個人タイトル

猛打賞は、やはりバーバラのものである。結局2位のアルタモノワとは、200本の大差がついた。一時はアルタモノワにとられると思った得点王のほうも、東芝戦での総得点45(!)という荒稼ぎ、そして最後の3連戦でいずれも20点以上の得点をマークし、結局はアルタモノワにこちらも50点以上の差をつけた。
1シーズン決定本数931本は、昨シーズンにバーバラ自身がマークした779本を大きく超える断然の新記録である。これを世界選手権予選のために2試合欠場があって達成したのだから、驚異を通り越し気の遠くなるようなことである。21試合フル出場していれば、1000本を超えた可能性が非常に高いことになる。これは普通のエースアタッカーの倍以上である。女子で決定本数500本(1試合あたり24本)以上の選手は、第3回は3人、第4回は4人しかいない。多い方から一番は当然バーバラ、次がエフゲーニャ・アルタモノワ、これは2年連続である。第3回では斎藤真由美、第4回ではガブリエラ・ペレスとエレーナ・チューリナがこのラインを超えただけである。バーバラの登場以前は、21試合で500本台で猛打賞がとれたのである。これまでのシーズン最多決定本数記録は、男女とも1セットあたり10本にすぎなかった。(男子: 張翔、第2回Vリーグ、841本/84セット 女子: バーバラ・イエリッチ、第3回Vリーグ、779本/77セット)*1
*1 日本リーグ時代には、試合数が現在より少ない総当たり2回戦の14試合の時期があった(第21回(87年度)〜27回(93年度))。それを考慮すれば、男子については第25回日本リーグの中垣内(620本)のほうが実質的には多い。女子はこの時期を考慮してもVリーグ第4回、第3回のバーバラが最多記録の1位、2位であることは動かない。

そして男子では住金のイリア・サベリエフがバーバラとほぼ同じペースで突っ走った。しかも決定率も10位前後、サーブ効果率は4位と、この奮闘ぶりはバーバラにそのまま重なるものがある。イリアとバーバラは男女Vリーグのアタック決定本数トップ・得点王であり、しかも、ブロックによる得点が非常に少なくアタックによる得点がほとんどであることも共通している。つまり、住金とデンソーは非常によく似たチームということでもある。

サーブ効果率は2年連続で2位、今年もエース二冠*2を逃した。最後の3試合、サーブ得点が少なかったので、今年も無理だろうと観念したけれども、果たしてその通りだった。
バーバラは、第1回Vリーグに比べ、第3回Vリーグでは大きくサーブ効果率を落としている。そして今回も、リーグ全体としてサーブレシーブ成功率が大きく下がっている(サーブ効果率は上がっている)にもかかわらず、効果率は前回とほぼ同じくらいである。
「前でも打って、後ろでも打って、そしてサーブも打って(スパイクサーブのこと)いたら、体力がもたない」というインタビューを読んだことがある。とにかくバーバラの場合、前でも後ろでも打つ本数が尋常ではない。バーバラの打数を1セットあたりになおしてみると、第1回19.1本→第3回21.2本→第4回28.4本と、異常なペースで増えている。つまり、アタックの負担が重くなっていることにより、サーブを強く打てなくなっているのではないか。アタックが1セットで28本、これでサーブも強く打てとは、いくらバーバラでも無茶な話である。
バーバラは最後の3連戦で1%サーブ効果率を落とした。この3連戦で、バーバラの打った本数はなんと363本(うち184本決定、決定率50.69%)。この過負荷がサーブに悪影響を及ぼしたことは、ほぼ間違いないだろう。
もう一つサーブ効果率を下げている要因としては、受ける側が慣れてきたことがあるだろう。バーバラがVリーグ初年度に近年まれにみる高い効果率を上げたのは、バーバラが打つようなサーブを受けたことがある選手がほとんどいなかったことが大きな要因であると考えられる。これは、90年代最高のサーブ得点率を残した大貫選手にも言えることで、これは彼女が入社した最初のシーズンに記録したものである。当時日本人選手の中で、彼女が打つようなサーブを打つ選手は他になく、彼女のようなサーブを受けた選手もほとんどいなかったのだろう。逆に、現在では、そのような要因がなければ、9本に1本がサービスエースなどということはほぼ考えられなくなっている。
*2 猛打賞とサーブ賞を同時に獲得することを、このように呼ぶことにする。

