曲の章−12『蒼天航路4』


92−1(クレア・コーレイン4、シェリル・クリスティア3)

 

『解りました。あなたが本当にその願いを想うのならきっと叶うでしょう』

 

…女神の答えはそれだけだった。

 

「あの…それだけ、なんですか? 本当にトリーシャちゃん達は生き返ったんですか?」

暁の女神はただ微笑むだけであった。

「お願い! 答えて!!」

シェリルは弦楽器を投げ捨てて暁の女神につめよった。

「シェリル様、落ち付いて下さい」

「クレアさん…でも!!」

「私達が感じる願い事をすればいいんです! だってこれはミッション授業なのでしょう?」

「えっ? あ、はい、そう…ですけど……」

 シェリルはクレアにそう説明したし、ルーからはそう説明された。ただどうしてもトリーシャを

刺したあの感触が、目の前でどんどん熱を失っていったルーの体温がシェリルを焦らせていた。

(これは本当にミッション授業なの?)

「暁の女神様、次は私が願い事を言いますわ。私達を…きゃあっ!」

ザクッという音と共にクレアの足元にボウガンの矢が突き刺さっていた。

「ガキども、そこまでだ」

 

ボウガンを放ったのはこのゲームの管理者であるランディ・ウェストウッドであった。

 

 

92−2(ルシード・アトレー4、ゼファー・ボルディ2)

 

「なんで…よけねぇんだゼファー!」

「…」

「答えろゼファー! お前本当はわざと…」

ルシードは突き出されたナイフを持っていた剣で弾き、その勢いのまま剣をゼファーに振り下ろした。

ただそれだけ、それで全てが終ってしまっていた。

「…ルシード、お前に頼みたい事があるんだがな」

ゼファーはそう言うとポケットから1通の手紙をルシードに差し出した。

「これは?」

「婚約者宛ての手紙だ。頼めるか?」

「なっ!? お前そんなの初耳だぞ!?」

「フッ、言っていないのだから知らなくて当たり前だろう」

「そいつになんて言やいいんだ! 俺が殺したと告げりゃいいのか?」

「俺はまだ死んでいないんだがな、ルシード?」

「…」

「俺が保安局を辞めるきっかけになった時の被害者の子だ」

「…そう、か」

ルシードは手紙を受け取った。

 詳しくは聞いていない、ただその事件の結果2人の犠牲者と、両親のいなくなった一人の少女、そして

ゼファーの足の自由と捜査官の能力を奪い、悠久学園へ赴任する原因を作ったことだけは知っていた。

「…この洋館に覚えがないかルシード?」

「ああ、初めて入った気はしなかった。それ以前になんでこの島にこんな洋館があるんだ?」

「ランディに聞いてみたらどうだ? 俺もこの洋館に何故か引きつけられただけだからな。それとルシード、

 俺はわざと斬られたわけではない、あれが今の俺の全力だった」

「…解った」

前のナイフさばきで解る。ゼファーの全力に今の足がついてこなかったのだ。

「…」

「おい、ゼファー?」

「…」

 ゼファーからの返事は無かった。最後まで普段と変わらぬ声量で話し続けていた。

ルシードはロビーに転がっていたライフルを手に取った。

「結局最後まで俺はゼファーを超えられなかったんだな」

寂しそうに、そして少しだけ嬉しそうにルシードは呟いた。

 

 

ライフルには弾丸が残っていた。

 

 

悠久学園3−B担任 ゼファー・ボルディ 脱落

 

 

 

92−3(ランディ・ウェストウッド4)

 

「何をやっている、さっさと殺し合いをしたらどうだ?」

「ランディ…先生」

最後の聖地、暁の女神がいるこの地でランディはボウガンを2人にかまえていた。

「生残っているのはお前等を含め残り4人。勝ち残る確率は1/4だ。悪くない賭けだろう?」

「4人…そんな、たったのそれだけなんて」

「違います、シェリル様が暁の女神にお願い致しましたわ! 皆さん生き返っている筈ですわ!」

「死人が生き返るわけがねぇだろう」

ランディの発言に一瞬絶望を覚えたシェリルは妙な違和感に気付き、ランディを見た。

「クレアさん、早く願い事を!!」

シェリルはそう叫ぶとランディの前に立ちはだかり、両手を広げランディの視界からクレアを隠した。

「なんのつもりだ?」

「どうして先生はここに来られたのですか? 願いが叶わないなら、ルーさんがおっしゃった事が

 デタラメだったなら先生はここに来られるわけがないもの!」

「チッ!」

ドシュッ…シェリルの左肩にボウガンの矢が突き刺さる。

「痛ッああッ…!!」

「シェリル様!」

「クレアさん早く! こんな、こんな痛みトリーシャちゃんに比べれば何でもないもの!」

シェリルは泣きながら、それでも倒れる事無くランディの前に立ち続けた。

「邪魔だガキッ!!」

ランディは立ちふさがるシェリルをボウガンで殴り飛ばし、クレアに迫った。

「…貴様」

ランディの足が止る。殴り飛ばしたシェリルがランディの足にしがみ付いていた。

「そんなに俺に殺されてェのかガキがっ!!!」

ランディはボウガンに新しい矢を装填して足にしがみ付くシェリルに向けた。

 

「私達を元の場所に…悠久学園に帰して下さいッ!!」

 

『解りました。あなたが本当にその願いを想うのなら……』

 

 

光が…

 

 

「しまっ……」

 

 

 

世界が光に飲み込まれた。

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