曲の章−18『存在定義』
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『決着をつけようぜ主人公!!』
…グラリとルシードの視界が、世界が歪む。
目に映る世界の色が、白と黒が一瞬入れ替わったかのような錯覚を感じてたまらず屋上の柵に寄りかかった。
(なん…だ? 今のは)
突然の目眩、原因は疲れと判断したルシードは悟られぬよう歯を食い縛りランディを睨みなおした。
「…主人公? この馬鹿げたゲームに生残ったから主人公か。くだらねぇな」
「あん? なんだそう言われるのが気に食わないか? だったら鉄骨と共に迷い込んだ異世界の少年がいいか?
それともジョートショップの青年か? 自警団第3部隊隊長ってのがオレにとっても馴染みがあっていいんだがな」
ルシードの全身から何故か汗が噴出す。
「さっきから何を言ってやがる! 俺はブルーフェザー室長、ルシード・アトレーだ」
未だに理解できないランディの発言に対抗する意味を込めてルシードは切り札のカードを切った。
「ああ、それでもいいかもしれないな。唯一名前がついた主人公だ、それでかまわねえさ」
しかしそのカードはランディにとって何の意味もなさなかった。
「…ランディ、お前は誰だ? 俺は、お前を知らない」
もはやカードはない。ルシードはランディを睨みつけながら質問をした。
「あ?」
1度大きく目を見開いた後ランディは楽しげに笑った。
「…くっ、くくく、なんだそうか、そういう設定か」
「何がおかしい!」
「くく、いやスマンな。だったら小僧、貴様はどこまで気づいているんだ、この世界の秘密を?」
ルシードに向けていたボウガンを下し、左手を自身の顔に当てて笑う。
「…ここは俺のいるべき世界じゃねえ。ゼファーもティセも、フローネやバーシア達もだ。住んでいた街は
港湾都市シープクレスト。そして保安局刑事調査部第四捜査室、通称ブルーフェザーで室長をやっている。それが俺だ」
ほう? と呟くランディ。
「どこで気付いた?」
「ブルーフェザーの建物があった。そこで思い出した」
ゼファーと闘った洋館。そこは間違いなくルシードがかけがえのない仲間達と過ごした建物であった。
「ふん、バグか何かだったのかもしれねえな。で、お前はこの世界を何だと思っているんだ?」
「ミッション授業のような物、だと思っている。俺がこの悠久学園でしか知らない連中は別の場所から
連れてこられて同じ様に記憶操作されているんだと推測している」
ミッション授業だけではない。今立っているこの校舎全てがミッション授業である。ルシードはそう考えていた。
「次の質問だ、小僧、お前はどうすればいいと思っている?」
「この馬鹿げたゲームを今すぐ中止しろ! そして元の世界に帰せ。そうすれば半殺しくらいで許してやる」
「元の世界ってのはどこだ? 矛盾しているだろう、お前は自分が住んでいた建物を見たと言った筈だが」
「何を言ってやがる、あれもミッション授業のマップの一つじゃねえか」
「解ってるじゃねえか、そうだ正解だ。ここが貴様が言っている元の世界だ」
「…あ? 何を」
「シープクレストにエンフィールド、最初からここにある。俺達も最初からここにいる。ただ舞台が変わって
俺達がまとめて起されただけだ。そして悠久学園が生まれ新しい役柄が与えられた。貴様が生徒であり俺が
教師ってのがそれだ。ミッション授業? そうだなそう呼んでいいだろう、この世界は俺達を含めてミッシ
ョン授業だってことだ」
「わけのわからねぇ事を…」
ルシードの全身をジワリと汗が滲んだ。
あまりにもバカバカしい話だった。
バカバカしい筈…なのにルシードの体が震えた。
「おい、この毎に及んで貴様はまだ…」
「言うな!!」
バカバカしいと思う。それでも聞いてはいけない話だとルシードの本能が告げた。
しかしランディは楽しげに口元を歪ませ…
「自分が人間だとでも思っているのか?」
そう呟いた。