最終更新日: 97年11月18日
講義要項
1.戦闘のルール
2.キャラクターの成長
3.竜機伝承の成長ルール
4.基本戦略
5.バランスの変遷
成績評価について
平面シミュレーション型の戦闘を行うRPGいくつかを題材として、RPGの数値解析の基礎、冒険者を育てることに対するセンスなどを養う。
この講義では、主な題材として、ファーランドストーリーシリーズを取り上げる。このゲームは、基本的には名作とはいい難いゲーム、「スカツ」なゲームである。特に、優れたRPGには不可欠と考えられる、
しかし、本講義は、一般的なRPGの攻略法を説くことではなく、キャラクターを育てるという視点からRPGを解析することを目標としている。したがって、これらの要素がなく、純粋に戦闘を通じてキャラクターを鍛えていくゲームであることは、この講義の目的にはむしろかなっている。また、戦闘結果や経験値が全て非常に簡単な計算で求められる点も、講義の題材として非常に適している。シリーズの中で基本システムは一貫しているけれども、細かい部分ではかなり変遷があり、それにしたがってゲームバランスもかなり変化している。そのことからも、数値解析の対象としては十分興味深いものである。
なお、この講義は、DOSゲーム時代のファーランドストーリーシリーズ(主に「神々の遺産(第6作)」まで)に基づいている。このシリーズがWindows95に移行してから制度の変更などがあった可能性もあるが、それについては本講義では取り扱わないのでその点には留意していただきたい。
本講義は、「冒険者養成論第二」という題目になっているけれども、冒険者養成論第一の内容を前提とはしない。したがって、冒険者養成論第一を履修していない者も、本講義を履修することはできる。もちろん、この講義を受講する前に冒険者養成論第一を履修するのは望ましいことである。
教科書・参考書は使用しない。
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1.1 ダメージ計算の基本
1.2 会心の一撃・連発
戦闘では、互いに攻撃を行い、そのダメージを計算する。そのダメージが生命力(ヒット・ポイント、体力などと呼ばれることもある)から差し引かれる。生命力が0になったキャラクターは、死亡、気絶、あるいは戦闘不能になったことになり、戦闘から除外される(ゲームによっては、一人でも生命力が0になった時点でゲームオーバーというものもある。)。
多くの場合、敵を全滅させると戦闘に勝ったことになり、ゲームを続行できる。戦闘に負ければ、その時点でゲームオーバーである。戦闘に負ける条件としてはゲームによって異なり、私の知っている限りでも、
このあたりまでは、RPGの常識と言ってよい事項である。ここでは、ダメージの決定法を中心として、ファーランドストーリーシリーズを例にとり、戦闘の結果が判定される過程を説明する。
1.1 ダメージ計算の基本
原則1: 攻撃側の攻撃の威力から防御側の防御力を引いた値がダメージとなる。
ファーランドストーリーシリーズには、攻撃の手段として、物理攻撃と魔法攻撃の二通りがある。上で「攻撃の威力」とは、物理攻撃の場合は「攻撃力+武器の打撃力」、魔法攻撃の場合は「知力+武器の効果」である。なお、このゲームでは、武器が物理攻撃に使うものならばその威力を「打撃力」と呼び、魔法攻撃に使うものならその威力を「効果」と呼ぶ。以下、この講義でもゲーム中の表現に従う。
上の文では単に「防御力」と書いたが、物理攻撃と魔法攻撃に対応して、防御力にも二通りの値が存在し、それらは全く独立したものである。今後の講義では、ゲーム中での表現に従い、物理攻撃に対する防御力を単に「防御力」、魔法攻撃に対する防御力を「魔法防御」と記す。
原則2: すべての地形には地形効果があり、その地形効果の分だけ受けるダメージが減少する。
戦闘が行われるフィールドは、正方形の小さなマスに区切られている。そのマスごとに地形の種類と「防御率」という値が定められている。全てのダメージは、原則1によって計算した値から、「防御率」の分だけ差し引かれる。
上で述べたことを式にまとめると次のようになる。この式の中で、「攻撃の威力」とは、物理攻撃の場合は攻撃力+武器の打撃力、魔法攻撃の場合は知力+武器の効果である。また、「その攻撃手段に対する防御」とは、物理攻撃に対しては防御力、魔法攻撃に対しては魔法防御である。
