サイキンのタケウチ


〔身辺雑記〕

8月5日(日)
 くろべーの記録として、ここ十日ばかりの闘病記をつけとこうと思います。いやくろべーは病気って意識もなく、無事に回復して今日も元気いっぱいなんだけどね。

7月25日(水)
 朝の散歩を終え、家に入る前に恒例のブラッシング。ダニ対策としてやってる習慣なんだけど、顔の横にしゃがんでたおかげで、くろべーの下あごの左側、犬歯のちょい後ろあたりに腫瘍ができてるのを発見。触っても痛がりはしないけど、口の中に豆粒大……というかチョコボール大の腫れものがあるのはやはり不穏なものを感じる。午前のうちに動物病院に連れてって診てもらうことに。
 診断結果は「エプリス」って病気。要は加齢による腫瘍が口の中にできたってことらしいけど、放っておくと膨らんで食事にも支障が出るというし、悪性だったら骨まで溶かしたり癌として転移したりもしちゃうらしい。手術や病理検査をしてみないと良性か悪性か分からないらしいけど、とにかく心配。金曜日に手術することに決定。
 くろべー自身はいたって元気なだけに、手術当日は食事を抜いて鎮静剤うって患部付近の動脈を焼いて……なんて説明されると、聞いてるだけでつらい。今日明日は特に気をつけることはないってことなんで、せめて今のうちに好きなことをさせてやろうと、帰りは渓流遊びスポットに寄り道して川遊び。

7月27日(金)
 何がつらいって、元気なくろべーのごはんを抜いて「腹減ったよー」って顔でまとわりつかれるのが一番つらい。でも手術のためなのじゃと心を鬼にして朝ごはんを抜き、お昼に動物病院へ。
 口の中の手術なので、鎮静剤か麻酔をかけなきゃならないとのこと。まずは鎮静剤を1本うって様子を見ることに。ドライブ好きのくろべーは動物病院に来るだけで浮かれてるし、先生御夫妻にかわいがってもらって浮かれてるが、薬の効き具合を見るために室内で解放されるってえと出口に近づき、僕を見上げて「早く帰ろうよ」って表情。何か不穏な気配を察してるらしい。
 しかし10分くらい待ってもあまり動きが鈍らないとのことで、もう1種類の鎮静剤をうつことに。これが効いたので全身麻酔までしなくてもよくなった。麻酔って事故も多いらしいから心配だったし、鎮静剤も老犬の体に影響ないようにぎりぎりまで少なめの量にしてくれたとのこと。2種類の鎮静剤のうち、1種類は手術後に中和できるので、体に残る影響は少ないらしい。
 くろべーが眠りにおちて手術開始。手術そのものはごく簡単に済んだ。早期発見のおかげか腫瘍の根が広がらずにすんでいて、メスも使わず手術用のハサミで切除できたのだ。切開部は電熱の機械で手早く焼いてくれたおかげで出血もほとんどなく、まずは一安心。
僕も手術終了まで立ち会ってたが、術後は立って帰れるようになるまでしばらくかかるってことで、くろべーが寝てる間に外で用事を済ませてくることに。車で動物病院に戻ったら、寝てるかと思ったくろべーは既に出口にスタンバっている。先生によると、醒めてきた頃にためしにビスケットを差し出してやったとこと、ぺろりと一飲みに食べちゃったそうな。
 だけど鎮痛剤がさめるまで数時間かかるとかで、くろべーはなんだかぼーっとしてるいる。暑さのせいもあって始終ハアハアいいまくりだし、帰りの車の中でおしっこしちゃったのは鎮静剤の利尿効果だろうか。
 帰宅後もぐったりしてて、基本的に寝てたいようだが、だんだん目に生気がもどってくる。夕方にはいつもよりはスローペースながら食事もできたし、夜には目が合うと尻尾を振ってくれるようにもなって、とりあえず大丈夫かなと一安心。

