アレルギーについて

東海支部 M053:丸谷 清


【[10VALVES:26578] アレルギー】より

MLからのメールを読んでいると気になることがありました。数年前に花粉症を発症した私、ピピッときました。

あれは、突然、襲ってきますね。私の周囲でも最近、増加傾向ありです。昔は、花粉症に限らず、アレルギーなんて一般には存在しなかったって話しは良く聞きます。
環境が変わってきているのか、ヒトの身体が変わってきているのか(恐ろしい!)、はたまた、その双方なのか、とっても気になります。

"岸本 K太"さん wrote:
> At 23:42 +0900 97.9.15, Kazuyuki Yamane wrote:
> > すいません、私、海老アレルギーでして。
> 会社にもエビカニが苦手な人がいます。
> 何でも気付かずに混ざっている場合もアレルギーが出るって言うので本物です。
アレルギーの本体が何か、とても気になりますね。エビカニの何から何まですべてということは、可能性が低いと思います。そのアレルギーを惹起する共通の抗原があるはずなので、それが特定できると治療の可能性もあるように思えます。

> > 「ヤマナカスーパーチェーン」の海老満月せんべいの食べ過ぎで
> > ジンマシン出てから、海老だめなんです。
> やっぱり花粉症のように、有る量を接種すると発生するのかな。
花粉症、食物アレルギーを問わず、発症に至るに必要な量的な閾値はあるようです。しかし、それよりも、その時の体調と、個人的な遺伝的バックグラウンドに依存します。
以下、ちょっと、辛気臭い話になりますが、ガマンしてね(^^)

アレルギーを起こすには、からだの中の免疫を担当する細胞(リンパ球、マクロファージなんかが主役でおます)が、特定の抗原構造に結合できる「触手」をもっていることが必須です。この触手(リセプターと言います)は当然、個々の抗原によってその形が違っており、Aという抗原構造にフィットするA’という触手を持っているかどうかは、個人の持って生まれた遺伝的背景によって決まるんです。言い換えると、山根さんは「エビカニ」抗原にピッタリとはまる触手を、生まれたときに既に遺伝子として持っていたわけです。でも、これだけではアレルギーは発症しない。遺伝子は、それが対応するたん白質(遺伝子産物、これが触手と考えてください)を合成しないことには機能しないんです。これを業界用語で遺伝子の活性化と言います。
そのためには、複数のきわめて偶発的要素の高いいくつかのイベントが必要で、そこに大きく関与するのが、抗原への暴露、体調および住環境の変化、と考えるのが妥当でしょう。

まぁ、それまで自分の身体がまったく反応しなかった物質に対して、突然に過敏な応答をする。
これは、物質そのものの構造は当然それまでと不変なわけで、やはり自身の身体の方に何らかのドラスティックな変化があったことになりますね。
基本的に、生物は高度に進化するほど、正常な状態を維持しようとする機能(恒常性、あるいはホメオスターシスって言います)が発達しています。したがって、ヒトなんかの場合、かなり強烈なトリガーが引かれない限り、突然のアレルギーにはならないわけです。体調不良に加えて、アレルギーの発症を助ける何らかの要因が不可欠といわれています。
その要因の一つに、抗原と結合して免疫担当細胞に認識されやすくする物質の存在があります。一般に、水酸化アルミニウムゲル、雲母(鉱物の)、それにDEP(ディーゼルエンジンの排気煙中に含まれる微粒子)等が有名です。これらは、いわばオールマイティのアジュバント効果を発揮するので、要注意です。大型トラックの通行量の多い国道に隣接する杉林、こういったエリアに居住する人に花粉症患者が極めて多い、って報道を聞かれた方も居られるのではないでしょうか?

あと、最近、生体側の要因の一つとして、寄生虫との関連も取り沙汰されています。

そこで、クイズ。

アレルギー発症に関して、寄生虫は善玉でしょうか、はたまた、悪玉?
# ヒントは、このメール中にあり。

> きしもとはあまりエビを選んで食べていないからまだいけるっす。
> # 花粉症は今年デビューしました
やったぁ〜。仲間がまた一人増〜えたっと <ばきっ!
これはやはり病気です。それもとても治り難い、生涯のお友達でーす(^^;
# 多分、そのくらいの覚悟でいた方が良いかと・・・


【[10VALVES:26601] アレルギー】より

ちょっと、ながいです。適当にながし読みしてネ。すんまへん。

Ritsuo Matsushitaさん wrote:
> (前略)
> 私はカレー大好きです。はっきり言って食べ過ぎてます。うちの職場では、
> 「キレンジャー」と言われてます(体型も)。
はっきり言って(笑)、面白すぎます。<ばきっ!

