映画 日記   (2001年から)     池田 博明 


 
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2008年8月前半に見た 外 国 映 画 (洋画)
見た日と媒体 作  品        感  想     (池田博明)
2008年8月17日

DVD
マッシュ

20世紀フォックス
1970年

116分
 アルトマン監督の出世作にして傑作。DVDの特典には製作裏話やアルトマンの詳しい音声解説が収録されています。画面をクリアにしないためにレンズにフォッグ・フィルターをかけ、誰がアップなのかをはっきりさせない撮影のためにズームレンズを多用し、アドリブで脚本のセリフをほとんど変えてしまいました。エキストラをほとんど雇わず、無名の役者を劇団から登用したものの、セリフが無いと撮影所で雇うことができないので、アルトマンがひとりひとりのセリフを付加していったそうです。「低俗をテーマにすえ、下品なアイデアを採用した」とアルトマンは証言しています。
 移動野戦外科病院(M・A・S・H)での軍医たちの“マッドな”様子を描いた野卑なセリフに満ちた作品は、公開されると大ヒットしました。ベトナム戦争の反戦意識が高まっていた時代にぴったりだったのです。『ニューヨーカー』の辛口の映画評論家ポーリン・ケールの評価も好意的でした。映画のヒットにあやかって製作されたTVシリーズを、アルトマン監督は「敵は細目のアジア人種」という意識が流れている人種差別的な作品で映画の価値観とは正反対と評価しています。アルトマンは原作も人種差別的な単なるお笑いものと酷評しています。
 日本も出てきます。スピーカーでときどき、ラジオ東京から「東京シューシャイン・ボーイ」が流れてきますし(音楽のジョニー・マンデルが歌手を探して録音したもの)、軍医が上官の息子を手術するために日本に赴く場面もあります。和服の芸者と食事をしているところに急病の赤ん坊の連絡が来ます。芸者を日本人が演じていないため、日本人のセリフを極力少なくしてミスが出ないようにしていました。
 映画俳句 「こま切れの 身心が日々の 兵士たち」飛蜘
2008年8月16日

録画
WOWOWで放映(2007年10月4日16:00〜)

パーフェクト・カップル おかしな大恋愛

20世紀フォックス
1979年
112分
 アルトマン流のミュージカル。作曲はアラン・ニコルズ。『ウェディング』の撮影中に浮かんだアイデア、“ロマンティックな”恋人では有り得ないカップルの物語。題名のパーフェクト・カップルは皮肉な意味です。
 クラシックの野外コンサートを聞くアレックス(ポール・ドゥーリー)とシーラ(マルタ・ヘフリン)。にわか雨でグショ濡れになってしまいます。アレックスはギリシア系移民の子でクラシック一辺倒の一家、シーラはポップ・グループ“愛を運ぶ天使 Keepin'Em Off the Streets(やつらを街から追い払え)”のバック・コーラスガール。ビデオ恋人斡旋所の紹介での初デートでした。濡れたシーラは風邪を引き、他のメンバーにも風邪を移してしまいます。躊躇するシーラを強引に押し切って土曜日に次のデートの約束をしたものの、二人はスレ違ってしまいます。喧嘩別れの後、シーラがビデオ斡旋所で紹介してもらった別の男性とアレックスは争いになり、仲裁しようとシーラが振り回した火掻き棒で後頭部に重傷を負います。怪我で二人の距離は縮まりますが、夜中にアレックスの家族に売春婦よばわりされてシーラとの仲は破綻。アレックスは別の女性、獣医のスカイ(アン・リアゾン)を紹介してもらいますが、セックスしか頭に無いスカイの様子を見てアレックスの気持は萎えてしまいます。自分にはシーラしかないと思い切ってグループの追っかけとなったアレックスはグループと一緒にバス巡業をすることになります。しかし、若者たちになじめず、家に戻ったアレックスを待ち受けていたのは持病の心臓病が悪化した妹エロウザ(ベリタ・モレノ)の死。偏狭な父(ティトス・バンディス)に勘当されたアレックスは再びシーラと再会するのでした。クラシックしか認めないアレックス一家がアダムズ・ファミリーのようなフリークス(畸形人間)に描かれています。レズビアンなのに勢いで男とも関係を持ち妊娠して子供の誕生を心待ちにするシーラの友人に対してアレックスは「フリークス(字幕は“変態”)」呼ばわりしますが、むしろポップ・グループは等身大に、かつナチュラルに描かれています。
 ポップ・グループはこの映画のためにアラン・ニコルスが集めたメンバー。アルトマンは、“ソフトで中道を行くロックだな、でも、私は好きだよ。映画とも合っている”と証言していました。アルトマンにとってミュージカルとはこの映画のようなものだそうです。音楽つき物語ではなく、どちらかというと物語つき音楽ということでしょう。
 映画俳句 「見渡せば 偏狭な家族 フリークス」飛蜘

 [参考書]
ロバート・アルトマン『ロバート・アルトマン わが映画、わが人生』(キネマ旬報社,2007年)
2008年8月14日

Bshiで放映(8月7日20:00〜)
ドクター・アトミック
科学者オッペンハイマーの実像

2007年
WGBH
(USA)
92分
 2005年10月1日にサンフランシスコで歌劇『ドクター・アトミック』が上演されました。ジョン・アダムズ作曲、ピーター・セラーズ演出の原爆開発者オッペンハイマー博士を主人公にした異色オペラです。このTV作品はそのオペラの製作過程をオッペンハイマーの記録映像や原爆の記録映像を交えて綴ったもの。Jon Else and Actual Films/WGBH作品、監督ジョン・エルス、撮影ジョン・シェンク、編集デボラ・ホフマン。日本語版制作統括は片山純一。原題は日本の放映では紹介されませんでしたが、Wonders Are Mauy。
 台詞はピーター・セラーズが当時のマンハッタン計画資料から拾って編集、当初は1945年から1950年までのオッペンハイマーを描くつもりだったのですが、資料が膨大なため、結局1945年7月16日のトリニティ実験前の24時間に絞って描くことになったそうです。本番一週間前になっても台本・音楽・演出の変更があって、現場は大変だったようです。
 実験前に原爆を懸念して「原爆が文明に与える影響」という会合を開いた若き物理学者ロバート・ウィルソン役をトム・ランドルからトーマス・グレンに変更してしまうといった強引な歌手変更もありました。
 オッペンハイマー役はバリトンのジェラルド・フィンリー、妻キティ役はソプラノのクリステーン・ジェプソン。フィンリーはコヴェント・ガーデンで『フィガロの結婚』のフィガロや伯爵を歌っている人気歌手です。初演の指揮者はドナルド・ランニクルズ。
 映画俳句 「開演前 砂漠に立つ トリニティ」飛蜘
2008年8月14日

Bshiで放映(8月10日16:00〜)
録画
ドレスデン大空襲

2005年
独ブロードビューTV
88分
 連合国による第二次世界大戦中の無差別爆撃、ドレスデン大空襲の記録を生存者の証言と記録フィルム、再現映像で構成したドキュメンタリー。国際エミー賞受賞作品。原題は Das Drama von Dresden。製作者レオポルド・ホッシュ、編集アンドレ・ハイスファー、監督セバスチャン・デンハート。
 ドイツの美しい都市ドレスデンへの第一波の爆撃は、1945年2月13日の深夜、英国空軍によって行われました。なぜドレスデンが選ばれたのか、どういう経緯で軍需工場も軍事施設も無い、非戦闘員が多い市街中心部が爆撃地点になったのか、それはこの作品では触れられていませんでした。爆撃は英国軍による第二波がその夜のうちに、第三波はアメリカ軍により翌日の昼に行われました。時限爆弾やガソリン爆弾、黄リン入りの爆弾などによる火災で、市街は火の海となり、地獄図と化しました。市民の頭上に雨あられとふりそそぐ焼夷弾や爆弾。犠牲者の数はいまだにはっきりしていないそうです。ヴォネガットは13万5千人と書いていますが、終戦当時は20万人とも30万人とも言われていたのですが次第に減り、最近は2万5千人という数字もあるそうです。
 カート・ヴォネガット・ジュニアが『スローターハウス5』で小説化し、ジョージ・ロイ=ヒル監督が映画化したドレスデン大空襲の実相。
 爆弾を投下した人々は戦争だったから仕方がなかった、ドイツ軍だってロンドンを空襲したと証言しています。戦争によるジェノサイドが当然とされ、ジュネーブ条約や人道に対する罪といった考えが空虚になってしまうことはあってはならないことだと思うのですが。
 映画俳句 「空爆で 焼き尽くされる 民間人」飛蜘

[参考書]
 放映2週間後にヴォネガットの『追憶のハルマゲドン』(早川書房)が出版されました。
 このなかにヴォネガットが直接、ドレスデン爆撃について書いた「悲しみの叫びはすべての街路に」が収録されています。日本版プレイボーイ7月号にも別訳で掲載されているそうです。
2008年8月10日

WOWOWで放映(8月5日)
録画
鯨が来た時

英国
20世紀フォックス

1989年
100分
 ヘレン・ミレンとポール・スコフィールドが共演した作品で、1914年に起こった英国の離島の漁村の不思議な出来事を描いています。原作はマイケル・モルパーゴの小説『なぜ鯨が来たのか Why The Whales Came』。脚本は原作者。監督クライヴ・リーズ、自然光を生かした見事な撮影はロバート・ペインター、格調ある美しい音楽はクリストファー・ガンニング(『名探偵ポワロ』シリーズの音楽担当)。衣装リンディ・ヘミング、編集アンドリュー・ボウルトン。情報の少ない作品ですので粗筋を紹介します。
 70年前、サムソン島の漁師たちは海辺に打ち上げられた鯨を捕り、次々に来た大群を捕殺した。しかし、それは呪いの始まりだった。島には疫病が流行し、井戸が涸れ、漁民は去り、サムソン島は無人島になった。ブライヤー島の漁民にはサムソン島へ行ってはいけないという伝説が語り伝えられていた。
 ジェンキンズ家の娘グレイシー(ヘレン・ピアース)とパーカー家の息子ダニエル(マックス・レニー)は幼馴染で、今日もダニエルの作った模型船を浮かべて海浜で遊んでいて、生まれた弟の洗礼式に遅刻してしまった。ダニエルの父親トレーヴ(ジョン・ハーリアム)は息子を叱り、母親メアリー(バーバラ・アーウィン)が甘やかすからだと批難する。一方、グレイシーはジャック(ディヴィッド・スレルフォール)とクレミー(ヘレン・ミレン)のひとり娘、クレミーは「せめてもう一人」子供が欲しいと願っているが、出来ないのだ。パーカー家には5人の子供がいるのに「不公平だ」と嘆く。夫はそんな妻を優しく慰める。
 嵐の夜、海岸に一人で住む老人バードマン(ポール・スコフィールド)は船を出す。サムソン島に行き、かがり火を焚いているのだ。彼は村人から敬遠されている。ダニエルはバードマンが見事な木彫りの技術を持っているのに気がつく。砂浜に石を並べて文字を書くと、翌朝お土産の木彫が置いてあったりして返事があるのだ。船で本土の小学校に通う生徒たち。先生(ジェレミー・ケント)はムチを持って指導している。女性の助教師(ジョアンナ・バーソロミュー)も一緒。
 ドイツ軍との戦争が始まった。嵐の後、バードマンのことが心配になったダニエルはグレイシーと二人でバードマンの小屋を訪れる。二人が誰もいない部屋に入ると、しばらくしてバードマンが帰宅した。バードマンは耳が聞えないので、戦争のことを筆談で知らせる。バードマンは嵐で材木が浜に流れついたことを知らせ、村人たちに呼びかけるように促す。村人は漂着した材木を隠す。すぐに沿岸警備隊が高級木材の漂着調査に来るが、村人たちは知らぬふりをする。これを機会に、二人はときどきバードマンの許を訪れるようになる。
 浜には若者の死体も流れ着くようになり、ジャックは海軍に志願する。村をあげて、お祝いが行われる。残った家族の生活は困窮した。グレイシーはダニエルと一緒に船を出し、母親に代わって釣りをするが、強い潮流に流され、サムソン島に一時避難する。サムソン島の井戸は涸れ、家は放棄されていた。それとなくバードマンが蜂蜜や卵をクレミーに差し入れ、助ける。「夫は行方不明、絶望的」との連絡が来る。
 バードマンは敵のスパイだという噂をもとに不良のティム(デクスター・フレッチャー)たちがバードマンの小屋を燃やす計画をしている。ダニエルとグレイシーがバードマンに急を知らせに行くと、バードマンは浜で一匹のイッカク鯨を海に返そうとしているところだった。鯨を村の財産として分けようと集まって来た漁民たちにダニエルとバードマンは過去の呪いの歴史を説明する。村長ウィル(ディヴィッド・スーシェ)はみんなに呼びかけて鯨を海に返し、その後に押し寄せてきた大群も火で追い返す。
 村に静寂が戻ったとき、バードマンは呪いの解けたサムソン島に帰っていた。ダニエルが訪れてみると井戸に水が溢れていた。そして、もっと嬉しいことが起こった。死んだと思われていたジャックが無事帰ってきたのだ。
 映画俳句 「無人島 鯨の呪いの 解けるとき」飛蜘
2008年8月9日

WOWOWで放映(8月5日)

録画
クィーン

英国
グラナダ・プロ
2006年
(日本公開は2007年)
1時間44分
 1997年、ダイアナ妃の交通事故死後の一週間をエリザベス女王(ヘレン・ミレン。本作でアカデミー主演女優賞)中心に描いた映画。クィーンに助言するのは就任直後の新首相ブレア(マイケル・シーン)。監督はスティーブン・フリアーズ、脚本はピーター・モーガン。
 ダイアナに対して冷淡だと国民に批難された王室が、態度を変えた経緯と女王の決断を好意的に描いています。女王が河辺で出会う立派な鹿が王室のモチーフ・イメージとなります。女王はこの美しい鹿が夫らに撃たれないように追い払いますが、数日後に隣接する別の森で別の狩人に撃たれたことを聞き、お忍びで見に行きます。そして、彼女は鹿に対して哀悼の意を表します。つまり、不意に撃たれて倒れる鹿がイギリス王室の象徴です。鹿をダイアナの象徴と見る意見もありますが、角の生えた立派なオス鹿ですから、ダイアナに御するのには無理があるでしょう。
 ダイアナの事件では国民の意識の変化を読み取った女王の正しい判断と的確な行動で、王室への攻撃は消えましたが、いつ不意打ちをくらうか分からない状況は変わらないのです。
 映画俳句 「王室の 権威をゆるがす ダイアナ妃」飛蜘
2008年8月7日

WOWOWで放映(8月5日)

録画
英国万歳!

