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   君に電話で話した通り、僕は映画館に行くつもりだった。彼女が何か企んでい


  るにせよ、それに乗ってやろうと思ってたんだ。


   チケットに指定された日の前の晩、布団にもぐり込んでから彼女のことを考え


  た。──彼女は映画館にいるんだろうか。隣の席に座ってくるんだろうか、それ


  とも遠くの席でこっちを見ていて──いや、彼女が映画館に来ない可能性もある。


  別の男と二人で来ているのかもしれない。


   考えているうちに、想像はどんどん広がっていった。いろんな可能性があるし、


  彼女なら思いも寄らないことをしてくれそうだしね。しまいに目がさえて眠れな


  くなっちまったよ。


   だけどそのうち、ふと思ったんだ。こんな風に、僕にいろいろと考えさせるこ


  と自体が彼女の目的だったんじゃないだろうか?


   考えてもみろよ。チケットに書いてあった通りに映画館に行くことにして、頭


  の中じゃ彼女のことばかり考えて眠れなくなってる。──結構、情けないものが


  あるんじゃないか?


    そんな自分に腹が立つやらおかしいやらで、僕は結局映画館に行くのはやめよ


  うと思った。多分これで彼女の目的は果たされたわけだし、そのまま映画館まで


  行ってしまったら、もっと情けないような気がしたしね。


   もちろん行きたい気持ちは強かったよ。彼女の企みは他のことかもしれないん


  だ。それに乗せられてみたいって衝動が、胸を突き上げるように涌いてきて仕方


  なかった。──それを抑えきれるのか、自信が持てなかったよ。


   だから僕は布団を抜け出し、彼女に手紙を書くことにした。どんな内容の手紙


  だったのかは、少々照れくさいから秘密にしておこう。





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