キラキラ







少し離れた所から楽しそうな笑い声が聞こえる。その中でも一際
大きいのは…多分同じ1組の彼の声だろう。
どこに居たっていつも楽しそうにしている彼。

なんとなく気になってしまって、気付くと彼を無意識に探している。

後ろ姿を見るだけでも十分なのに…たまに彼に気付かれてしまう。
でも目を合わせるなんてことは出来なくて…俯くのが精一杯。


誰とでも楽しく話せる彼にとって、私なんて……。


彼が教室を出て行ったのを確認すると自分の鞄から昼食用の弁当を取りだす。
教室を出てもまだ彼の声は聞こえている。昼食用の弁当を持たない彼が
珍しく何か用意してきたのか、食堂兼調理室から楽しそうな声が聞こえていた。

整備員詰め所は自分にとっての仕事場であり、一人になれる場所。
…ただ、最近は良く怪我の手当をしに彼が来る。
それは仕事時間だったり、昼食の時間だったりとまちまちだったけれど、
毎日のようにここに現れる。
もしかしたら、今日もここに来るかもしれない。

弁当を広げながら救急箱を見つめる。
最近の自分はどうも彼を意識しているとしか思えなかった。

元々、彼みたいな人は苦手だと思ってた。
良く喋るし、いつも笑っていて…自分とは正反対だと思う。
人と接することが楽しいといった彼がうらやましい。
自分がもし、彼のように出来たら…きっと友達だってたくさん出来たに違いない。

だけど、自分は自分で。
彼は彼で。
こんな自分だから彼が気になるのかもしれない。

「石津、居るか?」
入り口に顔を見せたのは芝村さんだった。
「まいちゃん、はやいのよ。」
芝村さんに手を取られた東原さんが息を切らせてる。
「…どう…したの…?」
「ののみが転んだのだ。手当をしてやって貰えるか。」
よく見れば東原さんの膝にはすり傷が見える。ほんの少しの傷だけれど、
放っておけば菌が入ってしまう。
「…東原さん…こっち…。」
椅子を差し出すと救急箱をあける。消毒液と脱脂綿を用意すると心配そうな
芝村さんと視線があった。
「…大丈夫…。そんなに…しみ…ないわ…。」
「うん、へいきだよ。だからまいちゃんしんぱいしなくてもいいのよ。」
「し、心配などと…っ!」
「できた…わ。」
手当を終えると使い終わった脱脂綿をごみ箱にいれる。ふと芝村さんと目が
合った。芝村さんは救急箱とごみ箱を見比べると眉をしかめる。

「脱脂綿の減りが早いな。他の物資も足りていないのか?」
「…足りてる…わ。…脱脂綿は…毎日…使うから…減りが…早い…だけ…。」
「ふむ、そうか。少しくらいの傷は洗い流して済まさせるように言うべきだな。」
「ばいきんさん、はいっちゃうよ?」
「そなたは手当をする。が…滝川は毎日だからな、少し注意をするべきだろう。」
突然彼の名前が出てきたことに軽く驚く。何故、芝村さんがそんな事を知って
いるのだろう。
「驚くな。毎日消費する者と言えばあれくらいしか思いつかん。」
「そう…なの…?」
あまり他人に干渉しない芝村さんが彼のことを気にしているように思えたのは
気のせいかしら。…もしかしたらこれは私の思い過ごしかもしれないけれど…。
頭を左右にふると今の考えを打ち消そうとする。

「ようちゃんはね、べつのごようじもあるのよ。」
東原さんの言葉に芝村さんが不思議そうに首を傾げた。
「用?」
「えへへ、それはひみつなのよ。」
にこりと笑う東原さんは可愛らしいと思う。自分もあんな風に笑えたら…
もっと違っていたかもしれない。
「…それではわからんではないか。」
「ののみはしってるけど、いったらめーなのよ。それはようちゃんが
いわなきゃいけないの。だってようちゃんがかいけつすることだからなのよ。」
「ならば、滝川にはその用とやらをさっさと済ますように言うか。」
ため息をつく芝村さんに東原さんは頬をふくらませてる。
「めー。」
「それも駄目なのか。」
東原さんの様子に芝村さんはまた眉をしかめてる。…芝村さんって意外にも感情が
表にでやすいわ。少し…彼に似てるかもしれない。

「そうなのよ。ようちゃんがなっとくできるようにするの。」
「しかし、その用とやらを済ませるまでに脱脂綿がなくなって
しまうかもしれないではないか。」
芝村さんにとって脱脂綿の減りは気になるものらしく、彼と脱脂綿を比べてる。
「だっしめんよりようちゃんのほうがだいじなのよ。」
「だが、しかしだな…。」
「まいちゃん、めー。」
「ののみ…。」
こうして二人のやりとりを見ていると東原さんの方が芝村さんよりもお姉さん的な
役割を演じていると思う。
ふと東原さんが私を見るとにっこりと笑った。
「もえちゃんがんばってね。」
「…?」
「仕事か?」
芝村さんが東原さんの主語を補おうとすると東原さんがまた笑う。
「しごとも…ぜーんぶなのよ。」
「仕事以外に何があるのだ。」
「いっぱいあるの。えっとね、いのちみじかし、こいせよおとめなのよ。」
「…ののみ…その言葉、何処で覚えた。」
東原さんの言葉に脱力したように芝村さんが肩に手をおいた。

「もとちゃんにおそわったのよ。おんなのこはいくつになってもおんなのこなんだって。
こいをしってるおんなのこほどかわいいこはいないのよって。」
「原…ののみに何を教えてるんだ…。」
「おんなのこにはじゅーよーなのよ。まいちゃんもこいをすればわかるのよ。」
今日何度目かのため息をつくと芝村さんは腕組みをした。
「ののみとてまだであろう。」
「ののみにはちゃーんとおうじさまがいるのよ。」
「何?!」
芝村さんは驚いているけれど、東原さんの言う王子さまは間違いなく同じ組の
瀬戸口くんのことに違いない。いつも一緒に居るところを見るもの。
「たかちゃんははくばにのったおうじさまなのよ。…もえちゃんだっておうじさま
いるもんね?」
「…私…?」
「ののみ、おうえんするからね!まいちゃん、いこ。」
「ののみ、まだ話は終わってないぞ。こら、待たんか!…石津、邪魔したな。」
楽しそうに出ていく東原さんを追いかける芝村さんの後ろ姿に
頷くとさっきの言葉を思いだした。
「…王子…様…?」

もしかして、東原さんは知ってるのかしら…。
…彼を意識してること…。





<あとがき>
萌ちゃんより、ののみちゃんや舞姫の方が台詞が多いですね(汗)
だって口を挟めそうになかったんですもの。
前回の滝川編に比べると文章が長くなってますが、多分それは
ののみちゃんと舞姫の会話がボケとツッコミになっているからでしょう。

しかし、滝川は王子様ってガラじゃないですよね(苦笑)