7月28日(土)
 朝の散歩も元気のないくろべー、ちょっと歩いただけで「早く帰ろう」って顔をするもので、結局家の周りを1周することもなく引き返す。僕の方も夏風邪が悪化してきたので、散歩が短くていいならその方が楽なのだ……
 しかし、散歩は短くていいものの、くろべーはたびたび「外にだして」って顔をするようになった。鎮静剤の影響なのか何なのか、下痢になっちゃったのだ。夜中もたびたび僕を起こすので、眠りのリズムが狂ってしまった。

7月29日(日)
 くろべーの散歩の距離、だんだん長くなってきて、いつもの短め散歩のコースも歩けるように。下痢もだんだんおさまってきた。
 しかし反比例するようにタケウチの風邪は悪化。珍しく鼻炎から入った風邪だと思ってたら、喉まで痛くなってきた。発熱のせいか、妙なタイミングで汗がだらだら出たりして、ものすごく体調悪い。
 夜中にくろべーに起こされても外に出してやるのがしんどいなと思い、夜は玄関を開け放して寝ることに。くろべーは好きなタイミングに出てっていいよってことにして、実際1〜2回夜の一人歩きをたのしんできたようだ……

7月31日(火)
 くろべー、すっかり回復。元気いっぱい。
 タケウチ、すっかり夏風邪。ふらふら。
 だけど仕事の校正ゲラを返送しなきゃいけないので車で下山。何がつらいって、鼻炎悪化で眼鏡するだけで鼻の奥が痛いのに、運転中は眼鏡かけてないといけないことだ……

8月1日(水)
 風邪の症状は少し落ち着いてきたのに、鼻炎の痛みはひどくなってるので、耳鼻科で診てもらうことに。
 朝から下山してすげ〜待たされてようやく診察、しかし診察時間は1分にも満たない。いくら繁盛してる耳鼻科とはいえ、これはなんか嫌だなーと思う。
 とはいえ、帰宅後は運転疲れも手伝ってか、もらった薬を飲んだり塗ったりしてこてーんと寝たら結構きいた。

8月5日(日)
 2度目の通院。薬のおかげでだいぶよくなってることを報告。抗生物質だけあと4日分追加してもらい、それで治ればもう通院の必要なしと言ってもらう。
 くろべーは元気。とりあえずおいらの夏風邪も今日で治ったってことにして、快気祝いのニューサッカーボールをプレゼント。なんだかんだとつらい10日あまりだったけど、今後は主従共に健康にすごせますように……

8月6日(月)
 くろべーのエプリス、再発。昨日、快癒と書いたばかりなのに、おそれてた事態が起こってしまった。
 午前中、仕事部屋にのぼって、資料チェックしつつマッサージチェアをリクライニングさせて……とやってたら、くろべーは元気に僕の上に飛び乗って、となりのトトロの女の子状態で目を閉じている。
 ちょうどいいので、口をぴろーんと開けさせて中をチェック。そしたら、今度は左上犬歯付近がちょこっとだけ腫れてることに気付いてしまった。こないだ切除したのがチョコボール大だとすれば、今度は爪切りでちょっと伸びた爪を切った程度の大きさ。
 でも再発だったら見過ごせない。しかしまた手術となったら老犬の身に負担じゃなかろうか、もうちょっと様子を見ても……などと葛藤することしばし。やっぱり早期発見早期治療にこしたことないし、こないだ鎮静剤の副作用がつらそうだったことも先生に相談すりゃあいいやと、とりあえず動物病院へ。
 くろべー自身はドライブで浮かれ、動物病院の先生夫妻に会えるのも嬉しいは嬉しいらしい。しかし、これから起こることへの不安を感じて落ち着かない顔に。なんか騙したようで申し訳ないが、これもお前の健康のためなのじゃと心の中で言い訳。
 午前の診察時間が12時までで、そのぎりぎりに到着して昼休みに入りかけてた先生に見てもらったところ、すぐ手術しちゃおうということに。いつも12時まで診察、午後の診察時間までの空き時間に手術というスケジュールの病院なのだが、今日は手術予定がなくてタイミングがいいっちゃあタイミングがよかったのだ。
 老犬で鎮静剤がつらいことも説明したのだが、それでも対処は早いにこしたことないらしく、すぐ鎮静剤注射。……診察台にのせられて不安げな様子や、鎮静剤がきいてぐったりしていくくろべーを見てるとつらい。

