アトムは空を飛べるか

佐藤和美

 アトムは空を飛べるだろうか。

 なにをいまさらと思われるかもしれないが、実は最初の「アトム大使」(「少年」版)では、アトムは空を飛べる設定にはなっていなかったのである。その証拠をお目にかけよう。最初の「アトム大使」(講談社全集版「鉄腕アトム」第1巻収録)のラスト近く、アトムが大使として宇宙船に向かうのにどのように行くか見ていただきたい。大砲の弾となって、飛ばされて行くのである。
(のちの書き直された「アトム大使」(「漫画少年」版、講談社全集版「鉄腕アトム」以外の収録)では、アトムが自らジェット噴射で飛んでいくように書き直されている。)

 アトムが飛べるように設定変更されたのは、「アトム大使」の次の「鉄腕アトム」となった第1作「気体人間」からである。気体人間を倒すためには、成層圏に行かなければならないが、ここでアトムはケン一に自分の手が噴射機になっていることを告げる。アトムは飛ぶ実演をして見せるが、着陸するときに、噴射でケン一の頭を地面にめりこませてしまい、そこを見ていたアトムの父に怒られてしまう。
「そんなに空をとびたけりゃとべ、ぜったいにおりちゃいかんぞ」
こうして、アトムは泣きながら空を飛び続けるのだった。
 現行版ではアトムの父が怒ったのは、貯水池の事件に関してに変更されている。今では、読むことができないエピソードである。

 「気体人間」ではまだアトムは手で噴射するだけで、足では噴射していない。アトムもケン一に「きみだけにはなすがぼくの手はふん出器なんだよ」というだけである。ここでの設定では手だけが噴射機なのである。足でも噴射するようになるのは、のちの話である。
 講談社全集版「鉄腕アトム」はほぼ発表順に収録されているが、これで調べてみると、初めて足で噴射するシーンが描かれているのは「火星探検」である。

(1999・09・16)


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