なぜ、バーバラが最強なのか(数値分析編)

エースアタッカーの能力は、最も基本的には決定率によって判断される。しかし、当然ながら、決定率の数値だけを見ているのでは十分とは言えない。
特に、Vリーグの規定打数(アタック決定率などの集計対象となる最低の打数)は少なく、そのためポイントゲッターのエースアタッカーではなくサイドアウトの切り札のセンタープレイヤーが最高決定率のタイトルを獲得することがほとんどである。このため、決定率の比較においては、その選手にかかっている負担を考慮しなければ非常に不公平である。

また、これも常識的に考えて当たり前のことだが、同じ選手でも、他に優れた選手が多くいるチームに入れば決定率は上がり、逆に他の選手が全然打てないようなチームに入れば決定率は下がるはずである。

これらの要素を示す数値として、次のようなものを考えることにする。

出場1試合あたり打数
これは、エースにかかる肉体的な負担をもっとも直接に表す数字であろう。女子では、通常はエースといっても1試合60本以内であり、これを超えるようでは重い負担といえる。80本を超える負担に耐えられる選手は、女子では滅多にいないと思われる。
決定数依存度
チーム全体のアタック決定数のうち、その選手の決めたものの割合を表す。これは最も普通に考える「依存の度合い」の数値であろう。普通のチームのエースでは30%くらいである。40%以上だと重い負担、50%になるとその選手に頼りきりという印象である。60%いくようでは完全にチームとして壊れている。
決定数依存度 = その選手のアタック決定数÷チームのアタック決定数
決定率差
その選手のアタック決定率と、その選手を除くチーム全体のアタック決定率の差である。エースアタッカーは、当然そのチーム内で最も決定力のある選手であるわけだが、打つ本数も多くなり相手チームのマークもきつくなるから、バランスのよいチームならこの差がそれほど大きくなることはないと考えられる。適正範囲は0〜+3ポイント程度。+5ポイントを超えるようでは、エースと他選手で力の差が相当あり、それだけエースに重い負担がかかっていることになる。逆に、この差がマイナスになっているのもチーム構成上問題がある可能性がある。しかし、周りの選手がよすぎるからマイナスに「なっちゃった」場合もある(今回はダイエーもNECもそう)だから、こちらは一概に悪いとは言えない。
決定率差 = その選手のアタック決定率 - その選手以外の平均アタック決定率
寄与度
決定率差と似たような考え方だが、決定率差と依存率(打数での)をかけたものである。計算としては、決定率差が「その選手の決定率と、その選手以外の平均決定率の差」なのに対し、寄与度は「チーム全体の決定率と、その選手以外の平均決定率の差」である。つまり、その選手がチームの決定率をどれだけ引き上げているかという値なので、「寄与度」と呼ぶことにしている。適正範囲は0〜+1ポイント程度である。+2ポイントだとかなりエースの負担が重く、+3ポイント以上は異常事態である。また、周りの選手がよすぎるからマイナスになるような場合でも、そのようなチームは中心選手に対する依存の度合いが小さいから、この絶対値は小さくなるはずである。したがって、この値が-1ポイントより大きなマイナスになるのも、通常は問題がある。
寄与度 = チームのアタック決定率 - その選手以外の平均アタック決定率

第3回のVリーグのデータを表1に示す。
バーバラとアルの突出ぶりは表1からも明らかだろう。一方で、日立の福田は唯一決定率差も寄与度も大幅なマイナスである。チームで最も打数の多いエースがこれでは、チームは上がれない。しかも、実業団落ちした97年度も初めはこのような状態で、それが4試合終了時点で2勝2敗という結果となって表れた。しかし、このシーズン、最終的には決定率は4割を超え、チームもセット率で2位となりVリーグ復帰を果たした。

