キラキラ








「くそ…。…あと、…20周…かよっ…!」
まだ20周もあるのかよ。100周なんか無理だってーの。
本田先生も言い過ぎだよな。そんな体力ねーよ…ってパイロットだって
もっと体力付けないといけねぇんだろうけど。
「一組の教室で面白い事があったらしいな。」
「茜?」
グランドに茜と速水、師匠が来る。あ、師匠なんかニヤニヤしてて、ヤな感じ。
すっげーなんか言いたそうだし。とりあえず俺は走りながら横目にみんなを見る。
だって止まっちまったらどこからか本田先生が出てきそうじゃん。出てきて
マシンガンをぶっ放されるのだけは勘弁してほしいしさ。

「たまにこういう奴いるよな。」
「無自覚ってこと?」
「坊やはまさにそれだろ。」
うわ、また3人で勝手に俺の事話してる。だから俺抜きで俺の話すんのやめて
くれない?…ま、そんな事言っても走ってるから会話に加わるのは無理なんだけど。
…つーか気になるって。
「こういう奴に限って恥ずかしい事言うんだ。」
「僕は無理だけど、滝川は素で言えるよね。」
「そりゃそうさ、恥ずかしいとか思ってないからな。無我夢中で少ない
ボキャブラリーから妥当だと思う言葉を言ってるだけだからな。それが
恥ずかしいなんて誰かから指摘されなければ気付かないさ。」
何、何?俺が何だって?よく聞こえねーんだけど。
「滝川ー!あと何周〜?」
「15周!」
「頑張れー!」
速水はそう言ってくれるから手を振ったけど、茜はいつもみたいに笑ってるし、
師匠は肩を竦めてるし…。あーあ、まだ15周もあるんだぜ?やってられないよな。
はぁぁぁ〜〜〜。

「え、うわぁっ!!」
「滝川!?」
次の瞬間、俺の目の前が暗くなる。ああ、そっか。俺、転んだんだっけ。
やっぱ、余所見しながら走るのは拙かったかなぁ?
あ、口の中じゃりじゃりしてる。不味ぃ…。
ぱたぱたと誰かが走る音が聞こえてくる。ああ、多分速水たちだよな。
「滝川、大丈夫?」
「余所見するからだ。」
「お前さん砂だらけだぞ。」
顔を上げるとやっぱりそれは速水たちでそれぞれらしい反応をしながら俺に
話しかけてくる。うわ、膝に思いっきり擦り傷が出来てるな。…最悪。
「滝川、とりあえず水で洗わないと。」
「その後は石津の所だな。」
「いいタイミングだな、お前さん。案外計算していたのか?」
「はぁ?!」
「瀬戸口くん!滝川がそんな計算出来るわけないでしょ!」
いや、師匠の計算ってわかんねぇけどさ…それより速水。お前さらりと今、酷いこと
言いやがったな。ま、いいや。どうせ悪気はないんだろうしさ。それよりまず
水で砂を流さねーと。花壇の所にたしか水撒きようの水道栓があったよな。
あれでいいや。
「滝川ハンカチ持ってる?」
「ハンカチ?」
「もう、ちゃんと持ってないと駄目だからね。」
水道栓をひねって膝にあてる。ちょっと染みるな。砂を流し終わって水道栓を
しめると速水の差し出したハンカチを受け取る。
「拭いたらさっさと石津の所行けよ。」
茜の言葉に頷くと師匠を見る。…あ、またあの顔だ。
「しっかりしろよ、坊や。」
「俺と師匠なんてそんな年の差ないのに、何だよ。」
「そうだな、経験の差だな。ほら、早く行ってこい。」
「ふん、言われなくったって行くさ。」
経験がないってくらい分かってるよ。どうせ、俺は女子と付きあったことないし。
師匠みたいに器用じゃないし。
速水と茜を振り返って手を振ると整備員詰め所へ走り出す。

…石津…いるかな?

プレハブ校舎の前に来ると整備員詰め所に誰かが居る。石津と…あと誰だろ?
ちぇ、先客が居たらあんま喋れないか。
…って言うか、本田先生に『口説いてる』って言われたの気にしてねぇかな。
気にしてないならいいんだけど。

意識されちゃったら前みたいに話せないかもしれないし。
無視されたら…嫌だし。

な、もし俺がさ、お前の事好きだって言ったら、お前はどうする?
お前の事、ずっと気にしてたって言ったら、どう答えてくれる?

言いたいけど、言えない。
言うのが怖い。断られたら…きっと今までみたいに話せなくなる。
それだったら今のまんまの方がいいじゃん。

あいつを見て幸せだと思うだけで、いいじゃん。

でも、…でも。
それだけじゃ、やっぱり嫌で…。
あいつの笑顔を隣で見たい。
いつか言えるかな。

「石津いる?」
先客は芝村と東原だった。なんか俺見てびっくりしてるんだけど…。何?
「我らは帰ろう。またな、石津。」
「もえちゃん、またね。ようちゃん、がんばってね。」
「?…おう、じゃあな。」
芝村と東原が出ていくと整備員詰め所には俺と石津だけが残される。
「…怪我…したの…?」
「ああ、うん。」
いつもだったらこの時点で俺から話しだす所なんだけど…。何となく、さっきの
師匠たちの言葉が頭の中で回ってぼーっとしてしまう。
改めて今、ここに俺と石津しか居ないことに気付いたからかな。

言うなら今だって、師匠なら言うかもしれない。

何でかわからないけど、そんな風に思って…。
「あのさ、石津!」
「…滝川…くん…?」
消毒していた石津が脱脂綿を手に取ったまま、首を傾げる。

うん、そうだ。こいつの笑ってる所、見たいもんな。
いいや、振られたって。振られたら振られた時だ。
よしっ!言うぞ!!


「俺、お前に聞いて欲しいことがあるんだ。…聞いてくれるか?」




<あとがき>
やっと告白にたどり着きそうです。話数としては既に5話ですが、
実際に時間の流れとしてはまだ3話です。滝川サイドと萌ちゃんサイドに
別れているから、話数が多くなっているのですよね。
なので当初考えていた話数より多いわけです。2倍なのですから。

さてさて、萌ちゃんサイドを書いたら、いよいよ最終話です。
頑張って書きますね。