なぜ、バーバラが最強なのか

世界最終予選で見たときほど「熱く」はなかった*ものの、この選手はやはりすごいとしか言いようがない。
* 第3回Vリーグでは、世界最終予選の時ほど熱くはなかった。しかし、第4回では第3回に比べても日本人選手は大幅な戦力ダウン、バーバラの打数は必然的に大きく増え、一人で打ちまくった。それでも勝てない試合が続いた。まるで世界最終予選を思わせるような状況になっている。

彼女は世界一のエースアタッカーである。ここまでくれば、断言できる。そう言い切れる理由は彼女の打つ本数が圧倒的に多いことにある。第3回Vリーグで、各選手の決定本数を見ると、エースといわれる選手でも普通は1試合当たりせいぜい25本である。それに対し、バーバラは第3回でその5割増しの1試合平均37本、第4回はそれに倍する出場1試合平均49本である。それだけ打つ本数が違うことは、どのようなことを意味するのか。

数値による検証は別のページに譲ることにするけれども、打つ本数が段違いに多いことは、何重もの意味で厳しい条件なのである。過去の日本リーグあるいはVリーグの個人表彰を見ても、サーブ賞またはブロック賞と猛打賞の二冠は時折あるけれども、猛打賞(最多決定本数)とスパイク賞(最高決定率)を同時に獲得した選手は男女通じてただ一人しかいない―そしてその一人はバーバラにほかならない!これも、多くの本数を打ちなおかつ高い決定率を残すことが至難であることを示している。この傾向は男子ではさらに顕著で、第3回Vリーグ男子で決定本数トップ10の選手のうち、一人の例外を除けば決定率は高くても51〜2パーセント、50パーセントを切れる選手が過半である(リーグ全体の決定率は50パーセント強)。

バーバラの圧倒的な決定力と耐久力はどこからくるのか。それはバーバラの選手としての育てられ方、アーキテクチャそのものに由来すると、私は考える。アルタモノワにしても、あるいはキューバのルイス、ベルなどにしても、幼い頃からロシアあるいはキューバのナショナルチームのエースを目指して育てられている。彼女らは、チーム内に自分と同等に優れた選手が多くいるチームの中で育てられたし、おそらくそのようなチームで使われることを前提にしている。だから彼女らは、1試合にそれほど多く打つことは想定されていない。バーバラはそうではない。バレーボールを始めてからずっと、彼女の育ってきた環境には、彼女に肩を並べるような選手は誰一人としていなかったはずである。そしてナショナルチームももちろんそうである。クロアチアのナショナルチームは、おそらく世界最悪のワンマンチームである。前にいようが後ろにいようが、常にバーバラにボールが回ってくる。バーバラは、初めから、「チームの攻撃を全部一人でする」ために育てられた選手なのだ。だからそのような状況でこそ、バーバラのパフォーマンスが最大限発揮される。ボールが自分一人に集中する、他に決定力のある選手がいない、そのような悪い環境になればなるほど、バーバラの力が飛び抜けていることがはっきりする。この点において、バーバラは、他の「世界のエース」と呼ばれる選手とは決定的に違う、と考える。

ここまででも数値検証のページでも、話題にしているのはバーバラのアタック能力である。アタック能力についても、調べれば調べるほどバーバラが飛び抜けていることははっきりする。しかし、バーバラには、他のどのアタッカーをも上回る武器がもう一つある。それがサーブである。具体的な数値は通算記録編を見ていただきたいが、3大会全て13%以上で1位または2位、これほど安定して高い効果率を上げている選手は、もちろん他にいない。日本リーグ時代との比較のために得点率で比較しても、2桁の得点率(現在ではまずない)が当たり前の時代に活躍した選手をも上回っている。しかも、バーバラほどアタックの負担が重くなれば、サーブを強く打つことも当然体力的に難しくなる。

