ゲームパイプライン(10)

遅れてきた名作

〜ドルアーガの塔
 このページに移ってから4回目となるこの不定期連載ですが、『ドラクエ』の原稿はも
ともと「ウォーロック」に載せる予定だった古いもの。『パワプロ』のほうも、じつは同
人誌に載せるために去年の今頃書いたもの。
 ということで、このページ用に「パイプライン」書くのは、これが初めてというわけな
のです。
 実質第1回目、しかも通算10回記念ということで、何を題材にしようか、けっこう迷い
ました。が、ここは、『ナムコミュージアム3』が発売されたことですし、ちょっと異色
の名作ゲームをとりあげてみることにします。
 そう、『ドルアーガの塔』です。
 『ドルアーガの塔』は1986年発売。戦士ギルガメス(通称ギル)が、巫女カイを救い、
秘宝ブルークリスタルロッドを取り戻すため、悪魔ドルアーガの棲む塔に足を踏み入れま
す。塔は60階建てで、各階は8×8の計64ブロックで構成されています。塔の中には様々
な怪物が潜んでいます。スライム、ナイト、ゴブリン、バンパイア、etc. ギルが敵を倒
すたびに経験値が加算され、経験値が10入るごとに戦闘力が1上がります。また、ギルは
呪文を唱えることで、魔法を使うことができ、・・・え、なに?
 やだなあ、誰も、「『ナムコミュージアム3』に収録された『ドルアーガの塔』をとり
あげる」なんて言ってないっすよ(爆)。今回とりあげるのは、その『ドルアーガの塔』
(1984/ナムコ/アーケード・ファミコン・パソコン・ゲームボーイ・プレイステーショ
ン)をもとに作られた、ゲームブック版のほうです(さらに爆)。
 原作のほうは、あの鬼才・遠藤雅伸氏が、「マニアものなら俺にまかせろ!((C)開運な
んでも鑑定団)」ぶりをいかんなく発揮した、いまなお賛否両論さまざまある異色作です。
 ボタンで剣を振って怪物を倒し、迷宮の中に落ちている鍵を拾って、出口にたどり着け
ば1面(階)クリアという、一見単純なアクションゲームです。が、各階で隠しアイテム
の入った宝箱を取らないとクリア不可能、クリアどころか、持っていないとまともにゲー
ムができなくなる場合もあります(ないと敵が見えない、ないと迷路が見えない、etc.)。
しかも隠しアイテムというからには本当に隠しアイテムなわけで、ヒントも何もなしに出
せるわけがないような隠されかたをしています(迷宮上のある2地点を通る、ある1種類
の敵だけを全滅させる、数秒間静止する、etc.)。加えてアイテムの効果も、ゲームをプ
レイしているだけではわからず、取ると損するアイテムまであった日にゃ、よっぽどのマ
ニアででもないかぎりは、もー、
「チョベリバ、チョバチョブ、チョーMMって感じ?」
なのです。
 それでもこのゲームが、ゲーム界の歴史に名を残し、続編もいくつか出されるまでにな
ったのは、(当時のマニアが謎解きに楽しさを見出したというのもありますが、それ以上
に、)背景ストーリーに厚みがあったからといえます。
 「今とは別の時間、別の世界のお話です」から始まる、本格的なストーリー。
 まだストーリーゲームが一般的ではなかった時代に、『ドルアーガの塔』は、背景世界
を重視することで、ゲーム全体に独特の雰囲気をかもしだしました。『ゼビウス』で世界
設定をゲームに生かした、遠藤氏ならではの手法といえるでしょう。
 「救出」もののストーリーといえば、これ以前に『ドンキーコング』(任天堂、1981)
などがありました。ストーリーの基本線としては、『ドルアーガの塔』はさほど斬新なわ
けではありません。しかし『ドルアーガの塔』は、『ドンキーコング』と決定的に異なっ
ている点がありました。ループゲームでなかったことです。
 『ドンキーコング』の場合は、ループゲームだったため、1周クリアしても、またすぐ
レディーがコングにさらわれてしまいます。ストーリーがそこで完結しないのです。わた
しゃ助けたあとまた捕らえられるのが嫌で、1ループクリアした時点で電源を切っていた
ものでした。『ドルアーガの塔』は、ドルアーガを倒してカイを助ければ、晴れてハッピ
ーエンド。ストーリー重視の姿勢が表れています。
 またこのゲーム、背景世界がいわゆるファンタジー世界であることも見逃せません。登
場人物名は、古代メソポタミアの神話からとっていますが、味つけはファンタジー。当時
はファンタジーブームのはしりの頃で、ゲームブックでは『火吹山の魔法使い』(社会思
想社)。テーブルトークRPGでは『D&D』(新和、現在はメディアワークス)が翻訳
されたかされないかのころ。映画では『ネバーエンディングストーリー』が人気を集めま
した。その後、この『ドルアーガの塔』、そして『ゼルダの伝説』(任天堂)、『ドラゴ
ンクエスト』(エニックス)、『ロードス島戦記』(角川書店)で、ファンタジーブーム
はピークに達するのです。
 『ドルアーガの塔』は85年、ファミコンに移植され、さらに熱狂的なファンが増えまし
た。しかし、いかんせんゲーム自体が難しかったため、プレイヤーはおいそれとストーリ
ーを堪能するわけにもいきません。攻略本が出されたことで、謎のほうはなんとかなりま
した。しかしこのゲームはアクションも難しく(私もこないだPS版やって、全アイテム
リストがあったにもかかわらず、ドルアーガが倒せませんでした)、依然敷居の高いゲー
ムであることには変わりありません。
 やはりアクションゲーム、しかもアーケードで、ストーリーを表現しようというのは、
無理があったのかもしれません。なにしろ『ドラクエ』が世に出る以前。まだファミコン
ソフトの容量は乏しく、ストーリーゲームにはあまり適していませんでした。そこで、ス
トーリーを表現するのに適した、ゲームブックの登場と相成るわけです。
 『ドルアーガの塔』のゲームブック化に際して、作者の鈴木直人氏と、監修の古川尚美
氏(『ゼビウス』のゲームブックで高い評価を得、以後ちょっとしたアイドルとなる。ナ
ムコでは遠藤雅伸氏と同期だった)は、ゲームブックの持つ特長を存分に生かすために、
大幅なアレンジを加えました。
 まず迷宮です。文章で説明するよりも、ここに挙げたマップをご覧いただければ、その
多彩さがおわかりいただけるかと思います。