1994年
(日本公開は1997年

英国
111分

 アルトマン監督が“圧倒されて”、『ゴスフォード・パーク』の撮影監督に指名したアンドリュー・ダンの仕事を見ることのできる作品。主演はジョージ3世役のナイジェル・ホーソンと、シャルロット王妃役の『ゴスフォード・パーク』のヘレン・ミレンです。監督はニコラス・ハイトナー。
 原作はアラン・ベネットの舞台劇『ジョージ3世の狂気』。
 早朝起きて駆け出したり、エリザベスに抱きついたり、卑猥な言葉を吐いたりと奇行が目立つようになったジョージ3世。皇太子ジョージ(ルパート・エヴェレット)は議会で自分を摂政にする法律を通そうと画策、ピット首相はそれを阻止しようとします。王妃とエリザベスは牧師上がりの精神科医ウィリス(イアン・ホルム)を推薦。
 医師ウィリスは拘束を主とする強権的な治療で王の自制心を回復させます。
 尿が空色だったと報告されたお付きの無能な医者ベイカー(ロジャー・ハモンド)が「他の医者に見せろ。大事なのは(尿の色ではなく、症状の)観察だ」というのが可笑しい。
 回復した後、病気時代の付き人たちを容赦なく解雇する王。側近からは、「上流階級には感情が無いんだ」と評価されます。
 最後のクレジットで、王はポルフィリン症による神経症でこの遺伝病は発症が突発的で予測できないと補足されます。
 城中から郊外へ強制的に連れ出される狂気の王を見かけた王妃が駆け出して行く、その王妃の前を馬車に乗せられた王が王妃に未練を残しながら去って行くといったあたりのダイナミックな移動撮影を交えたワンシーン、ワンカットは見事です。
 映画俳句 「英国は 内外の激務 狂う王」飛蜘

 この作品で描かれる皇太子がジョージ四世で、ジョージ三世が1810年に回復の見込みが無い異常を発症した翌年に摂政Regentとなり、1820年に即位、1830年に亡くなった。この間を摂政時代(リージェンシー)と呼び、その後のヴィクトリア朝と異なり、「放蕩、贅沢、自由奔放、快楽主義」の風潮だった。ジェイン・オースティンが小説を書いた時代であり、戦後の英国人が好む「時代劇」の時代である。(2008年9月24日追記)

[参考書]
 新井潤美『自負と偏見のイギリス文化』(2008年9月,岩波新書)
2008年8月6日

DVD
ゴスフォード・パーク

2001年
137分
USA
 ロバート・アルトマン監督がクリスティー風の推理劇に挑戦した作品。とはいえ、推理が主ではありません。時代は世界大戦の間の1932年11月。広大な敷地をもったカントリー・ハウスで、階上の貴族と階下の使用人たちの世界が描かれます。メイドのエルシー役のエミリー・ワトソンが「英国の恥部」と呼ぶ強い階級意識の社会。アルトマン曰く、「ヴァイマール共和国をナチスが倒す前の最後の季節だ。それはまた階上と階下に分かれた世界、年季奉公の召使が成立する世界の最後の季節でもあった」。ジュリアン・フェローズの脚本がアカデミー賞を受賞しました。彼の音声解説は非常に詳細で、貴族のルールの解説など参考になります。
 伯爵夫人(マギー・スミス)の新米メイドのメリー(ケリー・マクドナルド)が初めて上流階級の邸宅に招待されて戸惑いながらも、研修することを通して、観客は二つの世界に案内されます。彼女はマッコードル卿(マイケル・ガンボン)殺人事件の素人探偵役も務めます。
 階上と階下の世界を結ぶために、階上の人の傍には必ず使用人がいるように演出されました。当時の生き証人たち、執事のアーサー・インチ、厨房のルース・モット、パーラーメイドのヴァイオレット・リジーらが細かい決まりやしぐさの助言をしました。
 メイド頭ウィルソン夫人(ヘレン・ミレン)は「完全な使用人(perfect servant)に必要な能力は先を読む力だ」と言い、完全な使用人には「(自分の)人生は無い( have no life )」と断言します。メイド頭は料理長クロフト夫人(アイリーン・アトキンス)とは仕事が重なることもあり、反目しています。
 アルトマンの演出では役になりきった人々が即興でする会話をミニ・マイクで拾い、編集で取捨選択し、つないでいきます。2台のカメラと様々なレンズを駆使し、監督は役者の“ミステイクスを待つ”と表現しています。最後のクライマックスのメイド頭と料理長の二人の女性の場面も、冒頭の「聞えるわよ」という言葉以外は、即興だというから驚きです。
 階下のガラス窓を通した究極の照明と、『ロング・グッドバイ』で試みたゆっくりとしたパンを主とした撮影(アンドリュー・ダン撮影の『英国万歳!』を見て、アルトマンは「どうやってあんなふうに人を圧倒するものが撮れたのか、見当がつかなかった。ただどのフレームにも“ホット・スポット”(異様に明るい部分)があって、それが画面に深みを与えているのはわかった」と証言しています)、そしてスムーズな編集(アン・リー監督『いつか晴れた日に』のティム・スクワイヤーズ)。控え目な音楽はケネス・ブラナー監督の映画で著名な英国のパトリック・ドイル。
 主要キャストとして外箱に記載されていない役者でも重要な階下のキャストとして、執事に好意的なメイドのドロシー役のソフィー・トンブソンはエマ・トンプソンの妹、女主人シルヴィア(クリスティン・スコット=トーマス)の付き人ルイス役のメグ・ウィン・オーエン。ジャネット役のフィンティ・ウィリアムズはジュディ・デンチの娘です。尻軽なキッチン・メイドのバーサ役はテレサ・チャーチャー。事業に失敗した主人メレディスの付き人バーンズ(エイドリアン・スカボロー)、サラ(フランシス・ロウ)。
 映画俳句 「上流の 勝手知ったる 使用人」飛蜘

[参考書]
新井潤美『へそ曲がりの大英帝国』(平凡社新書,2008年)
ロバート・アルトマン『ロバート・アルトマン わが映画、わが人生』(キネマ旬報社,2007年)
2008年8月5日

DVD ハピネットピクチャーズ

名探偵ポワロ

スタイルズ荘の怪事件

103分

英国1990年9月16日放映
 短編ものとはタイトルのロゴが異なる。原作 Mysterious Affair at Styles はクリスティーの処女作。脚色クライヴ・エクストン、演出ロス・デヴェニッシュ。制作総指揮ロブ・ハリス、撮影監督ヴァーノン・レイトン、第一製作者はニック、製作者はブライアン。
 戦線記録フィルムを病院で見る兵士たち。第一次世界大戦で負傷したヘィスティングズ中尉は、旧友ジョン・カヴェンディッシュ(ディヴィッド・リントール。声は樋浦勉)の招きでスタイルズ荘に滞在することになります。ジョンの母親で屋敷の女主人エミリー(ジリアン・バーグ。声は阿部寿美子)は、20歳も年下のイングルソープ(マイケル・クローニン。声は銀河万丈)と再婚しており、その件で友人エヴィー・ハワード(ジョアンナ・マッカラム。声は野沢雅子)と喧嘩、彼女を追い出した後、夫と浮気のことで言い争い、ストリキニーネで殺害されてしまいます。中尉は以前に世話になって、村で再会したポワロに捜査を依頼します。ポワロは女主人の部屋を調査して、六つの注意点を挙げます。粉々に成ったコーヒーカップ、鍵がさしこまれたままの書類箱、カーペットのコーヒーの染み、ドアの錠にはさまった深緑色の繊維、ろうそくのロウ、睡眠薬の空箱。暖炉には灰になった遺言状。ここまで前篇。
 検死審問では薬局から犬用にストリキニーネを購入した人物がイングルソープと署名。ローレンスは母親は自然死だったと主張し、メアリーはX氏と夫人との口論の内容を覚えていないと証言します。メアリーが何かを隠していることはあきらかですが、いったい何を隠しているのかが分かりません。陪審員は謀殺と判断しますが、犯人は特定できませんでした。状況から、イングルソープは逮捕されそうになりますが、ポワロが彼のアリバイを証明します。しばらくして、ジョンが逮捕され、中央裁判所で裁判が行われます。空の毒の小瓶がジョンの部屋から発見されたりと不利な状況です。
 養女シンシア(アリー・バーンズ。声は安達忍)は、ヘィスティングズにジョンの妻メアリー(ビーティ・エドニー。声は幸田直子)や彼の弟ローレンス(アンソニー・カルフ。声は田中正彦)から嫌われていると告白、ヘイステイングズはシンシアに「僕の妻に」と求婚します。シンシアは笑って「元気が出たわ」と感謝。隣のレイクス夫人(ペネロープ・ビューモント)は、ジョンとなにかつながりがありそうです。
 ヘィステイングスがポワロと組んで解決する最初の事件です。
 他のキャストはウィルキンズ医師(マイケル・ゴッドリー)、メイドのドーカス(ララ・ロイド)など。
 映画俳句 「支えたり 支えられたり 戦傷者」飛蜘 
2008年8月5日

DVD ハピネットピクチャーズ
名探偵ポワロ

西洋の星の盗難事件

52分

英国1990年3月4日放映
 西洋の星の盗難事件 The Adventure of the Western Star。原作は「<西洋の星>盗難事件」『ポアロ登場』。脚色クライヴ・エクストン、演出リチャード・スペンス。制作総指揮マイク、撮影監督イヴァン、第一製作者ニック、製作者はブライアン。
 ジャップ警部はヴァン・ブラックス(シュトルアン・ロジャー)を盗品買いの容疑で逮捕します。宝石商はホフバーグ(ブルース・モンタギュー)。けれども、ヴァン・ブラックスは総監から横槍が入って釈放。
 ポワロはうきうきしています。ベルギーの女優マリー・マーベル(ロザリンド・ベネット。声は榊原良子)が訪れて来るというのです。ところが突然の電話が入ってマリーの泊まったホテルに行くことに。
 マリーは夫グレゴリー・ロルフ(オリヴァー・コットン。声は瑳川哲朗)が購入してくれた宝石「西洋の星」を奪うと言う脅迫状が届けられたと訴えます。「西洋の星」は「東洋の星」と一対で中国寺院の神像の右目と左目であり、いずれ二つの宝石は出会って神のもとへ戻るという伝説があります。「東洋の星」はレディ・ヤードリー(アリスター・キャメロン。声は池田昌子)が持っているという話で、週末にヤードリー・チェイスに行くときに、マリーは「西洋の星」を身に着けていたいというのです。
 ポワロが理髪店でもみあげの左右をそろえてもらっている間に、事務所にはヤードリー夫人が来訪、大尉が先走って宝石盗難の予告だろうと推理します。ポワロと大尉がヤードリー邸を訪れたその晩に、夫人の胸元から宝石が奪われます。奪ったのは中国人だったとか。けれども、これは狂言でした。夫人がポワロのもとにやって来て事情を告白します。マリーの夫ロルフに夢中だったときがあり、そのことをネタに3年前に「東洋の星」を取られたのでした。そしてまた、マリーの「西洋の星」も盗難にあいます。ロルフになりすました中国人によってホテルの貸し金庫の宝石箱から盗られたのです。ポワロは宝石のありかを推理し、しかるべき持ち主に返す努力をします。
 他のキャストはムリング(スティーフェン・ハンコック)、巡査部長(イアン・コリア)、ドゥーガル警部(バリー・ウールガー)。
 映画俳句 「想い出に 片目をつぶる 神の像」飛蜘
2008年8月5日

DVD ハピネットピクチャーズ
名探偵ポワロ

誘拐された総理大臣

52分

英国1990年2月25日放映
 誘拐された総理大臣 The Kidnapped Prime Minister 。原作は「首相誘拐事件」『ポアロ登場』。脚色クライヴ・エクストン、演出アンドリュー・グリーヴ。制作総指揮ロブ・ハリス、撮影監督イヴァン、第一製作者ニック、製作者ブライアン。
 駅で首相を待つジャップ警部ら。遅れて到着した首相の車から降りた首相は途中で暗殺未遂事件に遭遇したという。頬を銃弾がかすめたため顔には包帯が巻かれています。
 ポワロは仕立て屋フィングラー(ミロ・スパーバー)に上着の寸法を取ってもらっていましたが、フィグラーが「太った」というと、ポワロは「そんなはずはない、巻尺が縮んだのだ」と答えます。ポワロはフィグラーに「ずけずけと言い過ぎます」と忠告さえする始末。ヘィスティングス大尉が「なぜ一流の店に頼まないのか」と尋ねると、ポワロは「フィグラー氏は芸術家です。芸術家にはそれを理解するひとが必要です」と答えます。
 外務省のドッジ事務次官(ロナルド・マインズ。声は内田稔)から極秘捜査の依頼が来ます。首相がパリで誘拐され、居場所が不明だと言うのです。翌日にはパリで国際連盟の軍縮会議が開催されるため、欠席すればイギリスとしては重大な結果になりかねません。時間はあと32時間15分。ポワロはパリに行かずにロンドンで捜査するので、ドッジ氏は気が気ではありません。本当にポワロに依頼して良かったんだろうかと疑っています。ポワロは運転手イーガン(ジャック・エリオット)の経歴やダニエルズ中佐(ディヴィッド・ホロヴィッチ。マープルもののスラック警部役。声は外山高士)の経歴、中佐夫人(リサ・ハロー。声は中西妙子)の旧姓などをジャップ警部に調査してもらいます。するとそこにはアイルランドという共通項がありました。
 他のキャストは首相(ヘンリー・モクソン)、ホッパー巡査部長(オリヴァー・ビーミス)、エステア卿(パトリック・ゴドフリー)、ノーマン曹長(ティモシー・ブロック)、女主人(ケイト・ビンキー)。
 映画俳句  「《ポワロの背広》 仕立て屋の 寸法通りで 窮屈に」飛蜘
2008年8月5日

