曲の章−11『蒼天航路3』
91−1(ルシード・アトレー3、ゼファー・ボルディ1)
1秒? 1分? 1時間?
ライフルの引金が引かれ、暗闇の世界に囚われてから実際どれほどの時間がたったのかルシードには
まるで感覚が掴めなかった。
ただカツカツと自分に近づいてくる足音でこの暗闇の世界に時間がある事に気付いた。
(俺は生きているのか? 足音…俺は弾丸が発射された音を聞いたか?)
足音は次第に近づいてきた。
(違う、撃たれてねぇんだ。情けねェ、ビセットが撃たれた姿を思い出して俺は目を瞑っちまっただけだ)
足音は自分の目の前で止った。
(そうだ、この足音はゼファーだ。ゼファーが俺を殺すわけがねぇ。ビセットの時もきっと俺が殺される
と勘違いして撃っちまったんだ。『修行が足りないなルシード』余裕のある笑みを浮かべながら俺を
立ちあがらせる為に右腕を差し出すんだ)
「ゼ……!!」
目を開く。目の前のゼファーは右腕を差し出す事無く、ナイフを逆手に持って振りかぶっていた。
ルシードは反射的にナイフをかわそうと左に動く。
ビュンッ と風を切り裂く音が聞こえた後、ルシードの右肩に激痛が走った。
「ぐっ!!…ッう」
血の止らない右肩を左腕で押える。かわさなければゼファーのナイフは間違いなくルシードの脳天に
突き刺さっていた。
「どういうつもりだルシード?」
ゼファーは不本意な表情と冷めた目でルシードを見つめた。
「あ? それはこっちのセリフだぜ、ゼファー! 何考えてやがるんだ!」
右肩が熱を持ったように熱かった。その熱さ、痛みを叩き付けるようにルシードは答えた。
「…目を閉じた時点で生きることを諦めたかと思ったが違ったのか? ライフルは残念ながら
弾切れだったのでな。ナイフで死んでもらうつもりだったのだが…」
ルシードはぞっとした。ゼファーは微塵も笑っていない本気の目であった。
「参加、していたのかこのゲームに!!」
「そうだ、直接手を下すのはルシード、お前で5人、いやひょっとしたら6人目かもしれないな」
「ゼファーッ!!!!」
ルシードは立ちあがり、ゼファーに剣を振り下ろした。
その剣をゼファーはナイフで受け流し、よろけたルシードの背中を殴り飛ばした。
倒れ掛かったルシードは意地で踏ん張り、ゼファーに向き直り睨み付けた。
「…相手を殺す気もないのなら剣など振りまわさない事だな、隙だらけだ。それとも殺して
欲しかったのだとしたら悪い事をしたか?」
「何でゼファーが殺し合いに参加してんだ! 何で全員が助かる方法を考えねェんだ!!」
ルシードの怒りの篭った目に対して、ゼファーは失望したように見つめ返した。
「…いつまで俺に依存しているつもりだルシード?」
「何!?」
「全員を殺してでも俺は生残る理由がある。そして既に犠牲は出ている。ならば行動は1つ
しかないだろう」
「違う! これ以上犠牲を出さない為の方法を考えればいいじゃねぇか!」
「そんな方法があるのかルシード?」
「それはわからねぇけど、皆で考えりゃいいじゃねぇか」
「…1人犠牲になれば残り30人が助かる方法がある。誰を犠牲にすればいいんだルシード?
俺が決めるのか? 多数決でも取るか? それで生残った連中は幸せなのか?」
「だったら俺が犠牲になればいい。だがただで犠牲になるつもりはねぇ。必ず…」
「ああそうだろうな。能力的にも、俺との関係上でもルシード、お前しかいないんだろう。俺は
お前に犠牲になれと言わなければならないのか?」
「ゼファーお前…」
「だったら今言おう、俺が助かる為に俺に殺されろルシード!」
ゼファーはルシードを刺す為にナイフを突き出した。
「ゼファー!!!!!」
ルシードはそのナイフを剣で弾き返し、そして……
91−2(クレア・コーレイン3、シェリル・クリスティア2)
完成した魔宝を見る。金色に耀く1つの弦楽器が出来あがっていた。
「これが本当の魔宝の姿なんですわね」
「はい、恐らくはこれを持って…」
シェリルはストーンサークル中央の石版に触れる。するとストーンサークルに囲まれた部分全体が
光り輝き、シェリルとクレアの姿を飲み込んだ。
「ここ…は?」
一面に広がる青々とした芝生、遠くに見えるギリシャの神殿のような建造物。
先ほどのストーンサークルとは明らかに別の場所にクレアとシェリルは辿り付いていた。
「ワープゾーン? 間違いありませんわシェリル様! これはやはりミッション授業だったのですわ!」
「ええ! クレアさんのおかげです。これでトリーシャちゃんや…皆が」
「そんな、私など…それよりもシェリル様、この後いったい何をすればよろしいのですか?」
「それはさっきの石版に刻んであったから大丈夫です」
そう言って弦楽器を指で軽くはじく。
ポロロン…
「暁の女神さま、出て来て下さい」
「えっ? あの…」
隣で見ていたクレアが思わず赤面する。そして辺りがまた光に包まれた。
(また光るんですか?)
クレアはそう思ったがあえて口には出さなかった。
『私は暁の女神。人に夢を抱かしめるもの…。あなたの願いはなんですか?』
気がつくと金色の髪をした美しい女性が2人の前に浮かんでいた。
「暁の女神? あのシェリル様、この方は…」
「あのっ! 私の願い…私の願いはトリーシャちゃんを、皆を生き返させることです!」
石版を見ていたせいだろうか? シェリルは迷う事無くこの空に浮かぶ女性にそう願い事を告げた。
91−3(ランディ・ウェストウッド3)
ランディがストーンサークルに辿り付くと、そこには光りの柱が上がっていた。
「バグの分際で荒してくれたもんだな。亡霊にすがるんじゃねえぞ…地獄を見るだけだからな」
(どっちも地獄だ。だったら知らずに死んだ方がまだマシだろうが)
ストーンサークルの中央へ、ランディは光りの柱に飲み込まれた。