 今回は前回よりさらに病巣が小さく、手術も簡単だったってことで、早期発見ですぐ連れてきたことはよかったらしい。なるべく楽なようにと鎮静剤の中和剤を多く注射してくてたとのことで、くろべーもわりと早く回復。二度目ってことである程度なれてきたのか、病院の外に出ると片足あげてマーキングしたり、雌犬らしきにおいを熱心に嗅ぎまわったりしている。
 相変わらず手術後はぼーっとしてるが、帰り道で大好きなご家族のいるカフェに寄り、そこで軽く昼寝させてもらって回復をはかる。夕方に帰宅すると、家まで歩く足取りは重く、疲れた様子ですぐに眠っているが、どことなく前回よりは楽そうかな。
 早く回復してくれること、それとこれ以上再発しないことを祈るばかり。何か再発防止のための方法をご存じの方、情報お寄せください……

8月19日(日)
 昼から下山、川の近くで開かれているイベントへ。
 こっちに越してきた頃から、毎年夏になると川沿いの公園で野外ステージイベントが開かれているのは知っていた。しかし「下山すると暑い」とか「そんなイベントは道も会場も混んでて大変に決まってる」とか、なんだかんだ理由をつけて行かずにいた。今年はいくつか理由が重なって行くことにしたんだけど――これが正解。というか、今まで行かなかったのは間違いだったと思うほど気持ちいいイベントだった。
 まず、ここらの道路は確かに観光シーズンの混み方をしてるけど、僕自身がずいぶんと裏道に詳しくなったのでうまい具合にすいすい走れた。会場はそれなりに人出もあったが、早めのタイミングで動いたせいで混雑を不快に思うほどではなく、知人と挨拶したり露店で買物したり、いい感じで過ごすことができた。
 いい天気だったので日向にいるとそりゃあ暑いんだけど、今日は風がある上に川のほとりの開けた場所なので風がとても気持ちいい。日陰にいれば汗もかかないような快適さである。ちょうどいい具合にステージ脇の桜の木陰にベンチがあって、そこに陣取って各種パフォーマンスを見物したり、露店で飲み食いしたり。
 舞台袖みたいな位置の特等席だったので、演奏後のミュージシャンや本番前のダンサーの様子を見られるのもなかなか興味深い。野外ステージならではの演奏やパフォーマンスが楽しかったこともあり、暑かったら用事を済ませてすぐ退散しようかと思ってたわりに、なんだかんだで3時間以上いたのかなあ。
 一つだけ残念だったのは、車で来てるせいでアルコール類に手を出せなかったこと。露店は料理は限られてるわりに酒類は妙に充実してたし、この天気でビールを飲めないのはいかにもつらい。来年は是非、誰かの車に便乗して来たいもんだと思う。

 日の暮れる前には帰宅してくろべーの散歩と食事の面倒を見てやらねば……と思っていたが、帰宅する頃には夕立でどしゃぶり。空は真っ暗井になり雨はざあざあ、視界がろくにきかないほどで、後部ドアが半ドアだったせいで車内に雨盛りまでしやがった。
 まいったなーと、雨に濡れつつ帰宅。玄関の扉をあけると、いつもと様子が違う。大喜びで飛び出してくるはずのくろべーの気配がないのだ。姿が見えず声もせず、一体どうしたんだと戸惑った。
 このところ復調してたとはいえ、また体調を崩してるのかなとか、空き巣でも入って連れ去られたか逃げ出したかしたのかなとか、短い間にいろんな想像が頭をよぎる。とりあえず一階に全く気配がないので、階段を上がって様子を見に行く。
 と、仕事部屋に寝ぼけ眼の黒犬の姿が。――今日は暑くなかったせいで、二階で昼寝してたらしい。雨音が激しいせいで僕の帰宅の気配に気付かず、そのまま眠りこけてたようだ。階段を上がる足音でよーやく気付いたってわけで、脅かしやがってこんにゃろーと思うことしばし。
 雨にぬれたタケウチがほっと一息つく脇で、くろべーはいつものように、ワホワホ喜んでグルグル歩きまわっておりましたとさ。