第4回Vリーグについては表2に示す。第3回のようなバランスの取れたチームがなくなってしまったことがわかる。「エースがいっぱいいる」チーム(ダイエー・NEC)と、「外国人エース一人だけ」のチーム(ヨーカドー・デンソー・東洋紡)と、「エースがいない」チーム(ユニチカ・東芝・小田急)に3極分離してしまったのである。

表の単位は、決定数依存度およびエース・チーム・他選手の決定率はパーセント、決定率差・寄与度はポイントである。ポイントとは、パーセンテージの差を意味する。例えば、エースの決定率が40%で他選手の決定率が30%のとき、「決定率の差は10ポイント」という表現をする。これは、40%のものに対して「10%少ない」というと、40-10で30%なのか、それとも40×0.9で36%なのかわからないためである。私のページでは、このような場合には全て「ポイント」という表現を用いる。

表1. 第3回Vリーグの中心選手依存度
チーム 選手 アタック成績 負担 決定力差
打数 得点 得権 決定数 決定率 出場1試合
あたり打数
決定数
依存度
チーム
決定率
他選手
決定率
決定率差 寄与度
NEC エレーナ・バトフチナ*1 991 178 288 466 47.02 55.1 27.4(31.9) 46.67 46.54 +0.48 +0.13
東洋紡 エフゲーニャ・アルタモノワ 1265 189 447 636 50.28 60.2 43.1 45.48 42.42 +7.86 +3.06
デンソー バーバラ・イエリッチ 1632 280 499 779 47.73 77.7 51.5 43.69 40.10 +7.63 +3.59
イトーヨーカドー 斎藤真由美 1236 183 335 518 41.91 58.9 31.5 40.86 40.40 +1.51 +0.46
ユニチカ 佐伯美香 1009 127 283 410 40.63 48.0 27.6 39.79 39.49 +1.14 +0.30
ダイエー 山内美加 987 131 286 417 42.25 47.0 27.5 41.09 40.66 +1.59 +0.43
日立 福田記代子 1095 137 264 401 36.62 52.1 27.7 39.96 41.36 -4.74 -1.40
JT タチヤナ・メンソーワ 1059 108 301 409 38.62 50.4 36.3 36.42 35.28 +3.34 +1.14
*1 バトフチナはけがのため3試合の欠場があり、それを考慮し「フル出場したと仮定した場合の依存度」を下の式に従って計算したものがかっこ内の値である。それ以外の項目については、3試合欠場を考慮していない。
チームの試合数(21)
仮定依存度= 依存度 ×
彼女の出場試合数(18)
この式が成り立つためには、彼女が出場しているといないとにかかわらずチームの決定本数が同じであること、つまり、他の選手で彼女の穴埋めができることが前提である。NECならこの仮定はほぼ成り立つであろう。

表2. 第4回Vリーグのチーム別中心選手依存度
チーム 選手 アタック成績 負担 決定力差
打数 得点 得権 決定数 決定率 出場1試合
あたり打数
決定数
依存度
チーム
決定率
他選手
決定率
決定率差 寄与度
ダイエー 佐々木みき* 1006 115 263 378 37.57 47.9 24.3 42.55 44.44 -6.87 -1.89
NEC エレーナ・チューリナ 1226 187 317 504 41.11 58.4 30.2 42.13 42.59 -1.48 -0.46
ユニチカ 木村久美* 1036 117 219 336 32.43 49.3 23.7 35.30 36.29 -3.86 -0.99
イトーヨーカドー ガブリエラ・ペレス 1370 166 498 664 48.47 65.2 39.7 40.55 36.60 +11.87 +3.95
デンソー バーバラ・イエリッチ* 1988 305 626 931 46.83 104.6 63.9
(60.5)
41.77
(40.68)
35.05
(33.87)
+11.78
(+12.96)
+6.72
(+6.81)
東洋紡 エフゲーニャ・アルタモノワ* 1712 253 473 726 42.41 81.5 50.5 39.42 36.79 +5.62 +2.63
東芝 神田千絵 1256 117 277 394 31.37 59.8 29.7 34.70 36.34 -4.97 -1.64
小田急 熊前知加子 1200 127 304 431 35.92 57.1 27.5 38.05 38.93 -3.01 -0.88
*2 この表中で*マークのついた選手は、欠場試合または欠場セットがある。バーバラについては、バーバラが欠場した2試合を除外して計算したものである(それを行う前の数値をかっこ内に示している。)。それ以外の*印つきの選手については、欠場セットがあることを考慮せずに計算している。