ダメージ = ( 攻撃の威力 - その攻撃手段に対する防御 )×( 1 - 防御側のいる地形の防御率 ) ...(1.1)
ダメージ決定の基本は、この式だけである。
ただし、大地の絆(第5作)までは、ボスキャラを攻撃する場合には、ダメージはこの式に全く従わない(かなり小さくなる)。したがって、どの程度のダメージが出るかは実際に攻撃を行ってたしかめるしかない。神々の遺産では、ボスを攻撃する場合もダメージはこの式の通りになる。
(1.1)式の値が0以下になった場合、白銀の翼(第4作)まではダメージが全くなしとなった。これをこの講義では「完全防御」と呼ぶことにする。それに対し、大地の絆(第5作)以降では「完全防御」の制度はなくなり、(1.1)式の値が0以下でも、1点のダメージ(後述の会心または痛恨の一撃なら3点、連発の場合は1回のダメージごとに1点)が与えられるようになった。これは小さな差に思えるかもしれないが、回復魔法をかけるキャラクターの成長を考えれば、非常に重大な違いである。1点でもダメージを受ければ、回復魔法をかけて、それによって経験値を得ることができる。ダメージがなければそれはできない。白銀の翼以前では、パーティーにザコの攻撃を完全防御できるようなキャラクターが何人もいる場合、回復魔法をかけるキャラクターが「失業」の危機に陥ることになる。
1.2 会心の一撃・連発
「会心の一撃」という用語はゲーム中には出てこないが、そう呼ぶべき現象は起こる。日本のRPGでは「クリティカルヒット」という用語がよく使われるが、クリティカルとは、英単語としての本来の意味は「危機的な」ということである。事実、RPGの元祖といえる「ウィザードリィ」では、H.P.がいくら残っていてもクリティカルヒットを食らうと一撃で致命傷となった。しかし、以後の日本のRPGでは、いつのまにか、「会心の一撃」と呼ぶべきものにこの語が誤って使われるようになってしまった。以下、この講義では、主人公の側については「会心の一撃」、敵については「痛恨の一撃」という表現を用いることにする。ファーランドストーリーの場合、それらが出た場合、(1.1)式で求められるダメージを3倍する。
会心の一撃が出る確率は、攻撃側と防御側の敏捷さの差によって決まる。これはほかの多くのRPGでも共通である。敏捷さの差がどの程度のときどのくらいの確率で会心の一撃が発生するかは、ファーランドストーリーシリーズの場合、主人公の側の攻撃と敵の攻撃で異なる。主人公の側が攻撃する場合、私の見当がついた範囲では次の通りである。
会心の一撃の確率 | まれ | ときどき | 半々 | ほぼ確実 | |
---|---|---|---|---|---|
約1/10 | 約1/4 | 1/2前後 | 3/4以上 | ||
攻撃側の敏捷さ - 防御側の敏捷さ | 天使の涙・白銀の翼・神々の遺産 | +10 | +13 | +16 | +20 |
大地の絆 | +3 | +5 | +7 | +10 |
用いる武器または敵の種類によっては、攻撃が連発となることがある。連発とは、非常に曖昧な表現である。ここでいう「連発」とは、1ターンに複数回の攻撃ができるということではない。1回の攻撃で複数の相手にダメージが与えられるということでもない。あくまで1ターンにできる攻撃は単体の相手に一度だけだが、その攻撃で、(1.1)式によって決まるダメージを複数回与えられるということである。これは、用いる武器または敵の種類によるものであり、攻撃側と防御側の能力値に依存する性質ではない。連発の場合、会心(痛恨)の一撃の判定は、1回の攻撃全体ではなく、1回のダメージそれぞれについて行う。連発と会心の一撃あるいは痛恨の一撃が重なると、(1.1)式で与えられるダメージの値は小さくても、結果として非常に大きなダメージとなることがある。実際のプレイにおいては、中ボスと戦う場合に特に必要となる注意である。
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2.1 経験値計算
2.2 レベルアップ
2.3 クラスチェンジ
ほとんどのコンピュータRPGは、戦闘によって経験値を得て、経験値が一定の数値に達するとレベルアップし、レベルアップによって能力値が上昇するという形でキャラクターの成長が行われる。ここでは、引き続いてファーランドストーリーシリーズを例にとり、経験値計算からキャラクターを育てるための方法論を説き起こすことにする。
2.1 経験値計算
