〜実況パワフルプロ野球(コナミ)
堅い話になってしまいました。ひとつ例を挙げて解説しましょう。
『実況パワフルプロ野球』(コナミ)。九四年にスーパーファミコンでだされた
野球ゲームです。
スーパーファミコンの野球ゲームといえば、ファミコン時代からのビッグネーム
『ファミスタ』シリーズ(ナムコ)があります。そのため他の野球ゲームは、どう
しても『ファミスタ』の陰に隠れてしまいます。
とくに今はいろんなジャンルのゲームがあるだけに、一つのジャンルのゲームを
二本も三本も持っている人はあまりいません。競馬ゲームは『ダービースタリオン』
(アスキー)があれば十分であり(『ウイニングポスト』(光栄)でも可)、RP
Gは『ドラゴンクエスト』(エニックス)と『ファイナルファンタジー』(スクウ
ェア)があれば十分であり、三国志ものなら『三國志』(光栄)があれば十分なの
です。そして野球ゲームは『ファミスタ』があれば十分だったのです。
それだけに、ナムコ以外のメーカーがファミコンで野球ゲームを出せば、それが
どんな出来であっても、めでたく「クソゲー」軍団の一員となってしまっていまし
た。
『実況パワフルプロ野球』は、よくできたゲームです。
なんといっても特筆すべきは投打の操作方法です。投球のときは、まず十字キー
で球種を決め、それからコースを決めて投げます。投手によって球速や変化球の曲
がり具合が違うのはもちろん、投げられる球種も違ってきます。
打つ側は、カーソルを上下左右に動かして、飛んできた球にそれを合わせてバッ
トを振ります。ただし飛んできた球が変化球だった場合、カーソルもその球の変化
分、ずらさなくてはなりません。球が曲がりはじめてからあわててカーソルを動か
しても間に合わないので、球種を事前に予測することが必要になってきます。
こうしたシステムのおかげで、投手と打者との腹の探りあいという、いかにも野
球らしい要素を、色濃く出すことに成功しています。
しかしながら、これほどまでに個性的、かつ野球の雰囲気をうまく再現している
このゲームですら、『ファミスタ』の圧倒的な人気の前では、引き立て役にしかな
れないのです。
普通なら。
このゲームでは「実況」という、マスコミにアピールするための表面的な“売り”
を用意することで、『ファミスタ』からの脱却に、みごと成功しました。
「一回表、ブルーウェーブの攻撃は、一番、センター、イチロー。背番号、五一」
場内アナウンスに続いて、ABCの太田アナウンサーによる実況が入ります。
「ピッチャー、第一球、投げました。カーブ、真ん中低め、ストライク。ナイスボ
ール。第二球、投げました。打った! センター前、ヒット!」
実況、場内アナウンスあわせて、じつに多くの音声データが収められています。
プレイヤーはしばしば、「えっ、こんなセリフもあるの?」と、驚かされることで
しょう。
「入ったー! 満塁ホームラーン!」
「詰まった! 六、四、三、ダブルプレー!」
“ファールボールに、ご注意ください”
そしてコナミは宣伝においても、「実況」を前面に押し出しました。あえてシス
テム面の個性をあまりアピールせずに、そのぶん実況の要素を、強烈にアピールし
たのです。
ゲームシステムが優れているかどうかは、やってみなければわかりません。それ
よりもわかりやすい「実況」を前面に押し出したほうが、情報を得たユーザーの心
を動かすのです。
コナミには、X68000で『生中継68』、MSX2で『激突ペナントレース』
という、名作野球ゲームがあります。『実況パワフルプロ野球』を見てみますと、
投打のシステムや場内アナウンスは『生中継68』から受け継がれたものですし、
また展開のスピーディーさや、イニング終了時の画面などは、『激突ペナントレー
ス』をほうふつとさせます。いわばこのソフトは、過去のコナミ野球ゲームのいい
ところが組み合わせられた、同社の集大成的な野球ゲームです。
そこに「実況」という表面上の“売り”を加えることで『実況パワフルプロ野球』
は、万人に愛される「名作」になったといえるでしょう。
世の中には、すごいゲームがあるんですね。次回もどうぞ、お楽しみに!
『実況パワフルプロ野球』一九九四/コナミ/スーパーファミコン
『実況パワフルプロ野球2』一九九五/コナミ/スーパーファミコン