 4Fは、正統派の迷路パターン。「西は1ブロック先で南の道と交わり、さらに西へ続
いている。東は1ブロック先で南へ折れている。南は・・・」という文章をたよりに、マ
ッピングするわけです。
 7Fは、当時のテレビ番組「風雲たけし城」(TBS)に影響を受けたと思われますが、
こういう変則的な階も数多くありました。
 21Fは、原作にはなかった商店が立ち並んでいます。といっても冒険者相手に商売し
ているわけではありません。お客は塔の住人たち・・・マジシャンやナイト、ホブゴブリ
ンなどのモンスター。このゲームブックでは彼らも、塔の中で生活をしているのです。

 25Fは階のほぼ全体が、一つの部屋になっています。こういう階はかなりあり、闘技
場だったり、罠だったり、あるいは階全体がパズルになっていたりと、それぞれ趣向が凝
らされています。25Fは空飛ぶ船の船着き場。ギルが唯一塔の外に出られる階です。も
っとも、すんなり戻って来られるとは限りませんが・・・。
 40Fを越えると、迷宮はさらに複雑になってきます。とりわけすごいのが51F。斜
めの通路が出現するのは、後にも先にもこの階だけです。
 かと思えば58Fのように、パズル的な階も登場します。これはあとがきで鈴木氏自身
が、『ペンゴ』+『倉庫番』と表現した階。ほかにも魔方陣の穴埋めや、隠し絵など、あ
ちらこちらでパズルが重要な役割を占めるのです。
 鈴木氏は3巻のあとがきで、「正直な話、私は相当飽きっぽい性格なのだ。せっかく三
部作で始めたこのゲーム、三つとも別なゲームにしてしまったという結果が、それを証明
していると思う」と前置きしてから、各巻の迷宮の傾向を、以下のように解説しておられ
ます。

 これだけ各階が個性的ですから、飽きずに60階楽しめます。そして、個性的なのは、
迷宮だけではありません。
 登場人物も、実に多彩なのです。
 原作『ドルアーガの塔』では、登場人物といえばギルとカイ、そしてイシター。カイも
イシターも最後のほうにしか出てこないので、のちのRPGにあるような「登場人物の会
話」といった要素はありません。ギルの単独冒険行というわけです。
 一方ゲームブックのほうには、原作にはないオリジナルの登場人物が多数登場します。
とくに2巻は、『魔宮の勇者たち』というタイトルが示すとおり、ギルと同行者2人との
絡みが、物語のメインとなっています。

(3巻裏表紙のメスロン)