ファーランドストーリーシリーズの場合、経験値は全て戦闘によって得る。経験値計算は、1回の攻撃ごとに行う。その攻撃で、
体力または行動力の回復によって経験値が入るようになったのは、ファーランドストーリー伝記(シリーズ第2作)からである。これによる経験値は、1回につき8点または10点(ゲームにより異なる)に固定されている。何点回復させたかは経験値に関係しない。回復させた点数が1点でも150点でも、得られる経験値は同じである。また、回復をかける側と回復する側のレベルも、経験値には無関係である。
行動力の回復とは、このシリーズに特有の特殊能力で、自らの行動力を消費して、行動力を使ってしまったキャラクター一人を再行動させることができるというものである。このシリーズでは、行動力を消費する行動(移動、攻撃、回復。ただし、移動した後にその場で攻撃あるいは回復を行うことができる。)は1ターンに1回であるが、この特殊能力を利用することによってそれを同じターンにもう一度できるわけである。この能力を活用できることが、このシリーズをクリアするための一つの鍵となる。今後の講義では、体力および行動力の回復を合わせて「支援」と呼ぶ。また、これを主に行うキャラクターを「支援キャラクター」、攻撃しかできないキャラクターを「前線キャラクター」と呼ぶことにする。
主人公側のキャラクターには「レベル」という数値があるが、敵にもレベルが存在する。しかし、シリーズ第2作までは、主人公側と敵とのレベルの差に関係なく、
主人公側と敵とのレベルの差によって「倍率」が定められたのは、天使の涙(第3作)以降である。その倍率を敵に与えたダメージまたは敵の経験値にかけたものが、実際に得られる経験値となる。倍率の定め方は下の通りである。
今まで述べてきたのは、全て通常の攻撃による経験値である。シリーズには、これ以外に、「広域攻撃」という特殊な攻撃手段が利用できるものがある。広域攻撃は、かなりこのゲームの原則を外した攻撃である。
経験値100を得るごとに、つまり、経験値が100の倍数に達するごとにレベルアップが起こる。ただし、広域攻撃は例外で、それを行ったことによって経験値が100の倍数に達してもレベルアップが起こらない(これは「バグ」と呼ぶべきかもしれないが、広域攻撃の特殊性を表すものと見ることもできよう。)。レベルアップすると経験値が0に戻るわけではなく、そのままである。
レベルアップすると、体力が1〜4点(伝記では最大5点まで)、それ以外の能力値が0〜2点(0〜1点の場合もある)上昇する。どれだけ上昇するかはランダムに決められるが、キャラクターの性質によって、当然、上がりやすい能力値と上がりにくい能力値がある。
能力値の上限は、体力はシリーズ通して150である。それ以外の能力値については、第1作のみ45、第2作以降は99である(ただし、伝記に関しては、全能力値ともこのラインに到達したキャラクターがいないので推定。大地の絆でも、体力以外は上限に到達したキャラクターはいない。)。この上限を超えることは、いかなる手段によってもできない。
レベルの上限は、シリーズの中でも異なる。
経験値の上限については、9999が何らかの意味で上限になっているものが多いと思われるが、到達した例が少ないので不明なものが多い。今までに判明した分だけ列挙する。
このシリーズでは、クラスチェンジは、基本的に、キャラクターごとに定められたある武器を装備することによって起きる。イベントによってクラスチェンジすることもある。武器を装備することによるクラスチェンジは、一定のレベルに達していないとできない。イベントによってクラスチェンジする場合は、レベルがいくつであってもクラスチェンジする。
このシリーズにおけるクラスチェンジの意義は、それによって強力な武器、特殊な効果を持った武器を利用できるようになることである。しかし、弱い武器を使えなくなるので注意が必要である。強い武器が使えるのなら弱い武器が使えなくてもよいではないか、と考える人もいるだろう。しかしそれはこのシリーズをプレイしたことのない人の考えである。弱い武器が使えなければ困ることは頻繁に発生するのである。それはなぜか、今まで説明したルールをもとに考えてみよ。
さて、クラスチェンジが起こった場合、原則としてレベルは1になる。第1作では経験値も0になるが、第2作以降では経験値は保存される。なお、一般のRPGでは、クラスチェンジすると経験値が0になるほうが普通である。ところが、クラスチェンジによって、経験値はそのままでレベルが1になると、経験値とレベルが一致しないことになる。さらに、レベル1のとき経験値0なら、