バーバラのブロックはあまり目立たないけれども、ブロックについても決して能力は低くない。バーバラのブロックが少ないのは、デンソーエアリービーズというチームの影響が非常に大きい。デンソーは日本人は小柄な選手ばかりで、ブロックは極端に少ないチームである。攻撃3部門のうち、ブロックの本数は、チームカラーの影響がもっとも大きい。選手のブロック能力を見るには、その点を併せて見る必要がある。それを反映する数値として、「チーム全体のブロック数に占める比率」を考えることにする(欠場セットがある選手は、1セット当たりの決定数で比較する。)。バーバラは第3回・第4回ともこの比率は25〜30%に達する。ブロックを本業としないサイドアタッカーでは、この値は飛び抜けて高い。ちなみに、第3回Vリーグでブロック賞獲得のモロゾワはこの比率は34%である。第4回では、ブロック賞獲得のペレスはこの比較でも群を抜き42%だが、それ以外でこの比率が30%を超えたのは江越(31%)だけである。
バーバラのブロック能力の高さを示すもう一つの資料が、FIVB公式ページの95年ワールドカップの記録にある。(注意事項参照のこと。)この大会でバーバラが決めたブロックは28本、これをセット当たりに直すと7位になる。しかし、バーバラはブロックをわずか95回しか試みておらず、成功率は実に3割近くに達する。試行回数が多いことは守備範囲の広さも表すため、ブロックあるいは守備の場合は成功率だけでは選手の実力を知るには十分ではないが、バーバラはレフトエースなのだからブロックで手に当てる回数が少ないのは当たり前である。成功率で集計する場合は、チームの総試行回数の15%以上(この大会のクロアチアの場合109回以上)という規定があるため、バーバラの記録は表には出ないけれども、この規定を満たした選手で最高成功率がわずか22%だったことを考えると、この成功率は驚異的とさえ言える。

前から打つアタックだけでなく、バックアタック、そしてサーブ・ブロックも考えあわせて、バーバラの攻撃能力は、もはや比類のないレベルに到達していると言えるだろう。バーバラは、この4つの攻撃が全て強い「理想のエース」に限りなく近い存在なのである。

最もすばらしいことは、この選手を連れてきたことである。すでに実績を上げた選手を大金を払って連れてきたのとは違う。初年度のバーバラの年俸がいかほどかは知らないけれども、クロアチアという国は独立したばかり、彼女は当時17歳、国際的にそれほど評価が高かったとは思われない。そのような時点で彼女を連れてきたことがすばらしいのである。あまりにも使い古された表現だが、名馬はいつの世にもいるものである。しかしそれを見つけだすことができないのである。
そして今私が最も知りたいのもそこのところである。Vリーグ初年度、外国人選手を選ぶにあたって、最初からバーバラに的をしぼっていたとはどうしても思えないのである(もしそうだとしたら、本当にすばらしいことである。それは彼女の才能を正しく見抜いていたことにほかならないからである。)。とすれば、最初はどの国のどのような選手を望んでいたのか。バーバラの存在を、いつ、どこで、どのようにして知ったのか。

これほどすごい選手がクロアチアという国から出てきたことが、考えてみれば奇跡と言ってもよいことである。実際、バーバラに続く選手はまだクロアチアにはいない。現時点でのクロアチアチームのレギュラーメンバーの半分は、旧ソ連で活躍し後にクロアチアに移ってきた選手である。
一口にスポーツと言っても数え切れないほどの種目があり、それぞれに世界一の選手がいる。しかし、その中からその種目の強国の出身でない王者(女王)を見つけだすのは、容易なことではないだろう。比較的純粋に運動能力を測る陸上競技のようなものならまだしも、球技あるいは芸術系種目ではなおさらである。その種目に適応するための長い訓練が必要だからである。つまり、いかに優れた素質を持って生まれたとしても、それをのばすために優れた練習環境があり周囲に優れたコーチ・選手・チームなどが必要ということである。
バレーボールの世界大会(世界選手権・オリンピック)が行われるようになってからざっと40年。おそらく、今まで、世界のエースと呼ばれた選手は、いずれも世界選手権あるいはオリンピックの優勝チームのメンバーだったのではないかと思う。優勝まではいかなかったにしても、メダルは獲得しているのではないか。世界選手権にもオリンピックにも出場すらないうちに、それにもかかわらず世界のエースという評価を得たのは、バーバラが最初ではないのか。
バレーボールの強国に生まれてこなかったことは、素質をのばすという点からは不利のはずである。しかしバーバラはそれを跳ね返した。そればかりか、そのハンデを武器に変えた。彼女は、強国の生まれでなかったがゆえに、他のライバル選手の誰にもない強さを身につけたのだ。それが、後ろからの比類ない攻撃力であり他の追随を許さないタフさである。だから彼女は史上最強のエースアタッカーであり、現在最強の女子スポーツ選手の一人である。というのは言い過ぎだろうか。

