89題 「就職差別」考

 

福岡安則「帰属意識二重化の可能性」(藤原書店『歴史のなかの「在日」』2005年3月所収)とういう論考のなかに、在日の就職活動において履歴書の本籍欄に日本の県名を書くと書類選考が通り、「韓国」と書くとはねられて面接に至らなかったという就職差別の実例なるものが挙げられている(360〜361頁)。こういった事例はよく聞くことであり、それだけを取り上げた話を聞けば悪質な民族差別と考える人も多いだろう。

ここでかつて私の身近にあったことを話したい。ある事業所に韓国の留学生がアルバイトを申し込んできた。履歴書の本籍欄には「韓国」とある。

採用を担当する事務職員は外国人の雇用申し込みが初めてであり不安になった。留学生を雇用する時に何か特別の手続きが必要なのかどうかという知識が全くない。それに留学生と言っているが、もし不法就労なんかであったらどうしよう。問題が起これば採用した自分に責任がかかってくる。合法的な人かそうでないかをどのように判断したらいいのか分からないので、履歴書を返したい。しかしそれをやって差別問題化してしまうと、これも自分の責任となる。彼はこんなことを考えて困ってしまったのである。

私はそれを聞いて、入国管理局が発行する資格外活動の許可があれば問題ない、あとは日本人の学生アルバイトと同じ扱いで採用事務すればいい、ただし週28時間、夏休みなどは1日8時間までの労働しかできないこと等を教えてあげた。しばらくすると、彼の方から「労働していいという書類を持ってきたので、安心して採用できた」と礼を言って来られた。

このようなエピソードであった。おそらく大方の会社・事業所の人事担当者は彼と同様であろう。差別心があるのではなく、外国人採用の手続きや労働できる外国人かどうかの区別の仕方といった知識を知らないだけである。逆に言うと日本で労働しようとする外国人には、このような雇用者側の事情を分かってもらいたいものと思う。

また在日朝鮮人はいくら生まれ育ちが日本で、日本語しか知らず、日本人の友達しかいないといった事情があっても、やはり外国人である。そして日本人にとっては、在日も不法滞在者などと同じ外国人であり、外国人登録証を見せられても区別できるほどの知識を持つ者は非常に少ないという事情がある。雇用者側にとっては、日本人と全く変わらない在日でも外国人である限り採用していいのかどうか不安になるのである。

就職しようとする外国人(在日朝鮮人も含めて)にはこういった事情を理解してほしいし、その上で自分が日本で労働する権利を持っていることを積極的にアピールしてほしいものと思う。

 

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(参考)

第61題 在日朝鮮人の就職状況