曲の章−10『蒼天航路2』
90−1(ルシード・アトレー2)
「…あ?」
ルシードは靴になにかの引っかかりを感じ足元を見る。床の低い位置に伸びていた糸を
踏んでいたことに気付いた。
「しまった! 今度は足も…」
全てを言い終わる前にその部屋にあった2メートルの高さはあろう全ての本棚が
ルシードめがけて倒れた。
ルシードは倒れくる巨大な本棚を間一髪で避け、転がるように部屋を出た。
本棚のあった資料室と思われる2階の一室は溜まっていた埃が舞い上がる。
「あぶねぇ…1階の部屋じゃいきなりへんな人形が殴りかかってきやがったが
今度はこんなトラップかよ! 何を考えてやがるんだゼファーは!!」
「…わからんか?」
「!?」
声のした方向、階段を挟んだ反対側のホールにはルシードにライフルの銃口を向けていた
ゼファーの姿があった。
ルシードの心臓に正確に向けられた銃口によってルシードは一歩も動く事ができなかった。
「ゼ…」
「…」
ルシードの言葉を待つ事無く、ゼファーは無言でライフルの引金を引いた。
90−2(クレア・コーレイン2、シェリル・クリスティア1)
「解らない、解らないんです! ルーさんが言っていたキーアイテムは全部揃えたのに、
魔宝に導かれたこの場所に来ても何も起らないなんて…」
「シェリル…様」
ストーンサークルの中央、5つの魔宝を前に見るからに憔悴していたシェリルにクレアは何も言えなかった。
「クレアさん、やっぱりこれはミッション授業じゃないんですか?
私のした事、もう取り返しがつかないんですか?」
「シェリル様…いいえ、違いますわ! きっと何か秘密があるのですわ。だってそうじゃなければ
…そうじゃなければ私の兄様が簡単に死んでしまう筈がありませんもの」
誰かに聞いて欲しかったのだろう、出会ったシェリルはクレアを敵と疑うことなく現状、魔宝を集めて
いること、ルーのこと、そしてこのゲームがミッション授業である可能性があることを一気に話した。
クレアにとってこのゲームがミッション授業であるかもしれない。といった認識は全く無かったから
シェリルの落ち込みと違い、逆に希望さえ沸いていた。
(兄様は死んでいないかも知れない、セリーヌ様だって、お師匠様やイヴ様の怪我さえも全て
仮想現実かも知れない)
「あのシェリル様、私この魔宝というものそれぞれにまるで接点が見当たらないのですが、
そのあたりに何か意味があるのではないでしょうか?」
「魔宝の…意味?」
「はいそうですわ、シェリル様は小説家ですからシェリル様がお話を作られた時、この魔宝にどのような
秘密を持たせるのですか?」
「物語、私がお話を作るなら…」
シェリルは魔宝の1つ“黄金の左腕”を何気なく手に取った。
「意味…物語の主人公が希望を求めてアイテムを集めて、でも何も起らなくて絶望する。でもそれには理由が
あって、アイテムを集めただけじゃ意味が無くって…でも集めなければいけない理由…あっ!」
「何か解ったのですか?」
シェリルはもう1つの魔宝“白の聖鍵”を掴み、魔宝“黄金の左腕”に持たせた。
カチリと音がする程に2つの魔宝はピッタリとくっ付いて1つとなった。
「やっぱり、やっぱりだわ! この5つの魔宝はパーツだったんです! 全部合わせて初めて本当のキーアイテム
になるんです。クレアさん手伝ってください」
「ええ、勿論ですわ」
そして1つの弦楽器が完成した。
90−3(ランディ・ウェストウッド2)
2人おり重なるように倒れていたローラとシェールを見て、ランディは目を見開いたままだった
シェールの顔に軽く手を当てて瞼を閉じさせた。
「そんな顔しねぇほうがいい。むしろお前は運がいい方だったからな」
こんな最悪のゲームに復習という意味を持たせ、尚且つ本意でなかったとしても目的は果たされ、
さほど苦しむことなくこの世界と決別することになったシェールに向いそう言った。
「ちっ…」
(なかなか骨がある)そんな事を思いながら自分のシゴキに堪えてバレーの練習をしていたシェールの
姿を思い出し、その思いを振り払うように舌打ちすると隣で倒れているローラを見る。
「そうだ、お前も運がいい。結局最後に残っちまった奴が地獄を見るんだからな。どんなに苦しかろうが
さっさと脱落しちまった方が良かったんだ」
寂しそうにそう呟くとランディは再び歩き出した。