8月27日(月)
 このところ秋が近づいて日が短くなった、って話をよく聞くけれど、僕としては「朝が涼しくなった」ってことを実感している。
 寝相が悪いので明け方に布団がはがれてると冷えて目が覚める。朝の散歩の時も、7時くらいだと朝陽が森の木立に遮られてて直射日光を浴びずに歩ける。お山の朝のきりっとした空気の中を歩くのは気持ちいいし、8月最後の週末が過ぎたせいか別荘族もめっきり減ってくろべーにリードをつけずに歩けるのも嬉しい。くろべーボールパークことリゾートマンションの駐車場からも車が消えてボール遊びし放題だし。
 そんな気持ちいい朝の中、今日は1年物のモミジイチゴ酒をお蔵出し。仕込んでおいた瓶を13か月ぶりくらいに開封し、茶漉しで漉しつつ小さな瓶に移し替える作業である。夜は某アートスポットでの持ち寄りパーティーにお邪魔するので、おいらは珍しい酒でも持参しようと思ったのだ。

 案内チラシをもらった時は、よくアートギャラリーでやってるようなオープニングパーティーみたいなノリかと思い、知人のアーティストに「ちゃんとしたカッコでいかないとまずいかなあ」などと相談したほどだった。しかし行ってみたらもっとはるかにフランクで、陶芸工房でのお好み焼き大会って雰囲気である。もちろん僕にはそっちの方が嬉しいし、それを見越して短パンとサンダルというラフな格好で来てたんだけども。
 棚に乾燥中の彫刻作品がずらっと並んだ空間で、作業台に英字新聞が敷かれ、手作りならではの味わいがある皿やグラスが並んでいる。そこの空間に彫刻家や染織家や陶芸家や竹工芸家が集まって、和気あいあいと談笑&飲食。いい雰囲気だなーとしみじみ。
 おいらのモミジイチゴ酒も女性ウケがいいようで嬉しいかぎり。アートスポットってなんとなく敷居が高く感じちゃうし、アート展で作品だけ見ても「ふーん」って感じで通りすぎちゃうことが多い。それがこういう形で寄せてもらって作家本人に触れるってえと、これからいろいろ見て回る楽しみが増えそうだ。
 つうわけで、まずは名刺もらった人たちの名前でネット検索をかけて作品画像を鑑賞してみようかな。なにげなーく知り合ったけど、実は結構すごい人ってことが多そうでわくわくするなー。

〔タケウチDJ〕
 つうわけで、例によって日記の整理を怠っておりました……実に2月から放置してたのかー。どうもすいません。
 今回ご紹介するお便りもしばらく前にもらったものなんですが……、まずは常連のFukudaさんから。

先日たまたま書店で、本の雑誌増刊『本屋大賞2012』を立ち読みしていたら、
82pに『イン・ザ・ルーツ』も載っていました。
ちゃんと見過ごされることなく、竹内作品の魅力が書店員さんにも
伝わっているのが分かってとてもうれしかったです。

 ほほーと思って、俺も実物を見たらコメントしようと思ってたんですが……
 結局今に至るまで読めておりませーん。本屋事情のよくない田舎暮らしな上、本屋大賞の本って雑誌の扱いみたいで時期がくると書店から消えちゃうみたいですね。

普段は自分以外の竹内ファンの存在を知る術は、タケウチDJでその人のコメントが
掲載された時だけなので、こうやって本に感想が載っているのを見つけると、
「あっ、ここにも仲間発見!!」って感じがしてとても楽しいです。

 僕としても、そういう声に触れることが何よりの励みです。あちこちぶつかりながらの創作活動だけど、作家と読者っていう基本の関係だけは大事にしてきたいと思ってます。
 でも最近は各種SNS経由でご感想やお便りをいただいたりするので、このコーナーを使わなくてもいい感じになってるのかもしれませんね。ネット作業も滞りがちだし、このサイトのありかたもちょっと考えなきゃいかんかなーと思ったりしてる今日この頃。何かご意見などありましたらお寄せください。
 そうそう、それから、現在双葉社のWebマガジン「カラフル」『司書室のキリギリス』って作品を連載してますので、そちらへの御意見ご感想も募集中。学校図書館を舞台にした話なので、実際に学校図書館で働いてらっしゃる方にいろいろ教えていただきたいことの多い今日この頃です……