DVD ハピネットピクチャーズ
名探偵ポワロ

安いマンションの事件

52分

英国1990年2月18日放映

 安いマンションの事件 The Adventure of the Cheap Flat。原作は「安アパート事件」『ポアロ登場』。脚色ラッセル・マレー、台本助言クライヴ・エクストン、演出リチャード・スペンス。他は前回同様。
 ポワロと大尉と警部はアメリカ映画の鑑賞中ですが、銃撃戦となり、車の衝突で終わるバイオレンス・アクションにポワロは眉をひそめます。
 折りしもFBIのバート捜査官(ウィリアム・ホーキンス。滝口順平)がカーラ・ロメロ(ジェニファー・ランドール。声は戸田恵子)を追跡してアメリカからやって来ます。新型の潜水艦の青写真を海兵ルイジ(ナイジェル・ホイットメイ)を手玉に取って入手、イギリスに夫(ルーク・ヘイドン。声は秋元羊介)とともに逃亡して来たというのです。バート捜査官は「マフィアやコーザ・ノストラなんて組織は存在しない」という信念を持ち、私立探偵を馬鹿にしています。ジャップ警部は頭ごなしに命令されるので面白くありません。
 一方、ステラ(サマンサ・ボンド。声は頓宮恭子)とジェイムズ(ジョン・ミッチー。声は江原正士)のロビンソン夫妻は安マンションを契約することが出来て大喜び。彼らの前に契約しようとしたエルシー(ジェンマ・チャーチル。声は山岡葉子)は名前を聞かれただけで断られたというのに。
 ポワロはブラック・キャットの歌手エルサ・ハートがカーラではないかと推理し、ミス・レモンを新聞記者として派遣し、彼女の事情を探らせます。組織を裏切って青写真を他へ売ろうとするカーラを暗殺者(アンソニー・ペドリィ。声は青森伸)が狙っていました。 
 他のキャストはポール(ピーター・ハウエル)、ブラックキャットの経営者バニー(ニック・マロニー)、テディ(イアン・プライス)。
 映画俳句 「アメリカ出 絶対の自信 捜査官」飛蜘
2008年8月5日

DVD ハピネット・ピクチャーズ
名探偵ポワロ

二重の罪

52分

英国1990年2月11日放映

 二重の罪 Double Sin。原作は「二重の罪」『教会で死んだ男』。脚色クライヴ・エクストン、演出リチャード・スペンス。制作総指揮マックス・オックスレィ、撮影監督は二人になり、ピーター・バートレットとヴァーノン・レイトン。
 引退をほのめかすポワロ。保養地へ大尉とバスツアーで出かけます。一緒になった若い娘メアリ・ダラント(キャロリン・ミゥモー。声は玉川紗己子)は叔母ペン(エルスペット・グレイ。声は藤波京子)から預かった1500ポンドの細密画を持っていると話す。大尉は少女に気を魅かれますが、ポワロは「(高価な品物を持っているなどと広言するのは)おバカさんだ」と相手にしません。案の定、12枚セットの肖像画がトランクから盗まれてしまいます。大尉は可愛い少女のために探偵役で努力しますが、ポワロは「既に引退した」と言って、協力しません。細密画は既に画商ウッド(マイケル・J・シャノン)に売却されていました。大尉はバスを途中で降りた無遠慮な男が怪しいと狙いをつけ、首尾よくその男と一緒にいた女を捕らえますが、この二人、新聞で話題の駆け落ちカップル、アマンダ・マンダレィ(アマンダ・ガーウッド)と小説家のノートン(アダム・コッツ)でした。ウッドに面通しすると細密画を売りに来た女は年寄りで男に変装していたと言います。
 ジャップ警部はウィットコム女子大学の講演でポワロを激賞します。密かに聞きに来たポワロは気分がよくなって、事件の捜査に協力します。大尉はウッドが仕組んだ盗難劇と推理しますが、ポワロはメアリーの車椅子の叔母ペンに注目します。
 他のキャストはヴィニー巡査部長(ディヴィッド・ハーグリーヴズ)、警官(ジェラルド・ホーラン)。ミス・レモンが事務所の合鍵を置き忘れ、紛失したときの行動を一から思い出して、鍵を見つける挿話があります。
 映画俳句 「《ポワロの自負》 お忍びで 警部の講演 聴いてみる」飛蜘
2008年8月5日

DVD ハピネット・ピクチャーズ
名探偵ポワロ

ダベンハイム失そう事件

52分

英国1990年2月4日放映
 第4話 ダベンハイム失そう事件 The Disappearance of Mr.Davenheim。原作は「ミスタ・ダヴンハイムの失踪」『ポアロ登場』。脚色ディヴィッド・レンウィック、演出アンドリュー・グリーヴ。
 大邸宅に住んでいる銀行の頭取ダベンハイム(ケネス・コリー。声は納谷悟朗)は郵便を出しに出かけたまま忽然と消えてしまいました。ライバルのローエン(トニー・マシューズ、声は家弓家正)と道ですれ違うはずなのに、会わずに失踪したのです。ダベンハイムは出発前に序曲「1812年」のレコードをかけました。夫人(メル・マーティン、声は喜多道枝)は夫は出張するといつも高価な宝石を土産に持参してくれたと言います。
 ポワロ・大尉・警部は美女消失のマジック・ショーを見物。ジャップ警部はポワロと5ポンドの賭けをします。部屋から出ずにダベンハイム失踪事件を解けるかどうかと。大尉がポワロの手足となり、調査します。メイド(フィオナ・マッカーサー)にもジャップ警部が聞いた後、ヘイステキングズも聞くといった具合ですが、ポワロの質問は「ローエンの洋服の色は何色?」というような一見事件とは関係が無いようなものです。ボート屋の番人メリット(リチャード・ビール)は当日浮浪者2人と自転車の女を見かけただけだと証言します。警察はスピードレーサーでもあるローエンに容疑をしぼりこんでいきますが、ポワロは最初からローエンが犯人ではないと断言します。掏りのケレットがジャップ警部の財布をスリ取って捕縛されますが、彼の持ち物からダベンハイムの印章付き指輪が発見されます。ケレットはある紳士が捨てた物を拾ったのだと証言します。そこでケレットに面通しをさせることになります。そのなかにローエンも加えて、いよいよ大詰め・・・
 ポワロは友人から預かったオウムの世話をする羽目になります。そして今回のポワロはいろいろな手品に凝っており、練習してミス・レモンに見せたりします。キャストは他に巡査部長(ボブ・メイソン)、警官(ピーター・ドーラン)、配達員 (スチュワート・ハーウッド)、整備工(ジョンティ・ミラー)。
 映画俳句 「大砲の 轟音響く 大序曲」飛蜘
2008年8月5日
DVD ハピネット・ピクチャーズ
名探偵ポワロ

コーンワルの毒殺事件

52分

英国1990年1月28日放映
 第3話 コーンワルの毒殺事件 The Cornish Mystery。原作は「コーンウォールの毒殺事件」『教会で死んだ男』。脚色クライヴ・エクストン、演出エドワード・ベネット。   
 歯科医の夫(ジェローム・ウィリス。声は大木民夫)から毒を盛られているようだとポワロに訴えるペンゲリー夫人(アマンダ・ウォーカー。声は公卿敬子)。翌日、夫人の屋敷を訪れたポワロと大尉はメイドのジェシー(ティリー・ヴォスバー。声は一城みゆ希)から、夫人が1時間前に亡くなったと知らされます。ポワロは助けを求めて来た夫人を死なせてしまったことを悔やみます。アダムズ医師(デレク・ペンフィールド。声は松岡文雄)は夫人は間違いなく胃炎だったと断言します。夫人は夫の医師が金髪の助手エドウィナ・マークス(ローラ・ジルリング)と恋愛関係にあったと言っていました。姪フリーダ・スタントン(クロー・サラマン。声は弥中和子)は自分の婚約者ジェイコブ・ラドナー(ジョン・ボウラー、声は堀勝之祐)に叔母が夢中だったと言います。遺言によれば2000ポンドが姪に、残りは夫に。町民は夫を毒殺犯人と噂します。検死審問では夫に不利な証言が続きます。ポワロは真犯人に自白させるため、脅迫に近い手段を使います。
 映画俳句 「金髪の 歯科助手に眩む 大尉かな」飛蜘
2008年8月4日

名探偵ポワロ

消えた廃坑

52分
英国1990年1月21日放映
 第2話 消えた廃坑 The Lost Mine。原作は「消えた廃坑」『ポアロ登場』。脚色マイケル・ベィカーとディヴィッド・レヌィック、演出エドワード・ベネット。
 ポワロとヘィスティングスは双六(すごろく)の投資ゲーム中。一方、廃坑になったビルマの鉱山は銀の価値がありながら、鉱脈が不明でした。地図を持っている中国人実業家ウー・リンが上海銀行との交渉のため英国にやって来ますが、約束の時刻に彼は役員会に現れず、ホテルから消えました。銀行の頭取ピアソン(アンソニー・ベイツ。声は村松康雄)がポワロに相談に来ます。ウー・リンは刺殺死体となって発見されました。
 警察の最新の無線捜査でウー・リンと一緒に船にいたという前科者レジナルド・ダイヤー(ジェイムズ・サクソン。声は島香裕)を中国人街で捕縛します。ただし、証拠不十分で釈放せざるを得ませんでした。警察はここ七年間も中国人がからむ秘密結社を捜査してきたのです。ウー・リンのメモに株式仲買人チャールズ・レスター(コリン・スティントン。声は中田浩二)の名前がありましたが、警察はレスターの捜査をする時間が無く、ポワロ任せになっています。レスターはウーに会いにホテルに面会に行ったことを隠していました。ポワロはジャップ警部にウーがホテルに残した灰皿の吸いさしに色が付いていたこと、マッチをスーツケース内に入れて持っていながらなぜ受付係にマッチをくれと言ったのかが解ければ、事件は解決すると言います。レスターの妻(バーバラ・バーンズ。声は弘中くみ子)が夫の身を案じてポワロに相談に来ます。夫のジャケットのポケットにウーの旅券が入っていました。どうもレスターにとっては不利な証拠ばかりです。警察が中国人街のある店を捜査すると、地下は阿片窟になっていました。そして阿片窟の中に売人としてダイヤーがおり、中毒者としてレスターがいました。
 ポワロは警察で真犯人を指摘します。ところで、ポワロは常に444ポンド4シリング4ペンスに預金を保つように心がけているにもかかわらず、残高が無くなっていると言われて、愕然とします。その原因は・・・ポワロの預金忘れでした。
 映画俳句 「入りびたり チャイナタウンに 阿片窟」飛蜘
2008年8月4日

DVD ハピネット・ピクチャーズ
名探偵ポワロ

ベールをかけた女
52分
英国1990年 1月14日放映

 第2シーズン、制作総指揮ロブ・ハリス、撮影監督ピーター・バートレット、製作者ニック。
 第1話 ベールをかけた女 The Veiled Lady。原作は「ヴェールをかけた女」『ポアロ登場』。脚本クライヴ・エクストン、演出エドワード・ベネット。
 バーリントン商店街の宝石店で強盗が行われます。店主は通行人に「泥棒だ。捕まえてくれ」と叫びます。
 最近、ポワロには依頼がありません。犯罪者がポワロを恐れて事件を起こさなくなったからだとポワロは語ります。「犯罪者はポワロさんなんか知りませんよ」というヘイスティングスの答えにポワロは憮然とします。事務所にはポワロの留守中、ベールをかぶった女が依頼に来ます。久しぶりの事件で、ホテルで女に会うと、女は実は侯爵と婚約中のミリセント嬢(フランセス・バーバー。声は小原乃梨子)だと自己紹介し、16歳のときに書いた探険家への恋文を2万ポンドで買えとラヴィントンという男に脅迫されていると訴えます。そこでポワロはラヴィントン氏(テレンス・ハーヴェイ。声は有川博)を事務所に呼び、交渉しますが、受け付けられません。ラヴィントンがパリに行っている間に、スイス人の錠前屋と偽って、ポワロがラヴィントン邸を訪問します。家政婦ゴッドバー(キャロル・ヘイマン。声は寺島信子)は最近このウィンブルドンにはテニスコートができたおかげで、有象無象が集まって来るようになったと不満を言います。家政婦はポワロに「住み込みではない」と言いますが、本当は住み込み。ポワロの目つきを怪しんだ家政婦は夜中にこっそり起きて見張っていたのです。そうとは知らないポワロとヘィスティングズ大尉は屋敷に忍び込み、薪の中に隠してあった中国製の小箱を発見します。中には夫人の手紙が入っているはずです。17分毎にパトロールする巡査(トニー・スティーブンス。声は関根信昭)が家政婦の通報でやって来て大尉は逃亡、ポワロは逮捕されてしまいます。
 留置所に大尉の通報でジャップ警部が来てくれて、なんとかポワロは出してもらえますが、ジャップ警部から、ラヴィントンは既に先週の火曜日にオランダで殺されていたと聞きます。だとするとポワロたちが会ったラヴィントン氏は偽者だったということになります。いったいなぜでしょうか。女首領ガーティが率いる組織的な宝石泥棒グループが背後にいるようです。
 映画俳句 「泥棒も 超一流の 名探偵」飛蜘
2008年8月4日