レベル = 経験値÷100 + 1(端数切り捨て) ...(2.4)
となるが、ファーランドストーリーシリーズの場合、パーティーに加わった時点でそのようになっていないキャラクターもいる。したがって、今まで単に「レベル」という用語を使ってきたけれども、そのレベルにも幾通りかの定義がありうる。そのうちどれをさしているのかはっきりしないと混乱が発生することになる。そこで、これ以降、この講義では3種類のレベルを定義し、使い分けることにする。
このシリーズでは、20レベルまたは60レベルに到達すると経験値が入らなくなるものがある。そのときの20レベルないし60レベルというのは見かけのレベルである。いったんそのレベルに到達して経験値が入らなくなっても、クラスチェンジしてレベルが1に戻れば再度経験値が得られるようになる。また、途中でクラスチェンジしていれば、見かけのレベルが20または60になるまでは、経験値レベルや通算レベルがそのラインを超えていても経験値を得てレベルアップすることができる。
一方、敵を攻撃したときの経験値計算は、経験値レベルを基準として行う。
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さて、この講義はファーランドストーリーシリーズの攻略法を導くのが目的ではない。あくまでもこれは一つの例に過ぎない。だから、もう一つ例を挙げることにしよう。今度の例題は、「竜機伝承」というゲームである。
このゲームは、純粋な行動力制度をとっており、必要な行動力が残っている限り移動や攻撃を何度でも行うことができる。また、思考ルーチンはファーランドストーリーシリーズに比べ大幅に強く、敵は、攻撃可能な範囲内で最も弱いキャラクターを集中攻撃してくる。ファーランドストーリーシリーズの場合、敵は、最も近くにいるキャラクターを攻撃するため、敵の進路の途中に防御の強いキャラクターを配置しておけばそこで敵の攻撃を食い止めることができてしまう。(注: この両者を制作したメーカーは全く別である)
さて、竜機伝承の場合、経験値制度は極めて単純である。ファーランドストーリーシリーズと同じく、経験値100ごとにレベルアップである。
行為を行うキャラクターのレベル - 対象のレベルを x として、
x≦0の場合 | x > 0の場合 | |
---|---|---|
その攻撃で敵を倒した場合 | 25x + 50 | 5 |
それ以外 | 4x + 4 | 1 |
表3.1からわかることは、全ての行為について、行動をする側のレベルがその対象となる側のレベルを1レベルでも上回っていると、得られる経験値は極端に減ることである。したがって、主人公側のレベルが敵のレベルを少しでも上回れば、成長はほとんど止まってしまう。回復魔法の場合、レベルの低いキャラクターに回復魔法をかけるのがむしろ道理のような気がするが、経験値制度はその逆になっている。しかし、これには非常に重要な意味がある。回復を主に行うキャラクターが前線キャラクターに比べレベルが高くなった場合、やはり経験値がほとんど得られなくなる。つまり、支援キャラクターと前線キャラクターのレベルがかけ離れることを防ぐ役割を果たすのである。もう一つの特徴は、中間経験値が与えたダメージの大きさによらないことと、中間経験値のウェートが小さいことである。したがって、敵を一撃で倒そうが、倒す寸前のところで止めてから倒しても、経験値は大差ないということである。
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これまで二つのゲームを例として取り上げてきたけれども、そのどちらも、数十×数十マスの長方形のマップ全体に敵が配置されており、戦術シミュレーションゲームのように、そのマップ全体を舞台として戦闘を行うことになる。そして、1回の戦闘をクリアすると、次の戦闘に進むことになる(ファーランドストーリーシリーズにおいては、それをstageと呼ぶ。)。このようなゲームは、RPGとはいっても戦術シミュレーションとの境界領域にあるゲームといえる。
このようなゲームの特色として、倒す敵の数が限られることがある。倒す敵の数が限られるということは、キャラクターを強くするためには、
