第3回 ビール造り、いよいよ本番。
1.ビール造りの準備

 ビールの試作は、いちおう成功。そこで、本格的なビール造りを始めることにする。
 使うのは東急ハンズで14500円で購入したビール造りのキット、オーストラリア製の"WANDER HOME BREWERY"である。このキットについては古谷三敏のマンガ「レモンハート」にも紹介されているが、22リットルの発酵タンクを中心に、比重計、メスシリンダー、液温計、フィラー、エアーロック、撹拌用の大型スプーン、シュガーメジャー、打栓器、消毒剤、洗剤、モルト缶(Lager)とイーストがセットになっている。ただし打栓器は木槌で叩くタイプなので、使いにくそう。私の場合はGrolschの瓶を使うので、問題ないのだが。液温計はシール型だが、14度から32度まで目盛りがついている。消毒剤は、水に溶かすと亜硫酸ガスを発生する粉末である。必要なものは一通り揃っており、値段も高くはない。ただし、普通のビール瓶を使う人は、別に締め付け式の打栓器を買うことになるだろう。また、発酵容器の蓋やドレンコックの取り付け穴などのネジ山の精度はいまいちのような気がした。私はドレンコックの取り付けにだいぶ苦労した。そのために発酵容器の内面に少し手を触れてしまうことになってしまったのが、やや不安材料である。

2.仕込みと第1次発酵

 キットにはマニュアルがついていたが、今回は一部、これとは違う方法を採った。まず、マニュアルでは発酵容器に熱湯を入れ、そこに湯煎したモルト缶の中身を直接入れることになっていたが、私は鍋で40分ほど煮込み、さらにチェコ製のザーツホップでフレイバーを付けることにした。また、液量は22リットルにするよう書かれていたが、計算してみるとこれではアルコール分が4%ちょうどくらいにしかならないので、少し減らして20.5リットルくらいにしておいた。これでアルコール分は0.3%ほど高めになるはずである。
 モルトは付属のもの(1700g)をそのまま使った。水は、知人宅の簡易水道の水。飲むには大変美味しい水である。これにグラニュー糖を1000g加える。煮込んだウォートに水を加えた時点で、液温は28度。比重は1.040と、予想より少々低めである。付属の蓋で密封し、エアーロックにステアライザー液を入れて取り付ける。仕込んだのは夜の7時頃だったが、寝る頃にはエアーロック内の液が動き始め、翌朝にはもう活発に気泡が出るようになっていた。何しろ真夏である。液温は夜間が27度、昼間が30度といったところ。本来なら温度調整をすべきだろうが、マニュアルに32度までは大丈夫と書かれてあるのを信用して、今回は省略した。
 3日後の朝には、すっかり発酵がおさまっていた。早すぎる気もするが、比重を計ってみると1.005。もう発酵終了である。しかしまだかなりの酵母が沈殿せずに残っているようなので、瓶詰めは4日目にすることにする。

3.瓶詰めと第2次発酵

 翌朝、比重を計ってみると1.0045というところ。さっそく瓶詰めにかかることにする。使う瓶は、Grolschの空瓶。消毒用アルコールを中に入れて数回振って内部を滅菌、ついで消毒用アルコールを瓶の口と栓に噴霧して滅菌する。プライミングシュガーは3g。Grolschの瓶は475ml入りだからやや多めだが、泡立ちを良くしたいのと、3gのスティックシュガーから2.5gだけ入れるというのが面倒なので、こうすることにした。フィラーのおかげで、瓶詰めはスムーズに進む。43本でいちおう詰め終わったが、発酵容器を傾けるとさらに2本分取れた。合計45本、最後の2本は酵母たっぷりの濁りビールである。そのあと段ボール箱に詰めて物置に入れ、熟成開始。もっとも数日後には試飲するつもりだが。(1998.8.16)

4.試飲

 瓶詰めから3日後、試飲してみた。瓶詰めがやや早かったのか、かなりの量の酵母が底に沈んでいる。プライミングシュガーが多いせいか、蓋を開けると勢い良く炭酸が吹き出した。色はやや濃いめ。泡立ちはまあまあ。味はやはり酸味がやや強く、サイダーのような香りがする。まだ飲み頃でないようだ(当たり前か)。(1998.8.19)

 瓶詰めから1ヶ月。試飲ではなく、当面のメインのビールとして消費を開始。やはりやや酸味が強く、サイダー臭はある。しかしそれ以上にホップの良い香りがして、十分楽しめる。ただし、やはり砂糖をたくさん使ったせいか、コクは弱い。市販ビールでいえば、黒ラベルよりはうまいが、ヱビスには負ける、といったところである。
 飲みはじめて1週間。たまたま外でビールを飲んで、ビールの味に対する感覚が変わっているのに気がついて驚いた。ビールの中に溶け合っているホップの味とモルトの味を明確に区別できるようになったのである。たとえば、黒ラベルはモルトの上品な味は感じるがホップの香りは弱い、ヱビスはホップの香りが鮮烈でこれをモルトの味が支えている、五穀丸ごと生にはモルトの味がなくただの糖類の甘みしかないが、ホップの香りはする、など。おそらく初心者の造ったビールは味のバランスが悪く、ホップとモルトの味が溶け合わないために、かえってホップの味とモルトの味を区別する訓練になったのではないか。良いビールとよくないビールの区別をつける自信がついてきた。(1998.9.17)

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