DVD ハピネット・ピクチャーズ
名探偵ポワロ

エンドハウスの怪事件

102分
日本語版90分
英国1990年1月7日放映
 長編 A Peril an End House。原作は『邪悪の家』。脚色クライヴ・エクストン、演出はレニー・ライ。制作総指揮はマイク、撮影監督ピーター・バートレット、第一製作者ニック、製作者ブライアン。
 ポワロは休暇でヘイスティングスと英国南部の町セント・ルーに来ました。海岸でくるぶしを痛めたポワロを助けたニック(本名はマグダラ)・バックリー(ポリー・ウォーカー。声は中村晃子)。彼女の帽子に銃弾の穴が開いていました。彼女は海岸の古い屋敷エンド・ハウスに愛着を持っていました。架けた絵が落下する、車のブレーキがきかない、石が転落すると彼女の命は誰かに狙われているようです。屋敷に同居していたのは友人のフレディ・ライス夫人(アリソン・スターリング)。そして、ラザラス(ポール・ジョフリー)が踊りに来ています。ニックに惚れているらしいジョージ・チャレンジャー中佐(ジョン・ハーディング。声は前田昌明)もいます。
 ポワロの勧めでニックはヨークシャーから従妹のマギー(エリザベス・ダウンズ)を呼びました。花火の夜、衣装を着替えたマギーが撃たれて殺されます。ここまでが前篇。
 弁護士のバイス(クリストファー・ベインズ)はニックの遺言状は受け取っていないと言います。農夫クロフト(ジェレミー・ヤング)とその母ミルドレッド(キャロル・マックレディ)が勧めて、お手伝いのエレン(メアリー・カニンガム)夫妻の立会で作成したはずだと言うのですが。冒険家マイケル・シートンが世界旅行仲に行方不明、死亡したと思われるとニュースが流れます。マイケルとマグダラ・バックリーが婚約しており、マイケルに遺された莫大な遺産は、マイケルが亡くなった後はその妻であるマグダラに残されていることが分かります。莫大な遺産を狙った犯行でしょうか。注意していたにもかかわらず、病院にポワロ名義で届けられたコカイン入りのチョコレートを食べてニックが危篤、やがて死んだという情報がもたらされます。遺言状が急にバイス弁護士のもとに届きます。内容公開を全員の前で行うポワロ。いよいよ犯人も明らかになります。
 主演のポリー・ウォーカーの表情がくるくる変わるのが大変魅力的。あるときは無邪気に、あるときは大胆に。
 他のキャストにウィルソン(ジオフェリー・グリーンヒル)、警部(ゴッドフリー・ジェイムズ)、アルフレッド(ジョー・ベイツ)、ホテル受付嬢(ジェイン・ペイトン)、グラハム医師(ジョン・クロッカー)、フード(フェルガス・マックラーノン)。
 ポリー・ウォーカーは『D−TOX』『ロザンナのために』『エマ』『パトリオット・ゲーム』に出演しています。エレン役のメアリ・カニンガムは「レディ・フランシスの失踪」『名探偵ホームズ』のコルダー役で出ています。ラザラス役のポール・ジョフリーは「ウッドストック行き最終バス」『主任警部モース』のピーター・ニューラブ役で出演。
 映画俳句 「姿無き 失敗を繰り返す 殺人者」飛蜘
2008年8月4日

DVD ハピネットピクチャーズ
名探偵ポワロ


英国LWC
52分
英国1989年3月19日放映
 第10話 夢 The Dream。原作は「夢」『クリスマス・プディングの冒険』。第一シーズン最終作品。脚本クライヴ・エクストン、演出エドワード・ベネット。
 1935年にパイの売り上げNo.1を記録したファーリー社の50周年記念の新工場開きの日、娘のジョアンナ(ジョーリィ・リチャードソン。声は水沢アキ)は恋人ハーバート(マーティン・ウェンナー。声は曽我部和恭)が解雇されたことを知り、父親を憎みます。ポワロはベネディクト社長から依頼を受けます。こんな会話があります。
 ヘィスティングス大尉「依頼人はパイ作りのベネディクトですね」、ポワロ「パイを作る?ベネディクトが。ワーグナーが16分音符を書くようなものです」、ヘイスティングス「最高ですね」、ポワロ「いや最低、品質が。数は最高ですが」。
 会見はポワロひとりだけ、しかも社長は「毎晩、同じ夢を見る。12時28分になると拳銃で自分の頭を撃つ。何か意見は?」と尋ねます。ポワロが証拠が乏しくて意見など述べられませんと答えると、社長は「では、終わりだ」と会見を打ち切ります。ポワロが返却した呼び出し状の間違いに気がつかない社長は、目が見えなくなっているようです。やがて、ベネディクト社長が12時の組合の責任者との打ち合わせをすっぽかし、秘書が社長を確認すると、社長が銃を持ち倒れているのが発見されます。ポワロに話した夢の通りに事件が起こったのです。だとすると、夢のとおりの自殺ということになります。社長の夢のことを聞いたことがあるのは年若い未亡人ルイーズ(マリー・タム。声は井上遙)だけ。娘ジョアンナや有能な秘書ヒューゴ(アラン・ハワード。声は阪脩)、かかりつけの医師(ポール・ラクークス)などは聞いたことがないと答えます。
 ポワロの灰色の脳細胞にヒントを与えたのは、ポワロの秘書レモンが時間を知るために窓から乗り出して教会の時計を見た瞬間でした。ポワロは事件解決のお礼にレモンに時計を贈ります。実はレモンが欲しがっているのは新しいタイプライターだったのですが。
 娘役のジョーリィ・リチャードソンは英国の大女優ヴァネッサ・レッドグレーブの娘です。
 映画俳句 「《社長の勤勉》  工場の 煙突を見て 検査する」飛蜘
2008年8月4日

DVD ハピネットピクチャーズ
名探偵ポワロ

クラブのキング

英国LWC
52分
英国1989年3月12日放映
 第9話 クラブのキング The King of Clubs。原作は「クラブのキング」『教会で死んだ男』。脚色マイケル・ベイカー、台本助言クライヴ・エクストン、演出レニー・ライ。
 撮影所で女優の演技にダメを出しているのは監督ではありません。製作者リードマン(ディヴィッド・スイフト。声は滝口順平)です。ヘイスティングスの友人バニー・ソーンダース(ジョナサン・コイ。声は堀勝之祐)の第1回監督作品というので、ヘイスティングスと撮影所を見学したポアロは、リードマンに怒られて解雇を宣告されているサイレント時代の俳優ラルフ・ウォルトン(ゴーン・グレインジャー。声は中庸助)を見ます。リードマンは女優ヴァレリー・サンクレア(ニアム・キューザック。声は土井美加)に後で事務所に来るように言います。ポワロは撮影所でモーラニア国のプリンス、ポール(ジャック・クラッフ。声は柴田光彦)に出会います。ポールはヴァレリーと婚約している仲で、映画の出資者でした。リードマンはヴァレリーの秘密を知って脅しているようです。さて、その夜、リードマンと試写を見た後で車で帰る途中にソーンダースは暴走してくるラルフの車とすれ違います。夜間にリードマンの家を訪れたヴァレリーは部屋を飛び出して、隣のウィローズ荘に駆け込みます。すぐに警察に連絡がありますが、ポワロはプリンスからの電話でヴァレリーの一大事だから助けて欲しいと依頼されます。リードマンが鈍器で殴られて死んでいるのでした。現場を見たポワロは窓のカーテンが開いていて、隣のウィローズ荘が見えた事を不審に思います。ヴァレリーが「ひと殺し、彼は殺されている」と駆け込んだとき、ウィローズ荘のオグランダー家はブリッジをしていたそうです。オグランダー夫人(エィヴリル・エルガー。声は小沢寿美恵)と娘ジェラルディン(アビゲイル・クラッテンドン。勝生真沙子)と息子ロニー(ション・パートウィー。声は森一)、足の悪い夫の四人です。
 ポワロは、机上に残されていたカードに、クラブのキングが欠けていることに気がつきました。警察は物盗りの犯行と見当をつけて捜査しますが、ポワロはこの犯行は迷宮入りとなると宣言します。
 他のキャストは、若い男(マーク・クルウィック)、リードマンの執事フランプトン(ヴァス・アンダーソン。声は辻谷耕史)、ウィローズ荘のメイド(キャシー・マーフィ。声は横田みはる)、デロイ夫人(ロジー・ティンプソン)。
 映画俳句 「一大事 娘を助ける 家族愛」飛蜘 
2008年8月3日

DVD ハピネットピクチャーズ
名探偵ポワロ

なぞの盗難事件
英国LWC
52分
英国1989年2月26日放映
 第8話 なぞの盗難事件 The Incredible Theft。原作は「謎の盗難事件」『死人の鏡』及びその原型「潜水艦の設計図 The Submarine Plans」『教会で死んだ男』。脚色ディヴィッド・リード、台本助言クライヴ・エクストン、演出エドワード・ベネット。
 兵器省の初代長官メィフィールド卿(ジョン・ストライド。声は宮川洋一)の開発した新型航空機を卿とジョージ・キャリントン卿(ジョン・カーソン。声は石田太郎)が見学していました。ポワロは靴のエナメル革の手入れをしています。ヘイスティングスは恋人との話題に腐心。一方、メィフィールド卿は設計図を餌にバンダリン夫人を釣り上げて見せると豪語。ポワロが動物園で会った匿名のメィフィールド夫人(キアラン・マッデン。声は武藤礼子)は夫のパーティの心配をしており、ポワロに同席を求めていました。さて、パーティの日、キャリントン夫人(フィリダ・ロウ)や息子のレジー(ガイ・スキャントルベリー)も一緒の席に、広く背中の開いたドレスを着て現れたバリントン夫人(カルメン・ドゥ・ソートイ。声は田島令子)。メィフィールド卿はカーライル秘書(アルベルト・ウェリング。声は大塚明夫)が用意した設計図の1枚が紛失していることに気づきます。密かにサー・ジョージの特命を受けていたジャップ警部が捜査。バンダリン夫人の身ぐるみを調べますが何も出てきません。
 翌日、舘を出たバリントン夫人のタクシーをポワロがヘィステイングスの運転する車で追跡します。日本が上海事変を起こした際の大砲がメィフィールド社のものだったという報道が事件の背後にあるようです。
 映画俳句 「盗まれる 状況に無い 設計図」飛蜘
2008年8月3日

DVD ハピネットピクチャーズ
名探偵ポワロ

海上の悲劇
英国LWC
52分
英国1989年2月19日放映

 第7話 海上の悲劇 Problem at Sea。原作は「船上の怪事件」『黄色いアイリス』。脚色クライヴ・エクストン、演出レニー・ライ、「砂に書かれた三角形」と同じくギリシア・ユニットが支えます。
 エジプトへの船旅、ヘィスティングスは若い娘キティにクレー射撃を教えています。モーガン夫人(ドロテア・フィリップス。声は巴青子)はエミリー(シェリ・シェプストーン)の伴奏で歌を披露。妻アデリーン(シェイラ・アレン。声は北村昌子)に隷属的な夫ジョン・クラパトン大佐(ジョン・ノルミントン。声は金内吉男)はミュージックホールの芸人だったようですが、戦争中に怪我をして療養中にアデリーンと会ったようです。エジプトのカイロに寄港し、見物で夫が若い娘たちキティ(メリッサ・グリーンウッド。声は鶴ひろみ)とパメラ(ヴィクトリア・ハステッド。声は山田栄子)と一緒に下船している間に、鍵のかかった船室で妻は刺殺されていました。大佐に魅かれているエリー(アン・フィブランク。声は鳳八千代)が現地人から買ったのと同じ首飾りが部屋に落ちています。ファウラー船長(ベン・アリスフォーブス。声は小林清志)はエジプト警察の干渉を受けたくないと、ポワロに捜査を依頼します。昼に戻ったファーブス将軍(ロジャー・ヒューム。声は富田耕生)のノックにアデリーンは答えなかったそうです。船室係スキナー(コリン・ヒギンズ。声は広瀬正志)が盗みに入ったときには既に夫人は死んでいたとか。モリー・トリヴァー(カロリン・ジョーン。声は倉野章子)とその夫には動機がありません。ポワロはモーガン夫人の姪の少女イスメーネ(ルイザ・ジェインズ。声は坂本真綾)に犯人を罠にかけるトリックを依頼します。後でエリー夫人に“卑劣な罠”と非難されるトリック・・・・
 映画俳句 「若い娘と 取り返せるか 青春を」飛蜘
2008年8月3日