もし大きなけがなどがなく順調にいけば、彼女はこの先10年間、世界最強かつ世界一熱いエースアタッカーとして君臨するだろう。それはつまり、この先10年にわたって熱い物語が続くということである。これから先もずっと、熱い選手が見つからずに寂しい思いをすることはないのである。96年6月1日、この日にあの試合を見なければ、私が彼女の存在を知ることはなかっただろう。私に彼女の試合を見せてくれた偶然に感謝したい。

しかし、最も心配しなくてはならないのは、異常な酷使が選手生命を縮めることである。

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バーバラのファンはこうなる

要するに全部自分の話なのだが、バーバラのファンにはこのような人が多いのではないか、と勝手に想像したわけである。


1.濃いファンが多い

バーバラはヒロインか悪役のどちらかといえば、どう考えても悪役である。バーバラのファンは少数派であることは間違いない。日本のスタープレーヤーのそろったチームに一人で立ち向かう。外国人選手の中では特にファンが多い(らしい)アルタモノワの最大の敵役でもある。さらに、バーバラのプレースタイルは本来日本人の感性には合わない。力と高さにものを言わせてとにかく打ちまくる。フェイントもあるけれどもひたすら打ちまくる。

これらの理由から、バーバラには、浮動票的なファンはまずつかない。バーバラのファンになるとすれば、「プレーがすばらしい」以外の理由ではあり得ない。ところが、優れたプレーを基準にするなら、バーバラは完全に飛び抜けた存在である。しかも、これほど優れた選手が、バレーボールの強国でなく、クロアチアなどという国の出身であることからして、本質的に途方もなく熱い。だから一度ファンになったら絶対に離れられなくなる。

バレーボールは、野球やサッカーなどのメジャーなスポーツに比べると、「濃い」ファンの割合が非常に高いと感じられる。バーバラのファンは、その中でもさらに「濃い」のではないか。


2.数字に敏感

ロシアあるいはキューバナショナルチームのレギュラーメンバーと言えば、それだけですごい選手であることはわかる。しかし、クロアチアのエースでデンソーエアリービーズでもエースといっても、それだけでは
「誰や、それ?」
ということにしかならない。試合を見ればすばらしい選手であることはわかる。しかし、クロアチアはロシアにはまず勝てないし、デンソーも(第3・4回の)NECや(第4回の)ダイエーにはまず勝てない。Vリーグでは個人表彰もあるけれども、記者投票で決まるタイトルでは、決定本数で断然の1位、決定率でもエースアタッカー*としては断然のトップにもかかわらずベスト6に漏れるという信じがたいこともある。
* ポジションとしてのレフトエース。実態としてのエースアタッカーでは、センタープレイヤーのガビーがバーバラを上回る決定率を残している。

バーバラが世界一であることを確信できるよりどころとしては、個人集計の数字しかない。だから、バーバラのファンは、必然的に数字に敏感になる。

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そして今も

それにしても、我ながら完全に道を踏み外してしまったものである。89〜91年頃は、トリプルアクセルがあれば金メダルがとれると期待し、4回転ジャンプができる選手が出てきたと知るとそれがやばいと不安になった。93〜94年には、ドーハの悲劇に涙し原田選手の失敗ジャンプに涙した。ところが今は、口から出てくる名前は、バーバラだとかマリーだとかマルティナだとか、そのような名前ばかりである。では道を踏み外したのはいつなのかと振り返ってみると、実はオクサナ・バイウルにたどりつく。そもそも、「長身で手足が長くてバレエが得意で優雅な表現をする」という設定からして、全部日本人の女王の逆をいっている。そして、バーバラを見て、さらに決定的に階段を踏み外し転げ落ちたわけである。