さて、どれだけ多くの経験値を得るかといっても、倒す敵の数が限られる以上、攻撃による経験値は必然的に限られる。増える余地があるのは支援による経験値だけである。ファーランドストーリーシリーズでは、M.P.という概念がない。支援は、1ターンに1回という制限はあるけれども、全体の回数は無制限である。しかも、支援する側のレベルがどれだけ上がっても、それによって得られる経験値は一定で、下がることがない。したがって、支援の回数を多くすればするほど、パーティー全体の経験値は多くなる。また、支援の回数を多くして、支援の能力を持つキャラクターを支援専門にしてしまえば、前線キャラクターの経験値も増えることになる。なぜなら、攻撃によって得られる経験値は一定のところで、それを分け合う頭数が減るからである。一方、パーティーのレベルを低くして、ぎりぎりのクリアを試みたいなら、その逆を行えばよい。支援を行う側と受ける側のレベルに関係なく支援による経験値が一定であることは、支援キャラクターの成長に歯止めがかからないという問題がある一方で、パーティーの成長に関してある程度の自由度を保証していることがわかる。一方、竜機伝承については、主人公側と敵のレベルのバランスはほとんど自動的に保たれるような制度になっている。前線キャラクターと支援キャラクターのレベルが離れることもない。しかし、キャラクターの育成に関する自由度はほとんどないと言ってよい。
これは、RPGにおいては常に表裏一体のことと言ってよい。自然にプレイしたときに、ある程度苦労しながらもクリアできるようになっていて、しかもキャラクターの成長について自由度をもうけることが、RPGにおけるバランスの理想である。これを実現するのが難しいのはもちろんのことである。しかし、過去にこれを相当程度実現したゲームはある。ゲーム制作者に対しては、これらにもっと力を注ぐよう期待する。一方、ゲームを評論する側がこれらをもっと重視するようにしなくては、ゲームを選ぶときに演出効果だけに目を奪われ、結果として、ゲーム制作者側も演出効果に力を注がざるを得ないという事態を招くと思われる。特に、最近感じるのは、キャラクターを育てる自由度が小さくなっていることである。戦闘を必要なものだけに絞るのは、最近のRPG全般にみられる傾向のようである。しかし、ストーリーを楽しむだけなら、世の中には優れた冒険小説は星の数ほどある。あるいは漫画やアニメもある。わざわざ高価なゲームを買う必要はない。ゲームにあって小説(漫画、アニメ)などにない最大の要素は、自分の手でキャラクターを育てる過程だと私は考える。そして、この過程で十分に時間と手間をかけることによって、キャラクターへの感情移入が強まるのである。
次に、同じ経験値でキャラクターをいかに強くするかという問題だが、これについては、レベルアップのときによい結果が出るまでやり直しするしかない。これは邪道と思われるかもしれない。しかし、キャラクターを育てるゲームにおいては、ランダム要素はほとんど不可避である。したがって、ある一線以上にキャラクターの能力を高めようとすれば、やり直しをしてよい値を出すことが必要である。やり直しの基準を決めるためには、キャラクターの素質、すなわち、どの程度の値がどの程度の確率で出るかをつかみ、それに応じて適切な目標を設定することが必要である。これは決して一朝一夕でできることではない。そのような能力と態度を養成することも、本学科で学ぶ最も重要な目標の一つである。
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ここでは、今まで説明したような経験値制度の変遷、あるいは、まだ説明していないアイテム・敵の傾向などの変化が、実際にどのようにゲームバランスに影響しているかを概説する。
しかし、神々の遺産ではそうはいかない。まず、中間経験値と基本経験値のウェートについて検討しよう。中間経験値のウェートが大きければ大きいほど、敵を倒す際に、敵の生命力が0にならないぎりぎりのダメージを与えて、それから敵にとどめをさす、という工夫が要求されるからである。