DVD ハピネットピクチャーズ
名探偵ポワロ

砂に書かれた三角形
英国LWC
52分
英国1989年2月12日放映
 第6話 砂に書かれた三角形 Triangle at Rhodes。原作は「砂にかかれた三角形」『死人の鏡』。脚色スティーフェン・ウェイクラム、台本助言クライヴ・エクストン。演出レニー・ライ。制作総指揮マイク・オクスレイ、撮影監督ピーター。
 イタリア領ロードス島に避暑に来たポワロは、バンズ少佐(ティモシー・キングスリー、声は大木民夫)に追いかけられ、逃げているパメラ・ライル(フランセス・ロウ、声は高島雅羅)と知り合います。他の宿泊客のなかで、ひときわ二人の目を引いたのは、美貌と富を享受するヴァレンタィン・チャントリー(アニー・ランバート。声は藤田淑子)と5番目の夫トニー(ジョン・カートライト。声は千田光男)、英国から来たダグラス・ゴールド(ピーター・セッテレン。声は中尾隆聖)と離婚は認めないというマージョリー(アンジェラ・ダウン。声は榊原良子)でした。ヴァレンタインに魅かれるダグラス、いらいらするトニー、耐える女マージョリーという関係を見て、パメラが砂の上に三角形を書いてみせます。一触即発のような関係で、パメラがみんなをピクニック誘った頃がいちばんピーク、その後、仲直りしたようですっかりみんな仲良くなります。ポワロもイギリスへ帰る日、トニーが飲むはずだったピンク・ジンをヴァレンタインが飲んで毒によって死んでしまいます。ジンをトニーに渡したしたダグラスに疑いがかかります。現地の警部(アル・フィオレンティ。声は峰恵研)は早々と犯人と決め付けているようです。ポアロはベルギー人のため、スパイ容疑がかけられ乗船できませんでした。パメラが事件を知らせて、二人は見知らぬ町でツノマムシの牙から取った毒デリテリオ・オキアスを買った者を探し回ります。ようやく見つけた盲目の老婆から毒を買ったのは・・・。時代はイタリアの黒シャツ党が勢力を伸ばし、海岸線の警戒を怠らない頃です。ヘィスティングスやレモン、ジャップ警部などお馴染みの相棒が登場しません。代わりを務めるのが、パメラ夫人と隠密に海岸線を捜査していたバンズ少佐。
 映画俳句 「三角形 一辺を清算する ツノマムシ」飛蜘
2008年8月3日

DVD ハピネットピクチャーズ
名探偵ポワロ

4階の部屋

英国LWC
52分
英国1989年2月5日放映
  第5話 4階の部屋 The Third Floor Flat。原作は「四階のフラット」『愛の探偵たち』。脚色マイケル・ベイカー、台本助言クライヴ・エクストン。演出エドワード・ベネット。制作総指揮ロブ・ハリス、撮影監督イヴァン・ストラスバーグ。
 引越し荷物を運ぶ人夫、36Bに運び込む。ポワロは風邪を引いて苦しんでいます。引越してきたばかりの36Bの若い女アーネスティン・グラント(ジョシー・ローレンス。声は宗形智子)は1階上でダンスをしてうるさいミス・パトリシア・マシューズ(スザンヌ・バーデン、声は小山芙美)に会いたいと手紙をドアの下から差し込む。ポワロはヘイスティングスに“ポワロさんでも解けない”推理劇に誘われます。劇場でポワロは1階下のパトリシアを見かけます。劇の犯人をポワロは執事と推理しますが、最後に新しい人間関係が警部によって明らかにされて犯人は別の人物に決まり、ポワロはアンフェアな劇だったと脚本家を非難します。ほぼ一緒に帰宅したパットとミルドレッド(アマンダ・エルェス。声は島本須美)、ドノヴァン(ニコラス・プリッチャード、声は神谷明)、ジミー(ロバート・マインズ。声は大塚芳忠)は部屋に入ろうとしましたが、鍵が行方不明。パトリシアはリフトを利用すれば部屋に入れると言って、男たち二人がリフトで部屋に入ることになります。ところが、1階分間違えてしまい、彼らはグラント嬢の部屋に入ってしまいます。そこで撃たれたアマンダの死体を見つけてしまいました。現場には6時に会おうという手紙やJFの頭文字の入ったハンカチが落ちています。警察はこの証拠から、ジョン・フレイザーを指名手配しますが・・・
 ポワロがパトリシアの作った夜食を食べながら、パットに「あなたとそっくりの恋人がいましたが、料理が下手で別れました」と話します。ヘィスティングズの愛車が最後に衝突で壊されて彼は落胆します。他のキャストにグラントのお手伝いさん・トロッター夫人(スーザン・ポレット)。
 映画俳句 「ドタン場で 明らかになる 関係が」飛蜘
2008年8月1日

DVD ハピネットピクチャーズ
名探偵ポワロ

24羽の黒つぐみ
英国LWC
52分
英国1989年1月29日放映
 第4話 24羽の黒つぐみ Four and Twenty Blackbirds。原作は「二十四羽の黒つぐみ」『クリスマス・プディングの冒険』。脚色ラッセル・マレー、スクリプト・アドバイザー(台本助言)はクライヴ・エクストン、演出レニー・ライ。
 病院で危篤の老人アントニーがいます。家政婦で看護士のヒル夫人(ヒラリー・メイソン。声は中村紀子)から病状を知らされた甥のロリマー(リチャード・ハワード。声は納谷六朗)は都合がつかないと日曜日に行くと答えます。ポワロは、歯科医の友人とビショップ・レストランに行き、女給モリーから、アントニーの双子の兄弟、画家ヘンリー・ガスコインの注文品が変わったことを聞きます。そのヘンリーが階段から落ちて首を折り死亡、ポワロは事故ではなく、殺人だと主張します。
 警視庁に科学捜査局が新設されましたが、被害者のポケットの手紙から死亡日時は土曜日6月15日と判断されました。アントニーも先週の金曜日に亡くなっていました。アントニーの亡き妻シャルロットはヘンリーの絵のモデルでしたが、アントニーが奪った形となり、それ以降二人は絶交状態だったと言います。アントニーの遺言は無く、ヒル夫人には一文も残されず、遺産はすべてヘンリーに行き、ヘンリーが亡くなった時点で甥に行く結果になったようです。ポワロはヘンリーの殺人犯が変装してレストランに出現した証拠を固めます。
 ヘンリーの油絵は出回っておらず、亡くなった後では高値がつきます。標題の黒つぐみはマザーグースの一節、“24羽の黒つぐみ、焼かれてパイのなか”。ヘンリーは最後のディナーに黒イチゴのケーキを食べていました。黒イチゴを食べれば歯が黒くなるはずなのに、ヘンリーの死体の歯は白いままでした。
 画家のモデルのダルシー(ホリー・デ・ジョン。声は増山江威子)、絵画l商メイキンソン(クリフォード・ローズ)、芸人トミー(トニー・エイトキン)とスタッジ(チャールズ・ペンバートン)、劇場支配人アシスタントのハリー・クラーク(ジォフェリー・ラルダー)
 映画俳句 「ひげもじゃの 画家の嗜好が 逆転し」飛蜘
2008年8月1日

DVD ハピネット・ピクチャーズ
名探偵ポワロ

ジョニー・ウェイバリー誘拐事件

英国LWC
52分
英国1989年1月22日放映
 第3話 ジョニー・ウェイバリー誘拐事件 The Adventure of Johnnie Wavely 。原作は「ジョニー・ウェイヴァリーの冒険」『愛の探偵たち』。脚色クライヴ・エクストン、演出レニー・ライ。制作総指揮マイク・オクスレィに変わる、撮影監督ピーター・ジェソップ、音楽・第一製作者は変更なし。
 大邸宅でウェイバリー夫妻(ジオフェリー・ベイトマン、声は樋浦勉。ジュリア・チェンバース、声は一柳みる)が「このイギリスで誘拐なんて」と言い争っています。ポワロのもとへウェイバリーが息子ジョニー(ドミニック・ロージャー)を誘拐するという予告手紙を持参します。警察はいたづらと判断。ポワロが雇われて警戒に当たります。大きなお屋敷は補修が途中で中断しており、先祖伝来の土地も屋敷も経済的に行き詰っているようです。誘拐予告メモは予告日当日にも昼12時を指定時刻に届き、怒った主人は奉公人を全員解雇すると宣言、ポワロは目が少なくなるばかりだからと注意しますが、主人は言うことを聞きません。ジャップ警部に率いられた警察が張り込みます。ポワロはヘイスティングスと車で町へ出かけ、改修業者に館の苦しい状況を聞きますが、帰宅途中で車が故障し、昼の12時までには戻れなくなります。
 居間の時計が12時を打つと男(ロバート・プット。声は宮内幸平)が捕らえられます。脅迫状を持っていましたが、見知らぬ男に依頼されたのだと言い訳します。この騒ぎをよそにジョニーが車で連れ去られてしまいます。居間の時計は10分進めてあったのです。
 警察はロンドンに帰りますが、ポワロはちっともあわてません。真相が分かっているようです。犯人の見当と事件の様子は途中でほぼ付きます。他のキャストは執事トレッドウェル(パトリック・ジョーダン。声は上田敏也)、ジョニーの乳母ジェシー・ウィザーズ(キャロル・フレイザー。声は吉田理保子)、婦長ミス・コリンズ(サンドラ・フリーマン。声は前田敏子)、ポワロたちが昼食を取ったバーのメイド(サマンサ・ベッキンセール)
 映画俳句 「誘拐の 危険を知るも 無防備に」飛蜘
2008年8月1日

DVD ハピネット・ピクチャーズ
名探偵ポワロ

ミューズ街の殺人

英国LWT
52分
英国1989年1月15日放映
 第2話 ミューズ街の殺人 Murder in the Mews。原作は「厩舎街の殺人」『死人の鏡』。脚色クライヴ・エクストン、演出エドワード・ベネット。11月5日に花火を打ち上げる行事があります。その夜、ミューズ街でアレン夫人が自殺していました。左手に拳銃を持ち、左のこめかみを撃っていました。同居人の写真家ジェイン(ジュリエット・モール。声は鈴木弘子)が発見します。夫人はウェスト下院議員(ディヴィッド・イーランド。声は小川真司)が婚約していました。証人たちが言うには、アレン夫人は左利きではなかったそうです。ジャップ警部は殺人事件と断定します。事件当夜、夫人のところにインド時代の友人ユースタス少佐(ジェイムズ・フォークナー)が訪れていたことが分かります。夫人が引き出していた200ポンドが見つかりません。ユースタス少佐は事件現場にカフスボタンを落としていたため、殺人の容疑者として逮捕されます。一方、ポワロはピアス夫人(ガブリエレ・ブラント)に頼んで事件の部屋を再調査します。ポワロはある事を確認に来たのでした。ゴルフに出かけたというジェインの後を追って、ゴルフ場に行ったポワロは物陰からジェインの行動を観察します。ジェインはコースを回りながら、ゴルフクラブを捨て、書類ケースを捨てているのでした。奇妙な行動はいったい何を意味するものでしょうか。
 映画俳句 「次々と 証拠を棄てる 同居人」飛蜘
2008年8月1日

DVD ハピネット・ピクチャーズ
名探偵ポワロ

コックを探せ

英国LWT
52分

英国1989年1月8日放映
 Agatha Curistie’s Poirot としてロンドン・ウィークエンド・テレヴィジョンが制作放送。制作総指揮ロブ・ハリス、撮影監督イヴァン・ストラスバーグ、音楽クリストファー・ガンニング、第一製作者はニック・エリオットとリンダ・アグラン、製作者はブライアン・イーストマン。配役のレギュラー・メンバーとして、ポワロをディヴィッド・スーシェ(声は熊倉一雄)、友人ヘイスティングス大尉をヒュー・フレーザー(声は富山敬)、ジャップ警部をフィリップ・ジャクソン(声は坂口芳貞)、ミス・レモンをポーリン・モラン(声は翠準子)が演じている。日本語版台本は宇津木道子、演出は山田悦司。

 第1話 コックを探せ The Adventure of the Clapham Cook。原作は「料理人の失踪」『教会で死んだ男』。脚色クライヴ・エクストン、演出エドワード・ベネット。
 男が大きな衣装箱を紐で縛っている。手をすべらせて花瓶を割る。あわてているようだ。
 ポワロのもとにトッド夫人(ブリジット・フォ−サイス。声は此島愛子)がコックのイライザ・ダンを探してくれと依頼。いったんは断ったものの、腕のいいコックを無くすのは貴婦人の真珠を無くすのと同じという夫人の意見でポワロはこの“つまらない事件”の調査を開始します。小間使いのアニー(キャティ・マーフィ。声は佐久間レイ)は奴隷商人に連れ去られたという推理を語り、夫のトッド氏(アントニー・キャリック。声は北村弘一)は慇懃無礼、隣室のシンプソン氏(デルモット・クロウリー。声は安原義人)は煮え切らない答え。その翌日、トッド氏からポワロ宛てに調査断りの手紙が来て、1ギニーの調査料が同封されています。ポワロは烈火の如く怒り、絶対に手を引かぬ、調査料ゼロで真相を突き止めると宣言、ポワロのプライドが鮮烈に印象づけられます。
 ポワロはイライザ宛てに遺産の情報を求む広告を新聞に出します。失踪の日に銀行員ディヴィスが有価証券を持ち逃げして行方不明になっていました。イライザ(フレダ・ドウィー。声は藤夏子)はほとんど人も住まない田舎ケズウィックに遺産で貰ったという家に住んでいました。休みの当日に弁護士クロチェットという男から自分宛の遺産の話を聞き、条件に奉公人であってはならないと言われたので、コックを辞めて引っ越してきたのだと話します。トランクに荷物を詰めてもらったはずなのに、紙包みで届いたとも言います。さて、トランクはいったいどうなったのでしょうか。ポワロはこの事件から“どんな些細な事件もみくびるなかれ”という教訓を得ます。
 映画俳句 「隣人の 古いトランク 使いみち」飛蜘
 
[参考図書]
 数藤康雄(編)『アガサ・クリスティー百科事典』(早川文庫,2004年)
 早川書房編集部『アガサ・クリスティー99の謎』(早川文庫,2004年)

