GREEN TEA TIME
イギリス万国樹木博覧会


セイヨウスオウ
(西洋蘇芳)

Judas Tree(Cercis siliquastrum)


今回は「裏切り者の木」?の紹介です。
日本名はセイヨウスオウですが、英語の名前は「ジューダス・ツリー」。
「ジューダス」とは、イエス・キリストの弟子の一人、ユダのことです。

レオナルド・ダ・ヴィンチの名画「最後の晩餐」は、
「この中に私を裏切った者がいる」というイエス・キリストの言葉に
弟子たちが戸惑いざわめく様子を描いていますが、
キリストは、自分をローマの総督に密かに売ったユダのことを言ったのでした。

最後の晩餐のあと間もなく、キリストは十字架に架けられ処刑されましたが、
3日後に復活したと、聖書は書いています。

お師匠さんを敵方に売り飛ばしたことを後悔したユダがこの木で首を吊った
と伝えられることから、「ジューダス・ツリー(ユダの木)」という名前がついたそうですが、
一説によると、キリスト教の暦でイースター(キリストの死と復活)前後に
花を咲かせるからとも 言われています。


花の画像です

英語ではなんとも不名誉な名前をつけられたこの木ですが、
ごらんのとおりのピンク色の可愛い花を咲かせます。
マメ科の木なので、藤やスイートピーと似た形の花ですね。

しかも、木の幹や枝からも直接花が咲くという、ビックリな咲き方もしてくれます。
可愛らしいうえに、スゴイ技を持っている木ですねぇ。
秋にインゲン豆よりすこし小さ目の、ワインカラーの豆をたわわにつける姿もチャーミングです。


幹から直接咲いた花

実はこのセイヨウスオウ、イギリスでは日本のカツラとよく比較されるんです。
その理由は葉っぱの形。ごらんのように、よく似た葉っぱをつけます。
でも、違いがふたつあるんです:

その1:セイヨウスオウの葉っぱの縁はツルンとしているけど、
カツラの葉っぱの縁は小刻みに丸いギザギザになっている。

その2:セイヨウスオウの葉っぱは枝から互い違いについているけれど、
カツラの葉っぱは同じところから2枚の葉が対称的についている。


葉の画像です

ここをクリックしてカツラの葉と比べてみてくださいね!

セイヨウスオウはもともと、岩の多い乾いた場所を好みます。
聞くからに他の植物が生えたがらない場所ですよね。
地中に窒素などの養分も少ないに違いありません。
競合する木々が少ない場所でハッピーでいられるヒケツを持っているんです。

セイヨウスオウをはじめとするマメ科の植物は、
私たちを含めて地球上の生物に絶対必要な栄養素のひとつ − 窒素を
空気中から取ってしまうというウルトラCの技をもつ「窒素固定バクテリア」を
根にしたがえているのです。

大気の約80%を占める窒素は、二つの原子(N)がしっかり、がっちり
互いに手を取り合っている形(N)をしていますが、
植物も私たちも、大気中のNを直接食べて養分にすることはできません。

栄養分とするためには、まずはじめに、この仲良しこよしのN
引き離さなければなりませんが、 これが一苦労。
人間は、窒素を多く含む人工肥料をつくるために、
巨大な工場を作り、たくさんの燃料を燃やして大気中のNを分離させますが、
窒素固定バクテリアは、とっても小さいのに、そんな大仕事を軽くやっているんですねぇ。

そんな才能?に目をつけたのか、
マメ科の植物たちは自分たちの根に、窒素固定バクテリアを好きなように寄生させ、
土の裂け目に入り込んだ空気からバクテリアが固定した窒素を頂戴します。
そのかわりに、バクテリアは植物が葉っぱで光合成した炭水化物をいただきます。
お互いに、持ちつ持たれつの関係なんですねぇ。

多くの植物は、窒素固定バクテリアのような助っ人を持っていないので、
地中に溶けている窒素の化合物を根から吸収して、葉や茎など体をつくります。
人間を含めた動物たちは、そんな植物を食べたり、
また植物を食べる他の動物(草食動物)を食べて、
ようやく窒素や他の栄養分を吸収して、体(細胞)をつくり、生きることができるんですね。

荒れ地でもよく育つというマメ科ならではの元気な特徴を備えながら、
イギリスの庭園で鑑賞木としての地位も高いセイヨウスオウは、
日本でおなじみのハナズオウ(花蘇芳。中国原産)や アメリカハナズオウ(北米原産)の兄弟です。


(アジア西部・ヨーロッパ南東部原産)



(00/05/19)

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