第3回Vリーグの頃は、新聞紙上で結果のみを知り、わずか数行の記事から熱い活躍に思いをはせた。結果を少しでも早く知りたいがために、スポーツニュースをはしごした。現在では、インターネットでVリーグ関連サイトをチェックするようになった。試合結果及びバーバラの個人成績も調べられる。しかし、不十分な情報の中で活躍に思いをはせることによって、バーバラへの思いはより熱くなっていったのだ。

バーバラのチームの試合結果を見るときはやはり緊張する。実際に試合を見るとき緊張することはいうまでもない。しかもその試合が4位以内に入るためのカギとなる試合で、しかもセットの展開あるいは試合全体の展開が二転三転するとなれば、その緊張たるや、サッカーW杯アジア第三代表決定戦のとき以上である。98年は2月にオリンピック、6月にサッカーW杯があるけれども、その前に燃え尽きてしまいそうなペースだった。

どうしてそこまでテンションが高くなってしまうのだろう。なぜVリーグ女子の星取表など作っているのだろう。各チームの勝敗、セットカウント、各セットの得点まで記入しているのだろう。あのW杯アジア最終予選のときにすら、このようなまねをしたことはないのに。

とにかく、第3回は、プレーオフに進出しなければバーバラを見ることはできなかった。第3回、プレーオフ進出の最後のチームがどのチームになるかもつれたときには、とてもじっとしていられなかった。図書館でVリーグ開幕以降の新聞を調べまくり、プレーオフ進出の最後のチームとなりうるチームについて、各レグの勝敗と得失セット率をまとめた。

しかし、第4回は、たとえ最下位に転落しても降格はなかった。プレーオフには出場できなかったけれども、もう実家に衛星放送の録画できる設備があるのだから、バーバラを見ることはできた。しかも、このシーズン、デンソーの放送はなんと4試合もあった*1。これは、現在の日本代表の主力選手を擁する強豪チームと比較しても、決して少なくない*2。だから、
毎試合毎試合、その結果に一喜一憂する必要など、全くなかった
はずなのに。
*1 全てNHK-BS、NHKは彼女の能力と熱さを正当に評価しているようだ。
*2 ただし、今回は民放での放送が極端に少ない。Vリーグの人気のほどがうかがえる。

様々な数字からバーバラの活躍を頭に思い描くことも大きな楽しみである。そして実際に試合を見るのと同様に、バーバラへの思いをより「熱く」するための大切なプロセスなのである。

私がバーバラのファンになったのは、もちろん彼女の試合をテレビで見て大変な衝撃を受けたからである。しかし、一時的な衝撃が大きくても、それが一回きりなら次第に回復するものである。しかしバーバラについてはそうはならなかった。あの世界最終予選の試合の記憶は薄れても、彼女への思いは冷めるどころか、熱くなるばかりである。

それは、詳しく調べれば調べるほど、バーバラが優れた選手であり熱い選手であることがはっきりしてくるからである。
数値検証のページまたは個人タイトルのページを見ればわかるけれども、私は数字の話が基本的に得意である。その私の性格にも、バーバラはこの上なくぴったりと当てはまった。

バーバラを初めて見たときは、この選手は単にすごいという印象しか持てなかった。第3回Vリーグを見て、あるいはその結果を調べて、この選手が世界でもトップのエースアタッカーの一人であることがはっきりした。そして第4回、バーバラはもはや「トップ選手の一人」ではなく、「断然飛び抜けた世界一」であることが、はっきりと確信できた。

オクサナを見たとき、あるいはバーバラも初めて見た直後には、その現実の選手の姿をもとに話を一気に書き上げた。しかし今ではそれはしない、というか、できない。自分で下手な筋書きを考えるより、現実のバーバラのほうがよほど熱いからだ。バーバラの熱さは、私の貧困な想像力などはるかに超えている。

知れば知るほど熱い。このような選手が、ありとあらゆるスポーツを通しても、どれだけいるだろうか?

「もう、バーバラしかいない」

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