まず、白銀の翼までは、中間経験値と基本経験値はほぼ1 : 1となる((2.1)式参照のこと)。厳密には、天使の涙までは、敵の経験値 = 敵の体力となっているので、中間経験値が少し小さくなる。敵を倒さないのなら敵の体力が最低1点は残っているからである。逆に、白銀の翼の場合、敵の経験値が敵の体力よりやや小さいので、中間経験値が少し大きい。大地の絆では、敵の経験値は敵の体力よりやや小さく、中間経験値 = ダメージの半分×倍率のため、中間経験値 : 基本経験値 = 1 : 2に近い比になる。それに対し、神々の遺産では、終盤の3stageほどを除いては、ザコ敵の経験値はなんと5〜8点である。ザコ敵の体力自体は、中盤以降はシリーズの他のゲームとほぼ同じで、30〜50点である。したがって、3 : 1〜4 : 1くらいの割合で、中間経験値の比重が圧倒的に高いことになる。
ところが、中間経験値と基本経験値のウェートがほぼ等しいといっても、全ての敵を一撃で倒したときに得られる経験値が半分になるかと言えば、そうではない。序盤の敵を倒すときに中間経験値を多く得たとすると、全く得ていない場合に比べレベルアップが早くなる。その結果、後の敵を倒すときに、中間経験値を得ていない場合に比べ倍率が下がり、得られる経験値が減るからである。
ところが、神々の遺産では、特に中盤以降でパーティーに加わったキャラクターの場合、経験値レベルが敵のレベルに比べて極度に低い。そのため、中間経験値を得ようが得まいが、倍率が上限にはりついたままなのである。したがって、戦闘で手を抜いて、その結果として中間経験値が減れば、そのまま経験値全体にはね返ってしまう。しかも、神々の遺産では、主人公側に敏捷さが高いキャラクターが多いため、少しレベルが上昇すると会心の一撃を連発して、敵を一撃で倒すようになってしまう。すると、敵の経験値が非常に少ないわけだから、得られる経験値も激減する。
神々の遺産のもう一つの特徴は、魔法攻撃を行う敵が多く、しかもその威力が大きいことである。主人公側のキャラクターの多くは、主人公も含め、物理攻撃に対する防御力は放っておいてもある程度上がるが、魔法攻撃については、(やり直しをして)意図的に上げないとほとんど上がらないので、魔法に対する防御が重大な鍵となる。
これはあくまで私自身の考えであるが、この程度が、RPGとして本来あるべきバランスであると考えている。また、このゲームは、キャラクターごとに特殊能力があり、それを使わないとクリアできないstage、あるいは利用すると有利になったり面白い展開ができたりするstageがある。この講義で神々の遺産までしか扱わなかったのは、このゲームがこのシリーズの完成形である、と私がみていることも理由の一つである。このゲームのバランス面での唯一の大きな問題は、前線キャラクターと支援キャラクターのレベルが極度に離れてしまうことである。本来極度に弱い前線キャラクターをまともに戦える強さに育てるまでに、毎ターン2回、トータルではとんでもない回数の回復魔法をかけなくてはならないからである。
振り返ってみると、キャラクター育成に関する基本的な態度を養成されたのは、「ファーランドストーリー神々の遺産」である、ということに気づいた。次のレベルアップでどれだけ能力値を上げるとか、最終的にどれだけの能力値に到達させるとか、そのように目標を立ててキャラクターを育てるようになったのは、このゲーム以降である。その姿勢が、プリンセスメーカーでのプレイや解析の基礎となった。つまり、一見無関係に見えるファーランドストーリーとプリンセスメーカーが、私のゲームの経歴上は密接に結びついているのである。これは一つの例に過ぎないが、全てのゲームを、自分なりのゲームに対する考え方、心構えを養成する場ともとらえてほしいのである。
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試験は行わない。レポートを提出してもらうことにより、本講義の内容をどの程度理解し実行できているかを評価することにする。
講義で取り上げた以外のRPGどれか1作について数値的な解析を行え。ただし、タイトル上は講義で取り上げた作品の続編であっても、基本的なルールに大幅な変更があれば可とする。レポートには少なくとも次のような内容を含むこと。
これらのルールについてまとめた上で、それがゲームバランスあるいは戦略にどのような影響を及ぼすか、あるいはより多くの経験値を得て強いキャラクターを育てるためにどのような点に注意すべきかを考察すると、よいレポートになるであろう。
期限は特に設けない。合格点に達しているレポートが提出されれば、その採点が終わった時点で単位を認定する。
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