第6回 オールモルト(?)の濃色ビール
1.オールモルトとは何か?

 これまで少ないながらもビール作りの経験を積んできて、解決したい問題に行き当たった。出来上がったビールの、サイダーのような味と香りである。受け取りようによってはフルーティな香味といえないこともないのだが、私の好みではない。いろいろ読んだところでは、砂糖を使うとこういう味や香りが出やすく、これを避けるためにはオールモルト、つまり砂糖その他の糖類を使わずにモルトだけで造ればよい、という。
 しかし、オールモルトには問題が多い。まず、原価が高くなってしまう。モルト缶を二倍使うわけだから、原価は約二倍である。さらに市販のモルト缶は砂糖で増量した場合にちょうどよい味になるように調整されているので、そのままオールモルトにすると苦みが強すぎるビールになりやすいという。これを避けるためには、ホップ無添加のモルトエキスを使えばいいらしいのだが、これがなかなか手に入らない。通信販売では売っているが、高い。何かいい方法がないものか。
 ここで、はたと気がついた。要するに、麦芽糖のみで造ればいいわけだ。それなら、水あめを使えばどうか。水あめは麦芽糖である。原料が何か分からないし、無色透明に精製されているので、麦芽の香味はないかもしれないが、モルトエキスといえないこともない。だからオールモルトのに近い味が出せるかもしれないし、少なくともサイダー風の香味が出るのは避けられるのではないか。
 さっそくスーパーへ行ってみると、水あめは265グラム入りパックが178円で売られていた。砂糖よりは高いが、モルトエキスよりはずっと安い。糖分は80%というところらしいから、モルト缶と同じである。水あめを使ったビールを、オールモルトビールと呼んでいいかどうか、私には分かりかねる。しかしモルト缶に追加されたのが麦芽糖であり、他の糖類が添加されていないの間違いない。
 やや心配なのは、水あめの発酵速度である。精製のしすぎや、何か添加されているために、発酵しにくいということはないのだろうか。そこは実験してみるしかない。水あめを小さじに2杯分ほどグラスに入れ、お湯で溶いてから水を加え、ホップエキスを2滴ほどたらし、そこにビール酵母を振りかけてかき混ぜる。やがて発酵が始まったが、発酵のスピードは遅い。別のグラスで同じことを製菓用イーストで試したところ、すぐにさかんに発酵を始めた。さて、どうしたものか。
 こんな時は専門家に尋ねるに限る、というわけで、手造りビールと緑の森の贈り物のフォーラムで質問したところ、高橋さんが答えてくれた。「♪私は造ったことはないのですが、調べてみました。水飴を砂糖代わりに使うのは十分可能です。」とのこと。安心して仕込みに入ることにする。

2.仕込みと第1次発酵

 今回のもう一つのポイントは、初めて作る濃色ビールということである。使うのはBLACKROCKのBOCK、8リットル用(550グラム)である。モルトエキスは、予想以上に黒く、苦い。水あめは実験に使った残りと、さらに新しいものを1パック、合計で450グラムほどだろう。BOCKであるからにはある程度のアルコール度が欲しいので、6リットルで仕込むことにする。計算によれば、これでアルコール度数が5%になるはずである。酵母はモルトについていたものを予備発酵させて使った。午後8時に仕込み完了、翌朝にはもう、液面に泡が立っていた。(1998.9.5)

3.瓶詰めと第2次発酵

 5日目、すでに液面の泡は消えた。ドレンコックから少量取って飲んでみると、ほどよい黒ビールの味がする。ボックやスタウトというよりは、日本製黒ビールのような感じである。濃色ビール特有の甘みは感じるものの、未発酵の糖分からくる甘ったるさのようなものは感じない(と思う)。発酵完了とみなし、瓶詰めすることにした。少し早過ぎるという感がなくもない。しかしこれまでの経験から、酵母の量が多い方が私の好みの味に近いということと、その方が二次発酵も早く進む(ということは、早く飲める(^^;)だろうという計算がある。
 例によってGrolschの瓶に詰めていく。プライミングシュガーは3g。10本目まではそのまま、以後は容器を傾けて、全部で12本取れた。2次発酵開始である。(1998.9.9)

4.試飲

 瓶詰めから5日目、試飲をする。泡立ちはまあまあといったところ。まだ砂糖の甘みが残っているようだが、コクがあり、香りもまずまず。5日目のこの状態でも、国産メーカーの黒ビールに十分太刀打ちできる。試しに、不遜にもBASS PALE ALEと飲み比べてみる。さすがにBASS PALE ALEはスムーズでバランスがいい。しかし味そのものは決して負けていない。大成功の予感のする試飲であった。(1998.9.14)

 瓶詰めから2週間ちょっと。2回目の試飲をする。はっきり言って、おいしくない。酸味が強く、コクがないのである。1回目の試飲の時は、おいしいと思ったのだが。第3回に書いた事情で、こちらの舌が変わったのか、それとも何か変化が起きたのか。砂糖を入れたときと同じサイダー風味が強くなってきたのも気になる点である。水あめを使った効果はないのか。もう少し様子を見る必要がありそうだ。(1998.9.25)

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