第4回Vリーグでは、外国人選手がオン・ザ・コート一人となったことで、各チームの外国人エースに重い負担がかかる例が目立ってきた。そのために、第3回まで高い決定率をあげていた選手でも、決定率を大幅に落とすことも出てきた。しかし、第3回と第4回の決定率の値を単純に比較するのでは不十分である。日本人有力選手の引退、外国人選手がオン・ザ・コート一人となったことによる外国人選手の退団があり、レシーブのよいチームのVリーグ加入もあり、リーグ全体として決定率の水準は大きく下がっている(第3回41.76%→第4回39.14%)。

同じ選手でも、ほかに決定力のある選手が多くいるチームに入れば決定率は上がり、逆に決定力のある選手がいないチームに入れば決定率は下がってしまう。これを考慮するために、決定率差・寄与度も併せて比較することにする。
表1・表2から、共通する選手のデータを抜き出す。第4回のイエリッチのデータは、2試合欠場を補正済みのものである。

表3.第3回・第4回の成績比較
選手 大会 アタック成績 負担 決定力差
打数 得点 得権 決定数 決定率 出場1試合
あたり打数
決定数
依存度
チーム
決定率
他選手
決定率
決定率差 寄与度
チューリナ
(バトフチナ)
第3回 991 178 288 466 47.02 55.1 27.4(31.9) 46.67 46.54 +0.48 +0.13
第4回 1226 187 317 504 41.11 58.4 30.2 42.13 42.59 -1.48 -0.46
アルタモノワ 第3回 1265 189 447 636 50.28 60.2 43.1 45.48 42.42 +7.86 +3.06
第4回 1712 253 473 726 42.41 81.5 50.5 39.42 36.79 +5.62 +2.63
イエリッチ 第3回 1632 280 499 779 47.73 77.7 51.5 43.69 40.10 +7.63 +3.59
第4回 1988 305 626 931 46.83 104.6 63.9
(60.5)
41.77
(40.68)
35.05
(33.87)
+11.78
(+12.96)
+6.72
(+6.81)

  1. 疲労がたまる
  2. マークが厳しくなる
  3. チームに他に優れた選手がいない
ことがどれだけ決定率を下げることになるかを、表3から見ることができる。

アルタモノワ・チューリナとも、決定率を大幅に落としただけでなく決定率差も下がっている(ただしアルタモノワは、第3レグは、第3回の自身の数値は上回る決定率差をマークした。)。アルタモノワは、本数で見ても依存度で見ても大幅に負担が大きくなっているけれども、チューリナは数字で見る限り負担はほとんど変わっていない。しかし、第3回のNECには、準エースの打数で55%という驚異的な決定率のティーシェンコがいた。この選手がいなくなったことで、必然的にチューリナにマークが集中し、それがこれだけの決定率のダウンとなって現れたものだろう。つまり、チューリナの場合上にあげた2と3が重なっており、アルタモノワの場合は1〜3が全て複合していると考えられる。

打数・決定数が極端に多いことは、上にあげた1〜3全てを意味する。これらのうち3については、下の図1を見れば一目瞭然であろう。決定数依存度と、エースと他選手との決定力の差を表す決定率差には、明白な正の相関関係がある。

図1.依存度と決定率差
依存度と決定率差

この当たり前とも思われる議論に対する最大の例外が、ほかならぬバーバラである。負担は第3回に比べても大幅に重くなっているにもかかわらず、決定率は1ポイント以内の低下にとどまっている。しかも、決定率差でみれば大幅に上がっている。第3回に比べ第4回は全体の決定率も2.6ポイントほど下がっており、そのことを考慮すれば、実質的には決定率も上昇しているとみなすことができる。

