(1)
君に電話で話した通り、僕は映画館に行くつもりだった。彼女が何か企んでい
るにせよ、それに乗ってやろうと思ってたんだ。
チケットに指定された日の前の晩、布団にもぐり込んでから彼女のことを考え
た。──彼女は映画館にいるんだろうか。隣の席に座ってくるんだろうか、それ
とも遠くの席でこっちを見ていて──いや、彼女が映画館に来ない可能性もある。
別の男と二人で来ているのかもしれない。
考えているうちに、想像はどんどん広がっていった。いろんな可能性があるし、
彼女なら思いも寄らないことをしてくれそうだしね。しまいに目がさえて眠れな
くなっちまったよ。
だけどそのうち、ふと思ったんだ。こんな風に、僕にいろいろと考えさせるこ
と自体が彼女の目的だったんじゃないだろうか?
考えてもみろよ。チケットに書いてあった通りに映画館に行くことにして、頭
の中じゃ彼女のことばかり考えて眠れなくなってる。──結構、情けないものが
あるんじゃないか?
そんな自分に腹が立つやらおかしいやらで、僕は結局映画館に行くのはやめよ
うと思った。多分これで彼女の目的は果たされたわけだし、そのまま映画館まで
行ってしまったら、もっと情けないような気がしたしね。
もちろん行きたい気持ちは強かったよ。彼女の企みは他のことかもしれないん
だ。それに乗せられてみたいって衝動が、胸を突き上げるように涌いてきて仕方
なかった。──それを抑えきれるのか、自信が持てなかったよ。
だから僕は布団を抜け出し、彼女に手紙を書くことにした。どんな内容の手紙
だったのかは、少々照れくさいから秘密にしておこう。
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