2008年8月前半に見た 日 本 映 画 (邦画)
見た日と媒体 作 品        感  想       (池田博明)
2008年8月17日

NHK総合
21:00
調査報告・日本軍と阿片

60分
NHK
 NHKスペシャルの一篇。ディレクターは中村直文、制作統括は藤木逢弘。
 前半を見落としてしまったが、日中戦争のさなか、国際条約違反であることは明白だったが阿片の生産、売買に陸軍が関係していたことを証拠づける調査報告。
 東京裁判における阿片売買業者「宏済善堂」(表向きは慈善団体である)の副理事長・里見甫(中国名は李鳴)の証言やアメリカ国防省の資料から、日本の傀儡政権だった南京政府に「興亜院」を通じて阿片による利益が入金されていたことは明らかであった。例えば昭和16年に3億元の阿片による取り扱いがあったが、これは当時の1億5500万円、現在の価格では560億円相当で、当時の南京市の予算を上回る。昭和14年の南京市の利益の58%は阿片によるものと報告されていた。中国の最前線でも関東軍兵士たちは中国人にとって無価値な軍票(軍のお札)では食料などを買うことができず、阿片に頼らざるを得なかったという。国民政府は阿片を全面禁止していたが、日本軍の支配下にあっては上海に治療という名目で阿片窟が拡大していったことがアメリカ軍の当時の資料として残されている。資金は兵器購入に当てられていた。
 民間人の業者に委託という形で阿片事業は行われていたが、もちろんそれは国家の責任を隠蔽する偽装である。昭和20年にソ連が侵攻すると満州国では関東軍が所有していた阿片を発見される前に隠蔽するべく、徹夜で土中に埋めてしまったという。
 阿片戦争の歴史からして有り得ない話では無いでしょう。番組放送直後に2チャンネルへの書き込みもありましたが、番組をサヨクの反日工作などと決め付ける意見も多く、反日だの愛国だのと言ってみても何もならないのに、その単細胞ぶりにあきれました。
 映画俳句 「壊れたり 阿片の元に 日本軍」飛蜘
2008年8月15日

録画
(WOWOWで2008年1月4日放映)
蒼い瞳とニュアージュ
2007年
WOWOW
 自分自身暗い過去をもつ臨床心理士・一之瀬エリカ(深田恭子)が自殺してしまった爆弾魔・甲斐塚(松重豊)の計画を推理するとともに、ネット世界で青酸カリを頒けるニュアージュの会の真相に迫る。松岡圭祐原作、青島武脚本、水谷俊之監督。甲斐塚のもと妻で化粧品会社社長・財前靖子に麻生佑未、その息子・圭一に柄本佑、一之瀬の技量を認める宇崎刑事に萩原聖人。
 『腑抜けども悲しみの愛を見せろ』の妹役の佐津川愛美と姉役の佐藤江梨子が今度は自殺願望の少女と特別捜査支援室室長として共演。しかし、佐藤江梨子は室長という貫禄の声の持ち主ではありませんでした。
 映画の発端、エリカが臨床心理士としてさっそうと登場して見事な手際を見せる場面はよかったのですが、警察も捜査しているのに、それとは別に刑事と臨床心理士の二人だけで推理して独自の捜査を進めていくのは不自然です。 
 映画俳句 「心理士も 箱庭療法 火事を見る」飛蜘 
2008年8月14日

録画
神 童

2007年
120分
 原作の成瀬うたは小学生にして少年野球チームの投手ですが、映画では体育の授業のバスケットを指の保護のために見学させられる中学生として登場します。映画は、野球の要素をばっさり削除することで、特別視されることで同級生から孤立し、理解者を持たない少女、成瀬うたの姿をきわ立たせました。“顔はいいけど性格は悪い”攻撃的な言葉をぶっつけ、他者の慰めや同情の言葉を拒否する少女うたを成海璃子がいつも背筋をまっすぐ伸ばしながら歩いて魅力的に演じています。彼女が笑顔になる“とき”を期待して、それはほとんどないのですが、私たちは映像を見つづけることになります。監督は萩生田宏治,脚本は向井康介。
 うたが心を許す八百屋の青年、菊名和音を松山ケンイチが演じます。
 リヒテンシュタインの代演でうたが演奏することになる曲がモーツァルトのピアノ協奏曲第20番ニ短調。『アマデウス』で有名になった曲です。うたはトイレで覚えて、ピアノの椅子が低いのでその楽譜を尻の下に敷いてしまいますが、良い演奏家が楽譜の上に坐るかなと疑問を感じます(原作と同じ行動ですけれど)。演奏途中で、和音と香音(貫地谷しおり)の二人が会場に入場するのも疑問です。内部の扉のそばからそれ以上は動きませんけれどもね。
 映画俳句 「凛として 美少女 皆にそしられる」飛蜘

[参考書]
さそうあきら『神童(1)〜(3)』(双葉文庫,2003年)
青柳いづみこ『ボクたちクラシックつながり』(文春新書、2008年)より、“和音が『熱情』の第3楽章をたどたどしく弾いています。『のだめ』のテレビドラマでは、音はちゃんと弾いていますが、解釈が自由奔放。でも、ワオのピアノは本当にヘタクソ。吹き替えはピアニスト・コンポーザーの清塚信也さんで、映画の中では講師の役で出演しています。『のだめ』の千秋のピアノの吹き替えも清塚さんなんですね。千秋の場合は実力のままに弾けばいいわけですが、ワオのときはわざと下手に弾くのは大変だったろうなぁ。”p.19)
“映画では、成瀬うたが代役するピアニストはリヒテンシュタインというドイツ人ですが、原作のマンガのほうではホロヴィッツそっくりのロブコウィッツというおじいさんピニストが登場します。横にはワンダ夫人そっくりのこわそーなおばさんが付き添っています。”(p.73) 
2008年8月12-14日

DVD
必殺必中仕事屋稼業

(前半)

1975年

各45分

朝日放送
松竹
 DVDセットの上巻。
 必殺必中仕事屋稼業第1話『出たとこ勝負』(脚本・野上龍雄と村尾昭=監督・三隅研次)、北町奉行吟味役与力・三村(石橋蓮司)を狙っていた男が殺された。現場にいあわせた蕎麦屋の半兵衛(緒形拳)は下手人として捕縛されてしまいます。強引な仕事が批判されている折、ご赦免になった半兵衛に飛脚屋の女将・せい(草笛光子)が接近してきます。冤罪で死罪になった瓦版屋の娘みよ(水原麻記)が依頼した仕事は三村の暗殺でした。政吉(林隆三)はみよとの賽の目博打で三村殺しを引き受ける羽目になってしまいます。屋敷におびき出した三村を半兵衛と政吉は同時に切っていました。殺しを「見られて」争う半兵衛と政吉を制止した、せいと利助(岡本信人)は政吉も仕事屋として雇うことにします。政吉の女ものの懐刀を見たせいは政吉が自分が手離した子供であることに気付きます。そして、政吉に「あなたが地獄へ落ちるときは、あたしも一緒です」と約束します。
 第2話『一発勝負』(脚本・村尾昭=監督・三隅研次)、世継ぎが死んでしまい、手をつけた女中の赤ん坊を奪う朝倉主膳(菅貫太郎)。半兵衛らは母親おしの(ジュディ・オング)の頼みで赤ん坊を奪回することになります。せいの赤ん坊も松永家の世継ぎとして手離したものの、不要になって棄てられたことが回想場面で示されます。朝倉邸に偵察に入った半兵衛と政吉が、中元部屋で開かれていた博打に夢中になっているうちに、赤ん坊の亭主・植松(住吉正博)が子供の返還を要求して殺されてしまいます。植松の死骸を引き取りに行ったおしのや仕事屋たち、枯葉が舞うなかを大八車で駆け戻ってきます。政吉はこの仕事に乗り気になれません。「貧乏人の子供でいるより、お大尽の子供で不自由なく育てられたほうが幸せではないか」と意見します。その言葉に動揺するせいは「子供は生みの母親のもとで育てられるのがいちばんいいのだ」と断言します。
 第3話『いかさま大勝負』(脚本・野上龍雄=監督・工藤栄一)、女郎・お袖(山口朱美)は和泉屋与兵衛(穂積隆信)と伝八(和田浩二)に対する恨みを書きつらねていました。婚約者の茂作を探して江戸に出てきた田舎娘のお初(桃井かおり)は、からまれているところを政吉に助けられ、一時的に半兵衛の蕎麦屋で働くことになります。お春は半兵衛とのなれそめを語ります。「おかみさんじゃないのよ。ただの奉公人。どこの店でも喧嘩して、飛び出し、去年の秋、急に倒れたところを店にかつぎこまれて、腹が減ってんだろと月見そばを食べさせてもらって介抱され、それから住みついて」働くことに。一方、半兵衛は政吉相手に、蕎麦屋を博打で手にした経緯を語ります。死にかけた弥助が半兵衛に博打を懇い、負けて蕎麦屋を手放すことになった、「博打にとりつかれた奴は“ろくでなし”だ」と。自殺したお袖の意向をくんで女郎屋の与兵衛と女衒の伝八を仕置きすることになりますが、お初が探している茂作が伝八だったことが分かります。伝八は蕎麦屋にお初を迎えに来ます。もちろん女郎として売るつもりです。
 半兵衛はお初に茂作は死んだと伝えますが、当の茂作が外に迎えに来ているので妙なことになります。用事があるといっとき座を外した茂作。雪が降り始めました。半兵衛が呼んだ駕籠に乗るお初を見送るお春の傘が逆光に輝きます。駕籠は茂作のところではなく、お初の田舎へ帰るはずです。
 第4話『逆転勝負』(脚本・村尾昭=監督・工藤栄一)、工藤栄一監督作品が続きます。岡引きの弥三(今井健二)は島帰りの商人を恐喝して小金を得ています。もと島帰りの吉五郎(高木均)は嶋屋に《閻魔》の弥三の十手を取り上げて欲しいと依頼します。弥三はおすみ(菊容子)という娘を溺愛していました。おすみに声をかけ,簪を渡そうとした政吉は弥三に殴られましたが、逆におすみには同情され、父親にこっそりと逢引することに。一方、弥三はおくら(川村真樹)を囲っていました。同衾中のおすみと政吉のところへ弥三が帰って来ます。戸を叩く音が突然消えて弥三が倒れこんで来ます。なんと刺殺されているのでした。容疑は政吉にかかります。おせいは政吉を仕事から外します。おくらに形見分けを届けたおすみは吉五郎に殺されてしまいます。おくらは吉五郎に乗り換えていたのでした。下手人は吉五郎だと奉行所へ訴えるもと盗人仲間の鋳掛屋の又七(寺下貞信)。夜明けに逃げ出そうとする吉五郎を、重ね鳥居の神社で仕置きする半兵衛。
 第5話『忍んで勝負』(脚本・国弘威雄=監督・松本明)、牢名主の留三(多々良純)は牢役人(小林勝彦)や牢番(細川智)と組んで新入りの囚人をカモって親元から金を取っていました。わざと賭場へ目明かしを誘導して牢に入った半兵衛と政吉の二人、牢内の非道を経験しますが、百叩きで釈放されてしまいます。一年に一度の髪結いを機会に再度、牢名主に挑む二人でした。
 第6話『ぶっつけ勝負』(脚本・野上龍雄=監督・松野宏軌)、駆け落ちした越後屋の惣太郎(高峰圭二)とおしん(珠めぐみ)。息子を連れ戻してくれという越後屋の頼みで草津へ出かけた半兵衛と政吉。草津の手前、沓掛で甚造(梅津栄)の手から惣太郎を救出、女郎屋へ立てこもりますが、追分の吉五郎(天津敏)も登場して絶体絶命。脱出させようと甚造を抱き込んだが吉五郎に見破られ、甚造は斬られる。お鷹様と鷹匠の行列に訴え出て吉五郎に斬られるおしん。女たちに意気地なしと非難され、二人は一か八かの勝負に出ます。
 第7話『人質勝負』(脚本・国弘威雄=監督・松野宏軌)、油屋栄三郎(織本順吉)は女房おしん(二本柳俊衣)を海神丸での独楽博打のカタにして負けてしまい、女房は自殺してしまいます。葬式の香典を賭けて勝負した栄三郎はまた負けてとうとう首吊り。博打をする気になれない二人におせいから奇妙な依頼が来た。博打に負けて女房をカタにして女がどこへ売られるかを探って欲しいという。らしゃめん(洋妾)のおまき=芹明香が初登場。半兵衛の女房・お春と政吉の《偽》姉・おせいはいったいどこへ連れていかれるのでしょうか。
 第8話『寝取られ勝負』(脚本・下飯坂菊馬=監督・三隅研次)、縁切り寺の東慶寺へ駆け込んだおきぬ(小野恵子)は、三州屋の忠太郎(林ゆたか)の放蕩と暴力に耐えられなくなったと訴えます。後見人の藤左江門(山田吾一)と母親のうめ(島村昌子)が忠太郎に離縁状を書かせて欲しいと嶋屋へ依頼してきます。半兵衛は酔わせ、政吉は他の女を抱かせて、離縁状を書かせようとしますが失敗。そのうち、母親のうめが自殺してしまいます。これで、忠太郎は離縁状を書く決心をします。一件落着と思われましたが、真相はとんでもないところにありました。
 第9話『からくり勝負』(脚本・松原佳成=監督・松野宏軌)、魚河岸で将軍さまの召し上がる魚を選ぶ指差し役の古田玄蕃(山城新吾)は、魚を横流しして利ざやを稼いでいました。魚屋の太助(田辺靖雄)とみよ(高樹容子)は世話役・善兵衛(石浜祐次郎)に玄蕃の上司への訴えを依頼しますが、上司に斬り捨てられてしまいます。玄蕃とその上司が仕置きの対象。
 第10話『売られて勝負』(脚本・播磨幸治=監督・三隅研次)、実家の檜屋に金の無心に行ったおゆみ(真木洋子)は金が貰えず、お春の蕎麦屋に押し込み強盗を働きます。よほどの事情があると察したお春は、名前も聞かずおゆみを解放したものの、仕事屋におゆみ探しを依頼します。おゆみが惚れた壷振り師の仙次(早川保)は博打が止められず岡場所に女を売っていました。冷たい雪が降る日、借金で苦しんだ檜屋夫婦は首を吊ります。半兵衛は政吉に頼み、いかさま賽で取った百両をもって女郎屋へ駆けつけますが、とき既に遅くおゆみは死んでいました。今夜も田舎娘に優しく声をかける仙太を半兵衛は斬ります。仙太を待つ田舎娘を遠くに見ながら。おまきが登場しない回。
 第11話『表を裏で勝負』(脚本・石川孝人=監督・松野宏軌)、賭場帰りの半兵衛と政吉が襲われたり、飛脚が殺されて荷が奪われたりして、嶋屋の信用と身代が危うくなります。嶋屋の飛脚・仙太(石川博)はつや(北川美佳)に誘惑され、荷を持ち逃げした後、死体に。山城屋の娘みつ(多川美智子)が父親を殺されたと駆け込んできます。裏で糸を引くのは伏見屋藤兵衛(浜田寅彦)でした。悪事で手を組んでいた和尚・道元(如月寛多)と与力・宇佐美(草薙幸二郎)もともに仕置きされます。
 第12話『いろはで勝負』(脚本・素一路=監督・松本明)、歓楽地「いろは通り」をたたむ決定をした伊呂波屋二代目太吉が殺され、下手人探しの依頼がおせいに来ます。容疑者は手代の三人、賭場の仙一(長谷川明男)、金貸しの金二(小笠原良知)、徳三(東野孝彦)。調査にいろは通りへ潜入した政吉と半兵衛。新しい賭けを提案する政吉、湯屋と女郎屋を合わせた新商売を提案する半兵衛。紆余曲折の後、真犯人が分かります。そして意外な依頼人も。
 第13話『度胸で勝負』(脚本・猪又憲吾=監督・松野宏軌)、おせいは朽木藩家老・大原(美川陽一郎)から五百両を30日間で五千両にして欲しいと依頼されます。政吉はうんすんカルタで三千両儲け、政吉は負けて残った二両で富くじを買うと、それが当る(二千両)。しかし、政吉は次の勝負でスッてしまいました。お春が助けた行き倒れの老人(堀内一市)が危篤の間際に三千両の証文を遺します。偶然そろった五千両、その手形を渡された家老が板倉屋(岡田英次)と通じた脇坂(藤岡重慶)に殺されます。脇坂を仕置きしたものの、板倉屋は五千両の出所を言い立てないという約束で生き残ります。
 第14話『招かれて勝負』(脚本・猪又憲吾=監督・工藤栄一)、船が難破して苦慮する浜田屋の金策を待つと約束した板倉屋(岡田英次)には、二日だけしか待つつもりはありませんでした。家財全てを押収され、息子が自害した母親は板倉屋の仕置きを依頼してきました。お春の幼馴染おこま(新藤恵美)は板倉屋の妾でしたが、古本屋の三次郎(頭師孝雄)と所帯を持つ決心をします、しかし、板倉屋がそんなことを許すはずもありませんでした。
 花見の席で仕置きのときの立体的な構成が工藤栄一監督のの真骨頂です。 
 映画俳句 「行き倒れ はねっかえりと 月見そば」飛蜘
2008年8月10日