 28Fでギルが牢屋から出したのが、自称“盗賊王”のタウルス。彼の鍵開けの技術と、
その詐欺師のような機転には、ギルは何度も助けられます。
 34Fにいるのは魔術師メスロン。1巻からさんざん名前が出てきていたので、どんな
大魔法使いが出てくるかと思ったら、これがまあおっとりした口調の14、5歳くらいの
青年。ただし外見はどう見てもヘビメタ。普段は沈着冷静ですが、決して無感動なわけで
はありません。ギルと別行動をとっていた際、偶然ドルアーガの姿を見つけて逆上し、一
人で飛びかかってしまうあたりに、彼の感情的な側面が表れています。結局ドルアーガの
鎚矛(つちほこ)で頭を一撃され、記憶喪失に陥ってしまいます。
 その彼を救うのが、他ならぬギル(であるところのプレイヤー)。こういうシーンがあ
ったからでしょうか、メスロンの人気がなんだか急上昇。彼はカルト的なヒーローになっ
てしまいます。当時すでにゲームブックのブームは去っており、ファンも少なくなってい
ました。メスロンはゲームブックから生まれた、最後のヒーローだったのです。

メスロンを主人公にしたゲームブックも作られた

(『パンタクル』裏表紙より)

 彼ら以外にも、塔の中には魅力的なキャラクターが多数出てきます。東方の剣士クルス。
ドルアーガの魔術に操られていたところをギルに助けられたことから、その後再三ギルの
力になりますが・・・。怪我の手当てをしてくれるジプシーの娘。ドルアーガを復活させ
てしまったばっかりに、墓荒らしに身をやつしてしまったかつての皇帝。それから、この
ゲームブックの作者や編集者をモデルにしたキャラクターたち。ヒント集を売りつけるパ
オト、画家のアンフ、女剣士バルキリー・ナヲミ、そしてプリーストのタルカ・トウミ。
 モンスター側も個性的です。酔っ払って寝ているゴブリン。調理場で忙しく働くタコ男
フレイヤー。戦ってる最中にカギを落としてしまい、しょんぼり帰るホブゴブリン。人間
だった頃のことを思い出して、むせび泣く霧の精霊。金にも弱けりゃ酒にも弱い、門番の
サイ男リノマン。ドルアーガの腹心の部下、双頭のリザードマン、ゴルルグ。
 ドルアーガ自身も、単なる9本腕の化けものではありません。最初は、金髪の美しい青
年の姿で登場します。20階で初めてギルの前に姿を現した後、様々な姿に変身して、ギ
ルを罠にかけようと企むのです。
 こうした個性的な登場人物が活躍することで、ゲームブック『ドルアーガの塔』は、オ
リジナルを超えたストーリーを作り上げたのです。まさにこのゲームブックは、ブームが
去った後に生まれた、“遅れてきた名作”でした。

 さて、これだけの名作を産み出した、鈴木直人、古川尚美両氏ですが、現在はいったい
どこで何をしておられるのでしょうか?
 鈴木氏は『ドルアーガの塔』の成功の後、『スーパー・ブラックオニキス』(BPS)
のゲームブックを制作。その後も、メスロンを主人公とした、『パンタクル』『ティーン
ズパンタクル』を作り、ブーム去りし後のゲームブック界に、大きな功績を残しました。
しかし『パンタクル2』を最後に、ゲーム界から姿を消しました。
 古川氏は、『ドラゴンバスター』(ナムコ)のゲームブックを作りましたが、そのあと
がきで引退宣言。その後も講演活動などをされていたようですが、いつしかフェードアウ
ト。現在ナムコにおられるのかどうかも不明です。
 お二人は、今どこでどうしておられるのでしょうか? このページをお読みのかたで、
情報をお持ちのかた、メールください。
 このお二人がゲーム界に復帰されれば、今のゲーム界に、古くて新しい風が吹くのでは
ないか? そんな気がするのです。

 世の中には、すごいゲームがあるんですね。次回もどうぞ、お楽しみに!

『悪魔に魅せられし者』鈴木直人/1986/東京創元社/ゲームブック
『魔宮の勇者たち』鈴木直人/1986/東京創元社/ゲームブック
『魔界の滅亡』鈴木直人/1986/東京創元社/ゲームブック

参考資料:
『ウォーロック』1987年12月(第12号)「ドルアーガの塔・2景」近藤功司/社会思想社
『電脳遊技考』山下章著/1990/電波新聞社
『ザ・ベストゲーム』1991/新声社(月刊ゲーメスト増刊No.60)
『マイコンBASICマガジン』1996年8月号「Arcade Game Graffiti」/電波新聞社


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