騒がしい教室の中親友と話しながら何気なく部屋の中を見る。
すると自分の視界の中に一人の少女が入ってきた。
大人しいというよりも存在そのものを消してしまうようなそんな印象の
彼女が最近気になって仕方ない。
…気になって目で追う。
じーっと見てたらアイツも俺の視線に気が付いて…
そうしたら…うつむいちまって……。
あーあ、俺、嫌われてんのかなぁ。
「滝川がため息なんて珍しいね。」
親友の台詞にむっとしながら席を立つ。今はちょうど昼休みだ。鞄の中から
財布を取りだすと味のれんへ行くべく教室を出ようとする。
「滝川、味のれんいくの?」
「弁当ねぇし、しょうがねーじゃん。」
「これなぁんだ。」
嬉しそうに笑う親友が見せてきたのは一人分にしては大きすぎる弁当箱。
「一緒に食べようよ、下の調理室兼食堂で、ね?」
「よっしゃ、オーケイ!」
さっきまでの機嫌の悪さなんて弁当一つで消し飛んでしまう。…こんな風だから
瀬戸口師匠には『お前さん単純でいいね』なんて言われてしまうのだろうけど。
「こらこら、速水。俺のことは忘れてないだろうな。」
「瀬戸口くんも一緒に食べる?」
「僕も行くぞ。」
いつの間にか速水と二人で食べる筈だったのが瀬戸口師匠と茜まで昼飯を食べる
ハメになったらしい。
結局男4人で弁当を広げる。…っても俺は速水の弁当貰ってるんだけどさ。
「美味しい?」
速水から貰ったサンドイッチを頬張るといつものように笑いながら聞いてくる。
もちろん速水の作るモンは美味しい。頷きながら普通に感想を言う。
「ああ、流石速水だよな。」
「良かった。滝川さえ良ければ毎日作ってあげようか?」
…いや、それはちょっと…。
だって男の手作り弁当毎日持ってるなんて…なんかイヤじゃん?
そりゃ速水は自分のモン作るついでにって言ってくれてるんだろうけど。
反応のない俺に速水が首を傾げた後ぽんと手のひらを打つ。
「あー、それとも滝川貰える”あて”があるの?」
「…っげほっ!!」
「あるわけないだろ、コイツに限って。」
「んー、そりゃ初耳だな。お前さんいつの間に女の子ひっかけたんだ?」
それぞれが言いたい放題に言ってくれてる間に速水の差し出したお茶を
飲んで咽に詰まったサンドイッチを飲み込む。
「だ、誰がだよ!?」
「だって、滝川最近うわの空だよ?」
「いつもの事じゃないか。」
速水の言葉ににべもなく茜が言い放つ。…くそぅ、俺が何にも言わないからって
言いたい放題すぎるんじゃねぇの?
「お前さんに隠し事が出来ると思ってるのかい?バレバレなんだよ、態度が。」
「瀬戸口くん知ってるの?」
速水が師匠に向かって首を傾げる。自信満々そうな師匠が俺を見ながら
楽しそうに口を開いて……。
「この坊やはな…。」
「わー、師匠ストップ、ストップ!!!俺別に石津に何にもしてねぇよ!!!」
師匠の台詞に被った俺の台詞は見事自分の心の中を暴露していて…茜が
冷静に俺を分析した。
「…語るに落ちたな。」
「石津ねぇ…。」
にやにやと笑う師匠にを睨みつけるもそれが更に師匠を笑わせてしまって
いることなんて俺にはわからない。
「…べ、別に師匠に関係ないだろ。ほっとけよ。」
「お前さん、それは可愛くないぞ。」
「可愛くなくて十分だよ!男が可愛くってもしょうがねーじゃん。」
拗ねたようにそっぽを向くも茜も速水も師匠もそれぞれがこっちを見てる。
…居心地悪すぎるって…ったくさぁ。
「それで滝川最近後ろばっかり見てるの?」
「……そうだよっ!」
半分こっちもやけくそになって答える。
「毎日あっちこちすり傷作っては整備員詰め所に通ってるのも…実は
石津さんに会うため…だったりして…。」
「……わるかったな。」
「意外とお前さん一途だったんだな。」
「師匠と一緒にするなってば。」
途中で入った師匠のあいのてにむっとして言葉を返す。俺の
可愛くない返答に師匠はわざと頭を撫でてきた!くそぅ、
ぜってー馬鹿にしてるだろ!
「もしかして洗濯物増やしてるのもお前の仕業か?」
茜の疑問に眉を寄せる。あー、もう!何で昼飯食うのに、こんな風に
尋問されなきゃなんねーんだよ!
「わかった、僕協力してあげるよ!」
「…へ?」
「面白そうじゃないか。いいよ、僕ものってやるよ。」
「ふぅん、ならこの愛の伝道師の俺も本腰を入れるとするか。」
……何だが俺の知らないところで勝手に話が進んでる気がするのは俺だけか?