DVD
必殺必中仕事屋稼業

(後半)

1975年

各45分

朝日放送
松竹
 草笛光子が元締め役を初めて務めた、1975年1月から半年間放映された《必殺》の第5シリーズ。1クールめは土曜22時、2クールめは金曜22時から。DVDセットの下巻を今回まとめて見ました。《必殺》テレビシリーズのDVD化としては『必殺仕置人』に続く第2弾でした。
 緒方拳が博打好きな蕎麦屋の亭主で剃刀を使う仕事師・半兵衛を演じて、痛快なシリーズです。きっぷのいい女房役・お春に中尾ミエ、半兵衛に惚れているおかまの目明しに大塚吾郎、女ものの懐剣を使う遊び人・政吉に林隆三。最終回『どたんば勝負』の工藤栄一演出を小田原で見て、感動した記憶があります。政吉の馴染みの女郎おまき役の芹明香の名前はキャスト名に出ません(本シリーズ後の覚醒剤所持で逮捕されてクレジットがフィルム原版から削除されてしまったため)。芹明香は当時の日活映画の出演と変わりなく、生きる意欲の薄い女で、一歩離れて政吉の興奮を鎮める役割をしています。

 第15話『大当りで勝負』(脚本・脚本・大工原正泰=監督・大熊邦也)、富岡八幡の流鏑馬神事の賭けで一番人気の岩岡鉄五郎(山本亘)は優勝を機会に仕官しようとしていましたが、嶋屋に働く女房・弥生(榊原るみ)は毎日の平安を願っていました。賭けの元絞め淀屋(戸浦六宏)は岩岡に八百長をもちかけます。けれども岩岡は武士の誇りを立てて断ります。淀屋の謀略は次第にエスカレートします。
 第16話『仕上げて勝負』(脚本・安倍徹郎=監督・蔵原惟繕)、色仕掛けで男を壷振りに仕立てるおらん(嵯峨美智子)。彼女には片腕を失ったもと壷振り師の捨三(菅貫太郎)が付いています。半兵衛は囮のおせい相手の勝負に、自在の賽の目を出せる六つの合わせ賽を操るイカサマ技術を披露します。春画が盛んに挿入されます。
 第17話『悟りて勝負』(脚本・横光晃=監督・大熊邦也)、お春がソバの食い方がイキだと感心した弥兵衛(池部良)を、半兵衛は賭場で見てその賭けかたと引き際の鮮やかさに感心します。そんな弥兵衛の家に鳴海屋(渥美国泰)の娘おたみ(関根世津子)が政略結婚を嫌って逃げこんできます。おたみを諭して実家に返した弥兵衛でしたが、醜聞を怖れる鳴海屋は虎吉(志賀勝)を使って弥兵衛を殺します。弥兵衛の意気に感心していた半兵衛は鳴海屋を仕置きする前に虎吉へ復讐することを誓います。
 第18話『はめ手で勝負』(脚本・松原佳成=監督・松野宏軌)、将軍のお世継ぎの遊び相手にと継子の新一郎をきびしく仕込む黒田(城所英夫)。梓(左時枝)は夫から逃げようと飛脚屋のおせいに通行手形を所望するのですが、時すでに遅く、新一郎は高熱を出し死んでしまいました。黒田は今度は使用人・鉄平(睦五郎)の息子・千吉を自分の子として教育し始めます。寂しくて息子を取り返しに行った鉄平は武術指南役(五味龍太郎)に斬られてしまいました。将軍のお召馬を厩舎から出して騒動を起こし、黒田の家名に傷がつかないように当主を始末する半兵衛と政吉の二人でした。
 第19話『生かして勝負』(脚本・横光晃=監督・蔵原惟繕)、おせいの芸者仲間だったおとよ(池玲子)は桧屋の女将となったが、伝蔵(浜村純)は出先の火災で焼死、今日はその百日法要だった。しかし、実は伝蔵は生きていた。作事奉行・大山(井上昭文)は材木を利用しようとおとよを誘惑していた。芸者あがりで尊敬もされず、自由にお金も使えず、抱いてももらえなかったと夫婦生活の不満を述べるおとよの女の主張が際立ちます。危うい濡れ場も多く、18禁の一篇。
 第20話『負けて勝負』(脚本・田上雄=監督・松本明)、大和屋の女主人・お照(二宮さよ子)と異母姉弟の伊三郎(津川雅彦)はポーカーで勝負する人形師。賭博のけりは賭博でつけるというポリシー。人形師に求愛されて心が動くお春と、それを知って驚く半兵衛が興味深い。
 第21話『飛入りで勝負』(脚本・中村勝行=監督・松野宏軌)、船が難破して廻船問屋・渡海屋は窮地に立たされます。若旦那(武周暢)は番頭の与兵衛(御木本伸介)に建て直しを依頼します。与兵衛は昔は盗賊でした。昔の仲間の銀次(寺田農)と名乗る男が、仲間の己之助を船で脱出させて欲しいと頼みにきます。与兵衛の娘・お民(香山秀美)が仕事屋に依頼して来て、急場をしのぐことに・・・。
 第22話『脅して勝負』(脚本・横光晃=監督・工藤栄一)、佐八(中井啓輔)は妻を女郎屋に売り、妹おみよ(原田あけみ)を美濃屋に奉公させ、同心・神尾(上野山功一)の手助けをする小悪党。北町奉行の岡村(入川保則)は長崎奉行に昇進、手土産に大金を用立てるべく、神尾に陰謀を命じます。美濃屋(稲葉義男)の若旦那・富造(中村孝雄)を佐八を使って博打場に案内し夢中にさせた後で、手入れを行って富造を逮捕、息子の釈放を餌に美濃屋に500両を出させます。ところが、手篭めにしようとして従わなかった女中おみよを斬り、騒ぎたてた富造も絞め殺してしまい、無理心中に仕立てますが、市井の噂は神尾に不利。岡村は厄介になった神尾を中道(成瀬正孝)に始末させようと画策します。
 第23話『取込まれて勝負』(脚本・大工原正泰=監督・大熊邦也)、お春(中尾ミエ)に子供が出来ました。半兵衛(緒方拳)は子供は嫌いだと言うものの、次第にお春の体を心配するようになります。油問屋の組合で始めたネズミ講で集めた金を横領した罪で玉木屋(富田浩太郎)は死罪、与力・村上(小松方正)は女房おみの(赤座美代子)を通して操りやすい相模屋(河原崎次郎)を頭取にしようとしますが・・・。後半はアップ中心の映像。結局、お春の子供は医者の見立て違い。
 第24話『知られて勝負』(脚本・石川孝人=監督・松野宏軌)、亭主・伊八(浜畑賢吉)の調べを依頼してきた女房お久(市毛良枝)。伊八は隠し目付けでした。お駒(戸部夕子)を利用して越前の小藩の抜け荷の証拠品・高麗人参を小田切(川合伸旺)から入手して、手柄を立てます。禁制の取引で藩は取りつぶしになり、目的のためには手段を選ばない伊八。
 第25話『乱れて勝負』(脚本・素一路=監督・松本明)、武士相手の仕事で半兵衛がひるんだ隙に政吉が肩を刺されてしまう。倒れていた政吉を通りがかったおしの(紀比呂子)が看病することになりました。政吉はおしのと一緒に上方へ行き、仕事屋稼業をやめることを決心します。ところが、突然おしのが殺されました。政吉は仕事屋の掟と勘違い、半兵衛を刺してしまいます。一方、お春が半兵衛の裏の仕事に気付いてしまいます。
 第26話『どたんば勝負』(脚本・村尾昭=監督・工藤栄一)、島帰りの亥之吉(堀勝之祐)がせいのところに政吉と半兵衛の殺しを依頼してきました。実は政吉はおせいの子供でした。おせいのお供をした利助(岡本信人)が殺され、火盗改め・熊谷(大木実)のきびしい詮議で政吉は拷問されます。天井裏から下げ降ろした鎖を伝わらせて政吉に水を飲ませる半兵衛。おせいは責め場に呼ばれ、政吉の最期を看取る羽目に。政吉はおせいを知らないと言いはり、隙をついて役人の刀で自害します。熊谷と亥之吉の仕置きの依頼人はおせい本人。仕事を終えた半兵衛はおせいをかばって屋根の上に逃げ、囮になりました。半年後、そば屋で繕いものをするお春と逃亡先の半兵衛がともに口ずさむのは「南部牛追い唄」でした。

 工藤栄一監督の演出は第2シリーズの『必殺仕置人』の方に映像的な傑作がありました。この第5シリーズ2クールめの2本、『脅して勝負』『どたんば勝負』は水準作。蔵原惟繕監督の2本『仕上げて勝負』『生かして勝負』は嵯峨美智子、池玲子の爛熟の女性の危険な官能性が表現されている異色作。松本明監督・津川雅彦ゲストの『負けて勝負』は鮮やかな傑作でした。
 映画俳句 「人形の 首を落として 蕎麦を打つ」飛蜘
2008年8月9日

(7月9日19:45からBShi放映)
録画
耳をすませば 森の中で音をつかまえて(武満徹・草野心平)