> そのうちカレーアレルギーになってしまうのか?
> うっ、やばい。ちょっとセーブしよう。
毎日食べてれば(そんなアホな!)アレルギーはまず大丈夫、それよりもカレー中毒(習慣性の依存症)がコワイ?

> 私の友人に、下記の症状の人が居ます。
>
> 「牛乳アレルギー」
>
> ありとあらゆる乳製品がダメ。聞くところによると、その人が、まだ母親の
> お腹の中に居るとき、母親が「カルシウム強化だ!!」と言って牛乳を飲み過ぎた
> からだと言う。
これは、やっかいなアレルギーだと個人的に思います。だって、乳製品が使われていない食品あるいは飲料を探すことは大変ですよね。

> 「そばアレルギー」
>
> おそばをまったく受け付けない。聞くところによると、その人の母親が、
> とてもそば好きで、その人がお腹の中に居るとき、母親が、おそばばかり
> 食べていたからだと言う。
そばアレルギーはそのショック症状が極めて急性、かつ全身性で、時には致命的な結果となるようで、あなどれません!>くわやまさん

> 上記の2つ、作り話ではありません!!
>
> これって遺伝関係のやつですか?
残念でした。遺伝的な拘束は精子が卵子に受精した瞬間に決定します。
したがって、妊娠中にあの手この手を試みても(ウフフ)<ばきっ!!
胎児の遺伝情報が改竄されることはまずないです(^^;;;

妊娠中の胎児へのアレルギー面での影響という観点でも、むしろ逆だと思います。

元来、胎児の発生段階では、極めて多数の(概念的にはすべての)生体成分や高分子成分に対して反応するT細胞レパートリーが存在しています。
でも、赤ちゃんがそのまま生まれてしまうと、ありとあらゆる外来抗原は言うに及ばず自身の生体成分に対してもアレルギー様の防御反応が致死的に発動され、その後の生命活動を維持することは不可能です。
これをうまく調整するのが、胎児期の重要なイベントなんです。

すなわち、生きていくのに邪魔な(致死的な応答を誘導する)レパートリーを有するT細胞機能を除外するための調整(negative selection)が胎児期の胸腺という組織で行われます。

もう少し補足すると、お母さんのお腹の中で胎児が暴露された抗原(この場合、お母さんが頻繁に摂取していた蕎麦、もしくは牛乳を想定して下さい)に反応する免疫細胞が、親から受け継いだ遺伝子情報を受けて成熟しはじめます。
ただし、成熟した免疫細胞になるには必ず胸腺組織を通過しなくてはなりません(これは、大人でも同じです)。
ここで、胎児期特有の前述したnegative selectionが機能して強制的に機能排除(要するに、この細胞の発信するシグナルは無視しなさい、っていう命令がinputされる)もしくは死滅させられます(これは、最近、巷でうわさの「アポトーシス」という説が有力)。
この機能がうまく働かないと、生後、自己免疫疾患になったりするわけです。

したがって、妊娠中に遭遇した抗原に対しては、むしろ、不感症になる可能性が高い、というのが定説になっているんです。

ということで、松下さんがお聞きになった話について、以下のシナリオを考えてみました。
元々アレルギー体質で虚弱なお母さんが体質改善を目指して牛乳をガバガバ飲んでた。だけども、松下さんの友人は、胎児期の牛乳アレルギーに関わる遺伝子は、まだおネンネしていた。で、お母さんのアレルギー体質はしっかり受け継いでいた。そして、生後、条件の整ったところで遺伝子が活性化した。まぁ、こんなところかなぁ。
あ、この場合のアレルギー体質ってのは免疫応答の話ではなくて、体質全般のことです。

