パンフレット

00/11/15

 室内は芸術の避難場所であり、この室内の真の居住者は蒐集家である。彼はものの美しき変容を自らの仕事とする。彼には、物を所有することによって物から商品としての性格を拭い取るというシジフォスの永久に続く仕事が課せられている。しかし、彼が物に与えるのは、使用価値ではなく、骨董価値だけである。蒐集家が夢想するのは、異郷の世界や過去の世界ばかりでなく、同時に、よりよき世界である。人間に必要なものは今の日常生活の場所と同様に与えられるわけではないが、物が有用性の苦役を免れているようなよりよき世界である。

(ヴァルター・ベンヤミン 「パサージュ論 I パリの原風景」より)

 高校1年のころから、パンフレット蒐集にあけくれている。家族の協力のおかげで、今では600冊を越えてしまった。主に、映画館で購入するのだが、上映が終わってしまった場合なかなか手に入らない。

 そこで、よく古本屋に出かけていく。

 古本屋ではパンフレットを置いている店が多数あり、値段も原価より大幅に安いことが多い。しかし、中にはプレミアが付いて高価なものもあり、どの映画が価値があるのかの指標にもなる。

 パンフレットの魅力は、何と言っても資料的価値である。私自身はプレミア的なものに価値を置かない。

 当時、どのような形で広告を行っていたか、どんな俳優が出演し、監督はどんなことを語っていたか、そして当時の評論家がどのように評論したかが、その映画について、他のどんな映画関連の資料よりも詳しく掲載されている。一部の古本屋ではチラシも同様に売っているが、私がチラシを買わない理由はそこにある。

 しかし、実際、パンフレットの探し方にはこれといった工夫もなく、ただひたすら古本屋でどっさり積まれたパンフレットを一つ一つ点検するしかない。LPレコードの蒐集をしている私の友人も同様のことをしていたので、面白かった。しかし、怖いもので、この地道な作業を続けていくと、どれが価値があり、どれが価値がないか、一瞬でわかるようになる。自分がどんどんマニアに陥っていくのを確信する瞬間である。

 値段は相対的に関西の方が関東より安い。都会より田舎の方が安い。50円(この値段で「バリー・リンドン」のパンフを手に入れた時は嬉しかった)を底値に、高いものでは7000円!(「他人の顔」、さすがの私も手を出せなかった。)。原価は古いもので300円、最近では500〜800円ぐらいが相場である(「五条霊戦記」は、つまらないCD-ROMを付けて1000円で売っていた)。

 映画評論でも例えば、「アンダーグラウンド」「霧の中の風景」では、淀川長治氏や蓮見重彦氏の評論が読めたり、監督のロングインタビューが掲載されたりと、面白いものが多い。パンフレットを作っている映画配給会社や映画館の人達の努力に感謝。一方で、最近は「M:I-2」「マトリックス」など、大きいだけで、内容は写真ばかりのチープなものも少なくない。こればっかりは買ってみないと分からないので、バクチである(古本屋でも御丁寧にビニールがかけてあるので中身が見られない(;_;))。それにしても、このような大判のパンフレットは今後やめてほしい。パンフレットを蒐集しても、サイズの違いで美しくないし、一冊だけでもジャマである。

 と、つらつらとマニアックなことを書いてしまったが、パンフレットの醍醐味が少しでも伝われば幸いである。最後にお願いだが、

要らなくなったパンフレットは廃品回収に捨てるのではなく、古本屋に売るようにしてほしい。

 ちなみに、パンフレットやチラシのことについては、「チラシを買うならここだ」が大変詳しいので、オススメである。

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