(2)
僕は映画館に行った。頭の中でごちゃごちゃ考えてても始まらない、とにかく
映画館に行って席に座れば、そこから何かが始まると思ってたんだ。彼女の策略
だろうが何だろうが、それに乗せられている限りはきっと彼女の方から何かしか
けてくるはずだものね。
だけど、人混みを抜けてその映画館に着いた時、僕はぽかんと立ち尽くした。
映画が、やってなかったんだ。
映画館の大きな看板に描かれていたのは、香港だか中国だかのコメディだった。
──チケットの映画とは、似ても似つかない代物だったよ。
映画館の場所も、チケットの日付も時間も間違ってない。映画だけが違うんだ。
上映作品が急に変更になったのかとも思ったけど、係員に聞いたらそんなことは
ないってことだった。
僕はチケットを係員に見せようとした。現にチケットがあるんだから、何かの
手違いなんじゃないかと思ったんだ。
だけどその時、僕ははっと気づいた。──そのチケットさえも、彼女の策略の
一部なんだ。上映されるはずのない映画のチケットがあるのは、彼女がそれを偽
造したからなんだよ。
多分彼女は、ワープロやらカラーコピーやらを使ってチケットを作って、無記
名の封筒で僕に送りつけたんだろう。何故そんなことをする必要がある? ──
そう、多分、僕をその映画館までおびき寄せるためだ。
僕は咄嗟に辺りを見回した。彼女がどこかから僕を眺めてるんじゃないかと思
ったんだ。
一瞬、流れていく人波の中に、見覚えのある姿が見えたような気がした。
だけどその影は、すぐに人混みの中に消えてしまった。僕の目から身を隠した
ようなタイミングだった。
僕はその影を追いかけた。人の流れを縫うようにして進むのは大変だったけど、
どうにかもう一度影の姿を見つけることができた。
影はこっちを振り返ることもなく、足早に進み続けていた。どこを目指してい
るのか、何度か角を曲がって歩いていく。──それを見失わないように注意しな
がら、僕は次第に影との差を縮めていった。
もう少しで追いつける、そう思った時だった。影はくるりと向きをかえ、小走
りに近くの建物の中に入っていってしまった。
その建物を見上げ、僕は息を呑んだ。
いつの間にかぐるりと一周してたんだろう。それは、さっきの映画館だった。
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