 さて、お次は以前お便りいただいた「37歳のサラリーマン」さんから。この暑いのに、東京‐糸魚川サイクリングにチャレンジなさったそうで……

こんにちは。先日、ついに念願の八海ラリーを走ってきました。
『自転車少年記』で草太が走った道とほぼ同じコースをたどり、
二日間かけて日本海に到着することができました。

残念ながら僕の脚では、夕日には間に合いませんでした。
でもその代わり、昇平が見たとおりの北極星と北斗七星を見ることができました。
二日間とも激しい雷雨に祟られたけれど、ゴール間際にあのような満天の星空を
見られたことをうれしく思っています。

 すごいなー。僕は最近全然自転車にのってないので、素直に尊敬しちゃいます。
 ていうか一番乗ってた時期でも八海ラリーの距離を走ったことはなかったなあ。
 草太につながる体験も、昇平につながる体験もしてもらえたってことで、あとはパンク修理の時にでもノブくんを思い出してくれたら完璧ですな。

帰宅してから作品を読み返し、あのシーンがすごくよく取材されていることに驚きました。
道路の様子や街の風景などは小説のストーリー展開とは直接関係ないと僕には思われるのですが、
竹内さんはどうしてあそこまで詳細に取材をされたのでしょうか?

 うーん、これは感覚的な話になっちゃうけど……長編小説の執筆を自転車旅行にたとえるなら、ストーリー展開ってのが「八王子から相模湖・笹子峠・諏訪湖・日本海と移動してく」っていう旅程のことで、「道路の様子や街の風景など」ってのはペダルを踏んだりギアチェンジしたりっていう一つ一つの動きに当たる感じです。
 ひと踏みひと踏みクランクを回さないと前には進めないのと一緒で、草太の目に映ることや体で感じることを書いていかないことには書き進められなかったんですよね。特に『自転車少年記』の場合はケータイ連載の形で短い1回1回を積み重ねていったので、そういうリズム感をもとに物語を進めていきました。
 あと、「あそこまで詳細に取材をされた」ってのはそうでもなくて……いくつかのポイントを自分で走ったり、何度か全行程を走った方に話を聞いたりはしたけれど、想像で書いちゃった部分も多いんですよね。作品に没入していると、行ったことない土地の風景でも脳裏に浮かんでくるというか……何はともあれ、実際にあのコースを走った方から「すごくよく取材されている」といってもらえてよかったです。

最後に、せっかくのDJコーナーなので、モーツァルトのクラリネット五重奏曲から
第二楽章、ラルゲットをリクエストします。やや退屈なようでいて、
明るさと悲しさが一体になった清々しさがあり、その楽章がないと作品全体が成り立たない。
まさに草太が日本海まで走るシーンそのものだと思っています。

 これはどっかに書いたかなーと思うけど、『自転車少年記』の核になったのは、初めて自転車に乗れた昇平が坂道を激走しちゃうエピソードと、草太が失恋の勢いで日本海まで走っちゃうエピソードです。その2本の流れの末に北斗が初めて自転車に乗るシーンに辿りつこうと思ってたので、草太のシーンを気に入ってもらえて、実走までしてもらえて、作者としては嬉しいかぎりです。
 刊行から何年かたっても愛されてる作品ってのは作者としても幸せだなーと思いつつ……実は単行本の『自転車少年記』の方は現在絶版になってるんだよね。別バージョンの『自転車少年記・あの風の中へ』は新潮文庫に入ってるとはいえ、もともとの大長編の方もどっかで文庫化されないかなー。こんだけ自転車ブームなんだし、自転車乗りにはかさばらない文庫本が一番なんだから、どっかの版元が「自転車文庫」みたいなレーベルを作ってくれればいいのにね。
 それはともかく、僕は「ラルゲット」と言われると芦原すなおさんの『雨鶏』の中の一編、『ラルゲット・グラティオーソ(ゆったり優美に)』っていう作品を思い出します。文庫本では僕が解説書いてますので、よかったら読んでみてね。

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