このページの本題からは外れるけれども、第4回の日本人エースの数値は惨憺たるものである。現在の全日本女子監督の葛和氏は、センターの人材不足を嘆く一方で、サイドアタッカーについてはそれほど不安視していないようだった。しかし、この数字を見る限り、エースについても悲観的にならざるをえない。
世界で通用するという一つのめどとして、Vリーグ全体の平均決定率は妥当な線だと思う。第3回には、日本人選手でリーグ平均(41.76%)を上回るないしこれに近い決定率で、しかもチームで最も打数の多いエースとして活躍していた選手が何人もいた。しかし、第4回にはリーグ平均(39.14%)に到達している日本人エースはほとんどいない。佐々木にしても、「日本の大砲」と言うにはお粗末と言わざるを得ない。ダイエーには他にも優れた選手がそろっていることも考慮すれば、最低4割ほしいところである。他の選手はそのラインにはるか遠く届かない。日本人選手では、表中にはないが、大懸の43.37%(399/920)は完全に突出している。しかしこれも、チームで最も打数の多い選手ではないこととNECという環境に恵まれたことを考えれば、額面通りには受け取れない。

しかし、アルタモノワ・チューリナでさえ4割を少し超えた程度の決定率しか出ていないことを考えれば、日本人選手の決定率も力の差からして妥当なところかもしれない。そう考えれば、逆に、バーバラとガビーの決定力がいかに飛び抜けているかということである。しかも、バーバラは通常のエースの倍、ガビーも3割増しの打数で決定率も群を抜くのだから、価値はさらに高い。この両選手の決定率は、第3回以前で言えば50%以上に相当する価値がある。

もう一つ、本論からは脇道にそれるけれども、Vリーグの規定打数(1試合当たり20本のようである)は少なすぎると思う。これでは打数の多いエースアタッカーにはあまりにも不利である。ここまで述べてきたとおり、打数にして2倍も3倍も違う選手の決定率を単純に比較することはナンセンスである。それでは表彰の意味が失われてしまう。
規定打数を多くすることによって、エースアタッカーまたはそれに近い働きをしている選手だけが残る。事実、ワールドカップ95の集計では、規定打数はチーム総打数の15%となっている。この基準を今回のVリーグ女子に適用すると、チームによって異なるが1試合当たり26本〜30本となる。ナショナルチームでは、一人のエースに頼る割合(= 最多打数選手の打数 / チーム総打数)は今季のVリーグに比べ低い。20%台後半が普通で、世界大会レベルで現在間違いなく最悪のクロアチアでも41%である。規定打数を多くするのは、重い負担のかかっているエースに対する不公平をなくすためだから、Vリーグではもっと多くしてもよい。1試合あたりの打数30本以上の選手に限定して決定率ランキングを作ると、表4のようになる。

表4.決定率ランキング(1試合当たり打数30本以上の選手)
順位 第3回 第4回
選手 成績 選手 成績
1位 エリザベータ・ティーシェンコ 55.16%(417/756) ガブリエラ・ペレス 48.47%(664/1370)
2位 エフゲーニャ・アルタモノワ 50.28%(636/1265) バーバラ・イエリッチ 46.83%(931/1988)
3位 バーバラ・イエリッチ 47.72%(779/1632) 小野恭子*3 46.35%(290/630)
4位 エレーナ・バトフチナ(現姓チューリナ) 47.01%(466/991) 大懸郁久美 43.37%(399/920)
5位 山内美加 42.25%(417/987) エフゲーニャ・アルタモノワ 42.41%(726/1712)
6位 斎藤真由美 41.91%(518/1236)
*3 この選手は打数が1試合あたり30本ちょうどの630本。線引きも難しいものがある。

これなら、アタッカーのランキングとしてより納得のいくものになったと感じられる人が多いだろう。

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