【[10VALVES:26615] アレルギー】より

"岸本 K太"さん wrote:
> で、売っている薬は一体どのプロセスに作用するのでしょうか?
薬局で売っている花粉症の薬ってのは、ほとんどが抗ヒスタミン剤、もしくは、類似の対症療法薬(くしゃみ、鼻水等を押さえるやつ)です。
医者が花粉症患者に処方してくれる薬も、大同小異。

花粉症の場合の症状にいたるプロセスは;
鼻粘膜への感作肥満細胞の動員 > 粘膜に付着した抗原粒子(例えば、杉の花粉)の感作肥満細胞のリセプターへの結合 > 細胞表面の膜電位の変化 > 肥満細胞内部のヒスタミン等の細胞外への脱顆粒 > 毛細血管内皮系のヒスタミンリセプターへの結合 > 毛細血管の膜透過性の亢進 > 血液の漿液成分(水っ気)の血管外への漏出 > 鼻水、涙、くしゃみ

前述の抗ヒスタミン剤は、ヒスタミンがヒスタミンリセプターに結合するのを競合的に阻害して、以下のプロセスをブロックするわけです。
ですから、花粉症に罹る(感作される)のを防ぐわけではないので、予防効果もほとんどないし、脱感作させるような根本的な治療にもならないんです。

> リセプターに別な物を喰わせられない物か。
うっ、するどすぎる!

実は、この考え方はすべての疾病治療の根底にある思想です。
きしもとさんがここで言ってるリセプターとは、リンパ球表面にある抗原に結合するやつですよね?
事実、そのリセプター分子(TCRという)への結合を拮抗阻害する薬もあります(開発コード:F506、商品名:プログラフ/藤沢薬品工業)。ただ、それをやると生体に必要なその他の免疫応答をも何から何まで強烈に抑制するので、医療スタッフの厳重な管理下において実施される臓器移植とか特殊なケースにしか使われません。
# こんな危ない薬をガバガバ処方されたら、それこそ、たまらん。

ただし、今後、もしも花粉症のみに関与する特殊なリセプターの存在が発見されたなら、夢の治療法となるかもしれませんね。


【[10VALVES:26904] アレルギー】より

Houshaku Atsushiさん wrote:
> うちのカミさんは蜂でショックを起こします。
> まだ、知り合う前の話ですが夏にツーリング中、胸元から蜂が入って刺されてしばらく
> してから呼吸困難、動悸、めまい(というか立っていられない)、体温低下などの
> ショック症状を起こしたそうです。それまではそんな事が無かったので本人も相当
> 驚いたらしいです。ですので蜂の存在にはとても注意を払っています。
コレ、冗談抜きで対策が必要ですよ、宝積さん。
きしもとさんがレスされているように、刺される回数が増すに従って蜂毒成分に対する感作が増強され、その度にショックの程度も重篤になっていくんです。

ショックを起こした時、近くに医者がいれば心配はないんですが、蜂の生活圏は医者のいる街中に限ったことではないので・・・。

因みに、この場合死亡に至る直接の原因は呼吸不全ですので、速やかな気道の確保が必須です。
ただし、交通事故などの場合と違って、気管自体がアレルギーにより浮腫を起こして狭窄しており、簡単ではないんです。
医師の監督下にある場合は、口から、あるいは頚部を切開して人工気道を気管に挿入し、酸素を吸入させるんですが。

うーん、難しいだろうなぁ〜。とても、だれもが出来るってレベルじゃない気がする。

しかる後に、静脈を確保し、急激な血圧低下に対してアトロピン、ステロイド、抗ヒスタミン薬、アドレナリンなどを静脈内注射する・・・。

ここまでやれば、言うことないんですが・・・。

蜂に刺されるってのは、いわば不可避の事態ともいえます。それゆえ、アナフィラキシーショックを起こした際の、救急治療に関する知識の普及と、だれでもが行える手技の確立、ならびに救命用器具の開発が急務に思えるんですが。>宝積さん(^^)

あ、言い忘れましたけど、急性のショック症状は、自然に回復したように見える場合が多いんですが、その場合も、出来るだけ早く医者に診てもらった方がいいです。なんとなく、気分が悪い(血圧が低下してたりする)ってのを本人がガマンしている場合がありますから。


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