第1部:資本の生産過程
第3篇:絶対的剰余価値の生産
第7章:剰余価値率
第1部第5章第2節「価値増殖過程」の例がふたたび示され、これまでの考察をもとに改めて分析される。
彼が雇う精紡工の必要労働は6時間、剰余労働も同じく6時間、それゆえ労働力の搾取度は100%であった。
12時間の労働日の生産物は、30シリングの価値をもつ20ポンドの糸である。この糸価値の8/10(24シリング)だけは、単に再現するにすぎない消耗された生産諸手段の価値(20シリングの価値の20ポンドの綿花、4シリングの価値の紡錘など)によって形成されており、すなわち不変資本からなっている。残りの2/10は、紡績過程中に生じた6シリングの新価値であり、そのうちの半分は前貸しされた労働力の日価値すなわち可変資本を補填し、他の半分は3シリングの剰余価値を形成する。したがって、20ポンドの糸の総価値は次のような構成になっている。30シリングの糸価値=24シリング(c)+{3シリング(v)+3シリング(m)}
マルクスはこの節で、次のような考察を行なっている。
この総価値は20ポンドの糸という総生産物において表現されているのであるから、さまざまな価値要素もまた当然、生産物の比率的諸部分で表現しうるはずである[235]
と。すなわち、より一般的にいえば、
生産物――生産過程の結果――が、生産諸手段に含まれている労働または不変資本部分だけを表現するある分量の生産物と、生産過程でつけ加えられた必要労働または可変資本部分だけを表現するもう一つの分量の生産物と、同じ過程でつけ加えられた剰余労働または剰余価値だけを表現する最後の分量の生産物とに分解すること[236]
は、可能である、と。
上述の例では、20ポンドの糸が30シリングの価値を表現するから、総価値の8/10、24シリングの不変資本部分は、生産物の8/10、16ポンドの糸を表現し、12時間の紡績労働で生産された6シリングの新価値は、あとに残っている生産物の2/10、4ポンドの糸を表現する(消費された労働力の価値、3シリングの可変資本部分はこの4ポンドの糸のうち半分を、3シリングの剰余価値は残りの半分を表現する)、と言うことができる。
さらに、わが精紡工は12時間で20ポンドの糸を生産するから、さきの方法を踏襲すれば、総労働時間の8/10、16ポンドの糸を生産する10時間が不変資本部分を表現し、のこりの2/10、4ポンドの糸を生産する2時間が可変資本部分と剰余価値を表現する、と言うこともできる。
ただし、ここで注意すべきことは、これはあくまで、生産物価値の構成部分を生産物の比率部分で「表現できる」ということであって、とくに、時間で「表現する」ことは、けっして、その表現された時間内にその表現される価値部分が実際に「生産される」ということを意味しない。なぜなら、
精紡工の12労働時間は6シリングに対象化されているのであるから[236]
である。
30シリングの糸価値には60労働時間が対象化されている。その60労働時間は20ポンドの糸のうちに実存するのであるが、この20ポンドの糸の8/10すなわち16ポンドは、紡績過程以前に過ぎ去った48労働時間の体化物、すなわち糸の生産手段に対象化された労働の体化物であり、これに反して、2/10すなわち4ポンドは、紡績過程そのものにおいて支出された12労働時間の体化物である[236]
この、時間比率で「表現できる」ということと、実際にその表現される比率部分の価値が「生産される」のに経過している時間ということとの混同があると、
次のように思い込まされることがありうる。すなわち、わが精紡工は、たとえば彼の労働日の最初の8時間には綿花の価値を、次の1時間36分には消耗された労働諸手段の価値を、次の1時間12分には労賃の価値を、生産または補填するのであり、そしてかの有名な「最後の1時間」だけを工場主に、すなわち剰余価値の生産にささげるのである、と。こうして精紡工には、綿花、紡錘、蒸気機関、石炭、油などをもって糸を紡ぎながら、それと同じ瞬間にこれらのものを生産し、そして、与えられた強度をもつ1労働日をそのような5労働日にするという、二重の奇跡が背負わされる。というのは、われわれの事例では、原料および労働諸手段の生産が24/6すなわち4日分の12時間労働日を必要とし、それらのものを糸に転化するのにさらに1日分の12時間労働日を必要とするからである[237]
この「混同」の典型例が、次の節で取り上げられる“シーニアの「最後の1時間」”である。