NHK
BShi
2008年
40分
 BShiの蔵出し劇場で「あの人からのメッセージ」シリーズの一篇です。近藤喜文監督のアニメーション作品ではありません。
 ニューヨーク・フィルからの委嘱作品として作品に取りかかった武満は1967年から長野県の森林内の仕事場で作曲をするようになりました。武満は作曲家にとって大切な能力は「聞くこと」だと言います。鳥の声や自然の音の生命力に触れると、譜面に音符を書き付ける空しさを感じるほど、素晴らしいと。傑作『ノヴェンバー・ステップス』は武満のこういった精神から誕生してきました。
 草野心平は、詩は決してカエルの声を擬音化したものではないと断言します。それは、草野が感応したカエルの言葉なのです。カエル語で書かれた詩(ごびらっふの独白)もありますが、それは実際のカエルの声とは違っています。確かに『草野心平詩集』を開くと、そこには生物学的なカエルの生態や鳴き声はまったく表現されていないのです。2004年に高校の生物部でアマガエルの鳴き声に注目したとき、草野心平詩集を読み返してみたのですが、彼の詩から得られる生物学的な情報は皆無でした。同じ池で見られるカエルと言っても、ヒキガエル、シュレーゲルアオガエル、アマガエル、ダルマガエルなど鳴き声も鳴く時期もカエルによって違うはずなのです。つまり、草野心平は第百階級としての自己イメージを投影したカエルの姿を見ているのであって、実際のカエルをちっとも観察していないのでした。いや実際には観察していたのかもしれませんが、詩には表現されていないのです。ことは、カエルに限りません。『植物も動物』という詩集にある「百姓という言葉」は半分以上が二十年間に作った野菜名がただ並べてあるだけですし、「初物」という詩も取れたての茶碗豆を食ったら「あまくシャリリ」とした、「左手に冷や酒の。one cupを持ちながら。」という、科学も文学も無い、詩心の萎えたひどい作品です。野菜という植物をきちんと観察していれば、それぞれにもっと詩心を刺激する言葉が見えるはずです。
 草野はベートーヴェンの音楽が大好きで自宅に村人を集めて行っていた天山祭でも、よく『歓喜の歌』を歌ったそうです。この番組でもカエルの鳴き声のバックに第9交響曲第四楽章を流していましたが、このような音楽のつけかたには大きな違和感がありました。自然なままの音を生かすのが番組の主旨にそうものだと思ったからです。けれども、草野心平が自然の音を聞く人ではなかったのだとすれば、そのような音楽の付けかたも正解と言えるでしょう。
 一方、武満徹は、自然の音に敏感だったと思います。メシアン生誕百周年の今年、メシアンの鳥の声に触発された音楽と武満の傑作には注目してみたいと思います。 
 映画俳句 「歓喜の歌 詩人は吼える カワヅ鳴く」飛蜘

[参考書]
草野心平『草野心平詩集』(岩波文庫,1991年)
2008年8月8日

BShi
22:00〜
黒い雨


1989年

2時間3分
 井伏鱒ニ原作の広島の被爆者の戦後を描いた今村昌平の力作、白黒映画。爆撃直後に広島市内を歩き切った矢須子(田中好子)が昭和25年、原爆症の恐れから縁談を次々に断られる挿話と、直接被爆した叔父夫婦、重松(北村和夫)・シゲ子(市原悦子)の周辺で人々が亡くなっていく不幸を描きます。矢須子を嫁がせなければ死んだ義姉に申し訳ないという思いに捕われていて、巫女まで信じてしまう市原悦子と、健全な常識人の北村和夫が存在感が圧倒的でした。爆心近くの隣の畑の「(キュウリや)カボチャを貰ってってもいいかしら」なんて言っている市原悦子が実に可笑しい。長谷川和彦監督の『青春の殺人者』の市原悦子を想い出しました。シゲ子は原作よりもふくらまされて描かれています。
 エンジン音を戦車音と錯覚し、車の下に飛び込む行動をしてしまう青年・悠一の挿話は突出していて不自然です。矢須子に話をしながら突然昔の記憶が思い出されて一人芝居になる場面も映画全体の表現からは浮き上がっています。この青年は原作にはなく、脚本・石堂淑郎と今村昌平の設定でした。
 1989年キネマ旬報日本映画1位。
 映画俳句 「姉さんに 申しわけないと おばは言う」飛蜘

[参考書]
井伏鱒ニ『黒い雨』(新潮社,1968年) 
2008年8月8日

BS2
0:45〜
怪談

1964年
にんじんクラブ
東宝配給
3時間6分
 小林正樹監督作品。小泉八雲原作の『怪談』から「雪女」「耳無し芳一の話」、『影』から「和解」を「黒髪」として、『骨董』から「茶碗の中」を映画化しています。
 壮大なセットを組み、撮影・美術・音楽・録音・編集スタッフが総力をあげて作った文芸大作ですが、映画のテンポは遅いし、映画の「動き」を封印して、タブローを連続し、悪く言うならもったいぶって描いています。結果的に、作品の目的が単なる絵解きに終わっているので空虚な作品です。これだけの無内容な大作を《幻想的で耽美的な傑作》として作りえたことに驚きます。いったい誰がどこに感動したのでしょうか。黒澤明の『乱』にも言えますが、《日本的な》大作の無内容さには呆れます。別にホラー作品になっていなくとも良いし、意欲的な実験作品であっても良いわけですが、見る人を打ちのめすような力がありません。
 例えば、第3話の芳一の話で、霊場で源平合戦の絵がモンタージュされるところで、私はゲンナリしました。視点が統一されておらず、明らかにつめが甘いと言えます。昔語りならば、近代人の視点を途中に挿入する必要はありません。「壇の浦合戦」もなんの説明も無いため、雰囲気しか理解できません。
 第1話「黒髪」は平安時代、身勝手な侍がそれとは知らず昔の妻の骸骨と同衾し精を吸い取られて老いる物語ですが、昔の妻(新玉三千代)のもとへ帰って来た夫(三國連太郎)が「過去・現在・未来と」妻に話す箇所があり、私は失笑してしまいました。昔の武士がこんな用語は使わないでしょう。総じて登場人物の話し言葉の語彙がまるっきり現代語なので(脚本・水木洋子)、奇怪に響きます。
 第2話「雪女」もいかにも画き割り然とした人工的なセットが興ざめで、勝手に現われたり消えたりする母親が立ち去った後、残された幼い三人の子供たちと夫はいったいどうなるんでしょうか。育児放棄した母親に「子供たちになにかあったら容赦しませんよ」などと言われる筋合いは無いような気がしますが・・・・。もっとも、原作でもそうなっています。
 1964年のキネマ旬報日本映画の第2位作品。ちなみに第1位は『砂の女』、第3位『香華』、第4位『赤い殺意』、第5位『飢餓海峡』。今村昌平や内田吐夢監督作品はいまだに大傑作ですが、『怪談』はカンヌ映画祭審査員特別賞受賞作品ではありますが、今見せたら誰も評価しないでしょう。『怪談』は公開は1964年の12月なのに、その年のキネ旬の2位とは・・・。評論家向けの試写の成果でしょう。当時のキネ旬で本作品を高く評価した評者も試写室族です。
 1964年は東京オリンピックの年で、娯楽映画では、工藤栄一監督『大殺陣』、三隅研次監督『剣』『剣鬼』『眠狂四郎勝負』、マキノ雅弘『日本侠客伝』、鈴木清順『肉体の門』、加藤泰『幕末残酷物語』などがありました。
 映画俳句 「雪女 黙秘を通す 約束は」飛蜘

[参考書]
『現代日本映画論大系 第4巻 土着と近代の相克』(1971年、冬樹社)
ラフカディオ・ハーン『怪談』(岩波文庫,1965)
『ビギナーズ・クラシックス 平家物語』(角川文庫,2001)
2008年8月7


NHK総合TV
20:00〜20:50

解かれた封印

50分
2008年

NHK
 NHKスペシャル『解かれた封印 米軍カメラマンが見たNAGASAKI』、ディレクターは松本卓臣,制作統括は田中剛志。占領軍海兵隊写真記録斑の一員だったジョセフ・P・オダネル軍曹が被爆後の長崎で撮影した30枚の私家版写真を屋根裏部屋のトランクから外に出し、発表したのは67歳のとき、戦争が終わってから43年後のことでした。
 当時、勝手に日本人を撮影することは禁止でした。しかし、命令に背いて彼が撮影した写真には爆心地近くで遺骨を抱えている人、赤ん坊を背負った少年、救護所で背中全体に火傷を負った少年、爆音で耳が聞えなくなった晴れ着姿の少女、浦上川沿いの焼き場で背負った弟の火葬を待つ少年が写されてていました。人間が跡形もなく消えた爆心地の様子や崩壊した浦上天主堂など原爆の惨状や、この世のものとは思われない光景が、真珠湾攻撃に怒り参戦したオダネル軍曹を打ちのめしたのです。日本人に対する憎しみが消えて、憐れみ(compassion)の感情が起こってきたとオダネル氏は回想していました。大部分の撮影写真は正式な記録として軍に提供したのですが、30枚の個人用写真は未撮影フィルムの缶に隠されて密かに自宅へ持ち帰られたのです。あまりの衝撃ゆえに封印していた写真を取り出させるきっかけになったのは反核運動の彫像に張られた被爆者の写真だったそうです。写真を公開すると国家に対する裏切り行為だという批難がオダネル氏に届きます。妻エレンも離婚して離れていきました。おそらく残留放射線の障害で、背骨や皮膚がんになったオダネル氏は写真の少年と再会して反核運動をすることになります。昨年2007年8月9日、長崎に原爆が落とされた日にオダネル氏は87歳で亡くなりましたが、息子のタイグ・オダネル氏がウェッブページで写真を公開し、父の活動を引き継いでいます。地元の図書館が収録した戦争を語る記録テープに写真に関する証言も残されていました。
 原爆は戦争を早く終結させ、アメリカ軍の犠牲を少なく留めるために必要だったのだと考えるアメリカ人が少なくありません。1949年に大統領専属カメラマンとなったオダネル氏はトルーマン大統領に原爆を投下した広島や長崎の人々のことをどう思うか、聞いてみたことがあったそうです。トルーマン大統領は色をなしてこう答えたそうです。「原爆投下は私のアイデアではない。私は単に引き継いだだけだ」と。
 映画俳句 「火葬待つ 少年はじっと 立っている」飛蜘

[参考書]
 原爆投下にペシミスティックな意見をもつ数少ないアメリカ人にヴォネガットがいる。
 『SFマガジン』ヴォネガット追悼号(2007年9月号)より、
 ヴォネガットはこんな風に話している。
 “ある朝起きて、玄関に配達された<インディアナポリス・スター>を広げると、『アメリカ日本に原爆を投下』という見出しが目にとびこんだ。科学はあらゆるものをよくするはずなのに、昔よりもうんと楽で、うんと楽しい暮らしを実現してくれるはずなのに・・・。そのニュースで兄は完全にめいってしまった。急所をぐさりとやられたわけだ。・・・・あのニュースには、おおぜいの人間が吐き気を催した。・・・わたしは戦友のバーナード・オヘアにこうたずねた。「きみはなにをまなんだ?」すると、彼はこう答えたよ。「おれはもう二度とこの国の政府を信用しない」当時、この国は善玉だと思われていた。民間人の老若男女を傷つけたりはしないはずだった。結局、ドレスデンの無差別爆撃では十三万五千人が死んだ。それに日本へ投下された二発の原爆。結局、アメリカも悪玉であることがわかったんだ。”(2006年のインタビューより)
2008年8月7日

BS2
0:40〜
東海道四谷怪談

1959年

76分
新東宝
 中川信夫監督の著名なこの作品を見たことがありませんでした。美術は黒沢治安、撮影は西本正、音楽は狂言の囃子を取り入れた渡辺宙明。
 伊右衛門(天知茂)は岩(若杉嘉津子)との婚儀を拒絶され、岩の父を斬ってしまいます。下男・直助(江見俊太郎)の悪知恵で盗賊を仇に仕立て、岡山から仇討ちの旅。途中で岩の妹・お袖(北沢典子)の想い人・与茂七(中村竜三郎)を滝壷へ突き落とし、江戸で伊右衛門はお岩と、直助はお袖と同居するようになった。
 ある日、侍に因縁をつけられていた娘お梅(池内淳子)を助け、歓待を受ける伊右衛門。冷えたお岩との関係を清算して、お梅と結婚しようと考え始めた伊右衛門に直助は南蛮渡来の毒薬のことを持ち出すのでした。さらに、岩に横恋慕する按摩の宅悦に間男させて始末してしまおうと計略を練る。両国の花火が炸裂する夜、悪業が動き出します。
 脚本(大貫正義・石川義寛)は原作とかなり異なります。原作では、岩に毒を盛る計画をするのはお梅だし、直助は与茂七を伊右衛門の殺人の夜と同じ日に同じところで殺すことになっています(人違いですが)。また、お袖は直助と夫婦になった後で無事な与茂七を見て自害、直助はお袖が自分の妹だったことが分かって自害といった原作の因果を整理して、登場人物を減らし、観客が受け入れやすい物語にしています。
 映画俳句 「行灯に 櫛で髪梳く 病い妻」飛蜘

[参考書]
鶴屋南北『東海道四谷怪談』(岩波文庫,1956年)
2008年8月6日

NHK総合TV
20:00〜20:50
見過ごされた被爆

2008年
50分
NHK総合
 NHKスペシャル『見過ごされた被爆 残留放射線 63年後の真実』、ディレクターは松丸恵太・城秀樹。原爆投下後一週間して広島市の爆心地付近に被爆者の援助で入った女学生・大江さんは原爆症の認定を受けることができないままです。8月20日までのほぼ一週間、原爆の傷に苦しむ人々を治療した後、髪の毛が抜けたり、がんを発症したりしました。同時に入市した友人も同様のがんに犯されて亡くなってしまいました。
 なぜ入市被爆者の被爆が問題にならなかったのかというと、ABCC(原爆傷害調査委員会)の作製した規準で土壌から発生した放射線のデータから、被爆することは無いと結論づけられていたからです。1986年の報告「DS86」では科学的に残留放射線はゼロと結論づけられていました。けれども、鎌田七男もと広島大学教授の調査によれば、入市被爆者の体細胞染色体に異数性や形態異常が見られ、白血病発症率も対照群の3.4倍の高率に達します。
 9月初旬の台風で放射線発生源が洗い流された後で米軍は検査したため、残留放射線量を不当に低く見積もってしまったのでしょう。それに放射線は土壌だけではなく。金属やセメントからも放射されていたと考えられます。「はっきりとは分からない」ことが「影響が無い」ことにすり換わってしまったのです。
 映画俳句 「助けたい 強い思いが 二次被爆」飛蜘

シェイクスピア作品の映画化やその関連の映画は除く。
それらは別ファイルになっている。→ 『シェイクスピアの劇と映画


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