曲の章−16『真実の扉5』
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森が広がっていた。
深い、深い闇に包まれた森が。
鉄の扉を開いた先に広がったこの光景を見て、クレアは恐ろしさから震え出した。
「嘘ですわ、だってそんな筈…ありませんもの」
ありえない、いや、あってはいけない。だからクレアは気づかない振りをしようとした。
「私こんな森しらな…」
「よう、振りだしに戻っちまったようだな、クレア・コーレイン」
クレアの言葉を最後まで言わせる事無く、彼女の後ろ、今開いたばかりの鉄の扉から
ランディ・ウェストウッドが声をかけた。
「ランディ先生、これは…」
「なんだお前気付いてないのか? いや違うな小娘、お前は頭が良かった筈だ。
ってことは気付いていねぇ振りをしてるってことか」
クレアはランディをただ睨み続けていた。
「そんな顔をするな。ここまで来ちまったんだ、どうせなら最後まで知っておけ。本当はあの鉄の扉
を見た時気付いていたんだろう? 知りたかったからじゃねえのか? 真実を」
「違いますわ! これは偶然で、この森も、ただの偶然…」
搾り出すようにそう呟いた。
「ふん、なんだ解っていて駄々をこねてやがるのか。…そこの茂みを除いて見ろ。理解はしているんだ、
あとは納得するだけだ。答えを出したら楽にしてやろう」
クレアはランディが指差した茂みに足を踏み入れ、そして絶望した。
小さな、土で作られた簡素な墓がそこにはあった。その小さな土の山の上、この墓の住人を
綺麗にする為、血塗れになったクレア・コーレインのハンカチがそこに置いてあった。
クレアはガクリと膝を付き、そして泣いた。
「あんまりですわ!…こんな、私達は…」
いつのまにか近くにいたランディに振り帰りもせずクレアは嗚咽を漏らしながらそう叫んだ。
「…俺に苦労をかけた罰だ。なにか1つでも真実を言ってみろ? 正解だったら楽にしてやる」
クレアの頭上にボウガンを向けランディはそう言い捨てた。
「私は…私達は……最初から誘拐などされていなかったのですわ」
「…正解だ」
カシュッ!
森に渇いた音が響く。
「真実を知るよりも、殺し合いでもして理不尽に死んだ方がまだマシだったんじゃねえのか小娘?」
2度と返事をすることのないクレアにそう言った後、ランディは鉄の扉の内側へと引き返して行った。
最後の勝者(生残り)へ絶望の祝福をする為に。
悠久学園高等部3−A クレア・コーレイン 脱落