曲の章−14『悠久学園』


 

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気付くと、見慣れた机と青々とした黒板がシェリルの視界に入っていた。

「えっ? ここは・・・教室!?」

キチンと並んだ机と椅子、そして教壇の後ろにある黒板。一つだけ開いていた窓から入り込んだ風が

小さくカーテンを揺らしていた。

「2年A組。私の・・・教室?」

シェリルは溜まった唾を飲み込む。そう、結論は一つしかない。

だがそう思うには先ほどまでの体験はあまりにリアル過ぎた。

(なにか証拠が欲しい、そう、現実を信じる為の・・・)

「あっ!!」

シェリルはそう呟くと先ほどまで体を預けていた机の引出しを漁り始め、一冊のノートを取り出した。

パラパラとページを捲る。

「あったわ!・・・私のノート。書きかけの小説のアイデアノート。間違いないわ、これは現実、

 私ずっと夢を見ていたんだわ」

ノートをぎゅっと抱きしめる。喜びのあまりシェリルはポロポロと涙をこぼしていた。

しばらく泣き続けた後、今度はクスクスと笑い出した。

「フフ、でも今考えると小説のお話になりそう。でもどこかで聞いたような感じだったから真似

 になって駄目よね。でも誰かに・・・あっ! そうよトリーシャちゃん!」

夢で殺してしまった親友を思い出す。思い出すとどうしても会いたくなった。そして夢の話をして

『え〜っ! 酷いやシェリル!! ボクを殺しちゃうなんて!』

そう言って膨れたトリーシャの顔をみたい、そして安心したい。

そう思うとシェリルはいてもたってもいられず立ち上がり、トリーシャの教室へ向かった。

「あ・・・ら?」

トリーシャの教室には誰もいなかった。いやそうじゃない、自身の教室にも。

それどころか先ほどから誰一人として人と会っていない事にシェリルは気づいた。

「今日は学校がお休みだったかしら? そもそもどうして私一人教室で寝ていたのかしら?」

考え込む。嫌な気分だった。全身から汗が噴出し、なんだか胸が苦しくなって吐き気がした。

「いや、だ。・・・誰か、いないの?」

不安になり周囲を見回す。

 

誰もいない。

 

「いやっ!!」

シェリルは走り出した。

「誰か・・・誰でもいい・・・・・・誰でもいいからっ!!・・・きゃあっ!!!」

廊下を走っていたシェリルは何かに躓き転んでしまった。

「いたっ・・・何が?」

振り返り、躓いた何かを見てシェリルは一瞬顔を輝かせ、

 

そして・・・・・・・・・

 

「嘘・・・よ・・・・・・い、や・・・嫌ッ!、もう嫌!!いやあああああああああああああッ!!!」

 

トシュッ!!

 

シェリルの耳になにか乾いた音が聞こえた。

 

なにか遠くで声が聞こえた気がした、

 

 

 

・・・・・・そして何も聞こえなくなった。

 

 

悠久学園高等部2−A シェリル・クリスティア 脱落

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