戦争の十数ヵ月前という逼迫した時期にもかかわらず、未来の人種間殲滅戦争がテーマである。これだけなら石原完爾の『世界最終戦論』との比較ですませられるが、海野は金星人による地球侵略をプロットに絡ませ、地球全土の完全要塞化、というメガロマニアックなまでの結末を提示している。「地球上の戦争は果てても、戦争は更に宇宙へ向つて延長し、戦争の果てる時は遂に来ないであらう」。海野はこんな文章で『地球要塞』を結んだ。戦争は、生物としての人間の生存本能の現れであり、善悪感情で廃絶できるものではない。戦争による自滅を回避するには、地球外に仮想敵を作り、人間が一致団結することである−−海野は、そう主張する。
 この海野十三の『地球要塞』が外圧による地球の平和のルーツだったのではないだろうか。

(2000・09・30)


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