一人の選手が4つある攻撃系部門別タイトル(スパイク賞、猛打賞、ブロック賞、サーブ賞)のうち二つを同時に獲得することはしばしばあるけれども、この4つのタイトルのうち、明らかにくっつきやすい組み合わせが二つある。一つはスパイク賞とブロック賞の組み合わせで、これは強力な攻撃力を持つセンタープレイヤーに多い。男子では、オレーク・シャトーノフ選手(JT)が第2回・第3回Vリーグと続けてこの二冠に輝いている。女子でも古い時代にはこの例は多い。もう一つが猛打賞とサーブ賞の組み合わせで、エースアタッカーがとれるタイトル二つの組である。最近では、男子では第3回Vリーグでアンドレ・フェレイラ選手(NECHE)が、女子では第1回Vリーグでバーバラ自身がこれを達成している。

センタープレイヤー二冠はチームの上位進出と密接に関係あるのに対し、エースアタッカー二冠は上位チームからはむしろ出にくい。特に、スパイク賞とチームの上位進出との相関は非常に強い。スパイク賞はほとんど3位以上のチームから出ており、その例外は男女とも1,2回しかない。今回の男子で、7位の東レの小林がスパイク賞を獲得したのは非常に珍しい例である。ブロック賞もスパイク賞ほどではないけれども上位進出との相関がある。一方、猛打賞は、特にVリーグになって以降は下位チームから出ることが多い。Vリーグになって4シーズンのべ8人の猛打賞のうち、4強から出たのは2例のみ、最終結果で優勝・準優勝のチームからは出ていない。一人のエースに頼りきりになっているようでは、その選手がよほど飛び抜けた力がない限り、上位進出は難しいからである。

たとえ大きなタイトルが何一つなくとも、チームが上位進出できなくても、個人成績で世界一のパワーと耐久力を実証すること、これはファンとしてもまさに誇りとするところである。しかし、日本人選手がもっと踏んばってバーバラをサポートしてやらないことには、その個人タイトルさえ難しくなる。決定本数でも、一時期ストレート負けが続き、アルタモノワとほとんど同じペースになったことがある。総得点は、残り5試合の時点でアルタモノワのほうが多かった。

悔しいのはスパイク賞(アタック決定率)の部門である。1位の選手とは約4パーセントの差で3位である。何が悔しいかというと、規定打数(この賞の対象となる最低の打数をこのように呼ぶことにする)が少なすぎることである。規定打数は、私の見たところ出場1セットあたり6本に設定されているようである。しかしこれでは打つ本数の多いエースアタッカーにとっては明らかに不利である。私はこれを1試合あたり30本程度に引き上げることを提案したい。私はあくまでバーバラの熱烈ファンだが、これは別にバーバラにタイトルを取らせたいからではなく、1試合あたり27本打って14本決めたというのと、1試合あたり65本打って31本決めたというのでは、内容的に後者*3のほうが上であることは誰もが認めるところだろう。
*3 これはバーバラではなくガビーである。

第4回Vリーグ、デンソーのチーム自体は5位、わずかのところでプレーオフ進出を逃した。しかし、今シーズンのバーバラの個人データを見れば、バーバラの攻撃力は世界一である、ということは誰もが認めるしかないだろう。

詳しいデータは数値検証のページに記すが、今シーズンのバーバラは、チーム全体の決定本数の6割以上を一人で決めている。チームの日本人選手の決定率は33.9%にすぎない(バーバラの欠場した試合を除くと35.0%)。それも、バーバラがマークを全部引きつけているのにこのありさまである。考えられるおよそ最悪の条件の中で、バーバラは46.8%(3位)の決定率を残している。第1レグだけでは49.1%(チームの他選手の決定率は36.9%)。今シーズンのスパイク賞選手の決定率は、50.5%。もう少し日本人選手が頑張ってアタックを決め、バーバラの負担を軽くしてやれば、本当に手が届きそうである。そうなれば、攻撃系三冠(アタック決定率、アタック決定本数、サーブ効果率)すら夢ではない。


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