曲の章−13『エターナルメロディ』


 

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物語は7年前に遡る。

 

 鉄骨の落下事故。昼時のオフィス街にて発生したこの事故は死者0名、重軽症者1名という

結果がその日夕方のTVニュースで一度だけ伝えられた。キャスターのコメントは一言

『オフィス街のこの時間帯で怪我人がたったの一人なのがせめてもの救いですがこのような

 事故がないよう注意して作業して欲しいものですね。では次のニュースです』

次の日には人々から忘れられた小さな事故だった。

 運が良かったのか悪かったと言うかは本人以外答えようがないだろう。

鉄骨の落下に巻き込まれた青年は奇跡的にも外傷がほとんどなかった。

しかしその事に本人のコメントを得ることは出来なかった。

 

 青年は目覚めなかったから。

 

 いわゆる植物状態である。青年の実家が豊かだったからなのか事故を起こした企業が責任を感じたか、

新療法のモルモットとして選ばれたかは定かではないが青年に植物状態からの最新の回帰医療法、

仮想空間没入型特殊端末を利用したバーチャル療法が実施される事になった。簡単に言えば、眠っている人間に

強制的に夢を見させる機械を使って本人を自主的に目覚めさせようという事である。

 夢のプログラムは青年の趣味等を考慮して作られた。

鉄骨の落下事故によって異世界に紛れ込んだ青年が元の世界に帰る為、多くの美少女達や

ライバルと共に冒険し、最後には現実に帰るという物である。

 

結論を言おう。

帰ってはこなかった。

青年は元の世界、つまり現実に戻るよりこの夢の世界を選んだのだ。

つらく、夢のない本当の世界ではなく、厳しくも楽しい夢の世界で生きる事を青年は選んだ。

 

 後に多くの実験を繰り返し、他の分野、娯楽、教育等にこの仮想空間没入型特殊端末は転用される事となる。

その第一号として悠久学園に送られたこの特殊端末は数十名の生徒を選抜して試験的に

テスト運用される事となる。それがミッション授業である。

 

 

ただし、これはあくまで設定である。

 

 

 追記として

 作られた世界があまりにも素晴らしいものであった為か皮肉にも青年が目覚める事のなかったこのプログラム

を関係者はは皮肉を込めてこう言った。

 

 

 

エターナルメロディ(永遠に終わらない曲)と。

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