曲の章−17『ラスト・ステージ』


 

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―――悠久学園保健室

 

ルシードは目を覚ました。

見なれた白い天井と室内に染みついた薬品の臭いでここが悠久学園保健室のベッドである事に気づいた。

「…夢だったってのか?」

 一瞬狐につままれたような顔をしたがすぐさま上半身をベッドから起し、左右を見る。

期待したいつもの顔ぶれ、ルシード本人にとっては不本意な名称であったが『保健室3人組』といわれた他の2人、

アレフとルーの姿を探したがどちらのベッドももぬけの殻であった。

その代わりと言うのは語弊があるが左右を見まわした際、

目に飛び込んだ正面にあった赤い物を再度見直しルシードは息を飲んだ。

「…ああ、そうか、そういう事かよランディ」

ルシードはそう吐き捨てると苛立たしげに前髪をかきあげた。

 

 赤い物、赤い塊…赤い、血塗れの死体。

 

 胸に数本の矢が突き刺さり、白衣を真っ赤に染めた悠久学園の校医トーヤ・クラウドが床に座り込み、

壁に寄りかかった状態でそこにあった。

 正気の沙汰とは思えない狂気のゲーム。

何故そんなものが行われていながら助けがこなかったのか?

その答えの一つがここにあった。

 ルシードは隣のベッドのシーツを剥ぎとりトーヤにかけた。

「わりぃな。全部片付くまでそれで我慢してくれ」

トーヤであった物にそう呟き、ルシードは保健室を出た。

何日振りかの悠久学園の敷地内を見まわす。

「高等部が1番たけぇな」

学園内で1番高い建物である高等部校舎へ向って歩く。

 

学園は…とても静かだった。

 

 

 

――高等部校舎3階

 

 高等部校舎の階段を昇る。また赤い物、背中から心臓を矢で貫かれ、

廊下で崩れ落ち既に冷たくなっていたアリサ・アスティアがあった。

ポタリ、と廊下に雫が落ちる。

「あ?…なん、でだ?」

ルシードは涙を流していた。

(いい人だったと思う。目の不自由なアリサさえも手にかけたランディに怒りも感じる。だが…)

「なんで胸が絞め付けられるぐらい苦しいんだ俺は?」

 自分の意識とは別の感情が自身の中で溢れているような感覚をルシードは感じ、頭を何度も振った。

「何っ!?」

 またも目に何かが映り廊下に目をやる。その先にシェリルが倒れていた。

「シェリル!!」

 駆け寄りシェリルの肩を抱き上げる。微かに、まだ微かに暖かみが残っていたが、ただそれだけであった。

「くっそおおおおおおおおっ!!!!」

 右手を床に叩き付ける。

(あと少し、ほんの少し早く目覚めていれば…)

シェリルの胸に突き刺さった矢を見る。

「ここに、学園にいるんだなランディ!」

そう呟き、シェリルをゆっくりと床に下す。

「わりぃ、仇なんて望んでねぇかもしれないが、今他におもいつかねえんだ」

ルシードは更に階段を昇り、高等部校舎の屋上に向った。

 

 

 

――高等部校舎屋上

 

 学園内で最も高い高等部校舎の屋上に立ち、ルシードはゆっくりと世界を見回した。

世界の果てが見えた。

悠久学園校舎からほんの数十メートル先までしかない世界の果てが。

そして今となってはハリボテでしかない空を見上げた。

 ルシードは見ていた。自分の世界を、ゼファーと戦ったあの洋館を知っていた。

自分の部屋を見て、全てを思い出していた。

ティセが自分に懐いていた本当の理由も、フローネが最後に言った言葉の意味も今なら全て理解出来た。

 

…だから

 

「ゼファー、手紙なんざだせねぇだろこれじゃあ。この世界は…」

 

パチ、パチ、パチ、パチ……

 

何の感情もこもっていないただ手を合わせて音を出しているだけの拍手が屋上に響いた。

「ランディ…てめぇ!!」

拍手の主はこのゲームの管理人であるランディ・ウェストウッドであった。

「まあ待て。まずは祝辞くらい言わせろ」

飛びかかりかねないルシードをランディは薄く笑いながら制した。

「まずはゲーム、生残りはお前だけだ。つまり勝者だな。おめでとう」

「…て…めぇ」

「最後はオレがほとんど片付けちまったんだがルール違反されたんでしかたなくって奴だな。

 まあ実際目処はついてたからなんだが…」

「…?」

 何か今そぐわない発言があった事に気づきルシードは一瞬気を削がれた。

「実際お前だとは思っていたがもしもって事がありえたんでな、こんな回りくどい事をする羽目になっちまった」

「…何を言っている?」

「おいおい、この後に及んでまだとぼけるのか? まあいい。

 それじゃ勝者にスペシャルボーナスゲームだ。当然対戦相手はオレだがな」

「おい! 俺の質問に…」

 矢の装填されたボウガンをルシードに向ける。

 

「さあ、決着をつけようぜ主人公!!」

 

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